第105回 かわさきデザインフォーラム 開催内容

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2015年4月1日

講演テーマ

『社会を創るデザイン』~ピープルデザインの目指すもの

講師

第105回かわさきデザインフォーラム講師須藤シンジ氏

NPO法人ピープルデザイン研究所 代表理事
有限会社フジヤマストア/ネクスタイド・エヴォリューション 代表
須藤 シンジ 氏

講演内容

今回のデザインフォーラムは、社会的マイノリティが自然に混ざりあえる社会を目指して活動しているNPO法人ピープルデザイン研究所 代表理事で有限会社フジヤマストア/ネクスタイド・エヴォリューション 代表でもある須藤 シンジ氏を講師に招き、社会をより良くしながらビジネスを成立させていくヒントをお話しいただき、59名の来場があった。

 講演では、まず須藤氏の自己紹介があった。もともとはマルイに14年勤め、独立。フジヤマストアという会社で、マーケティングのコンサルティング事業を行い、そこで得た利益をネクスタイド・エヴォリューションと、ピープルデザイン研究所の諸活動に使っているという。

まず、話題になっている「渋谷区が同性パートナー証明書を発行する条例案を区議会に提出する」件について説明があった。これはピープルデザイン研究所が渋谷区の研修を2年前に担当した際に出た課題で、ようやく区議会に提出するまでになった、とのこと。ピープルデザイン研究所が取り組んでいる「社会的マイノリティが抱える社会課題を解決する」活動の対象は、障害者だけではないそうだ。例えばこの例のLGBT(性的少数者)や高齢者、日本に住む外国人、旅行中の外国人、さらには妊婦や子育て中の母親も、期間限定のハンディキャッパーといえる、とのこと。

 今回の同性カップルの例では、例えば集中治療室にパートナーが入っているとき、異性であれば婚姻関係がなくても内縁の妻として「最期をみとる」ことができるが、同性では集中治療室に入れてもらえず、最期をみとることができないという。そうした課題を解決するための条例だとのこと。

 次に、「ピープルデザイン」の考え方について説明があった。ピープルデザインとは、「”心のバリアフリー”をクリエイティブに解決する思想と方法論」だという。川崎市とは昨年7月に包括協定を結び、「ヒトづくり」「モノづくり」「コトづくり」「シゴトづくり」の4つの切り口で、ピープルデザインの考え方を活用したダイバーシティなまちづくりを目指し活動をスタート。2024年の川崎市制100周年に向け、今後ダイバーシティ(多様性)を街の強みにしていこう、という活動だという。

まずモノづくりから説明があった。会場に「この中で鈴木さんという姓の方はいますか?」同様に田中さん、高橋さん、佐藤さん、渡辺さん、と聞き、「友達にそれらの姓の人がいる、という方はいますか?」と聞くと会場全員が手を挙げた。次に「この中で障害者の友達がいる、という方はいますか?」と聞くと、7割ぐらいが手を挙げた。これに対して、「いつもはここでほとんどいなくなるんですけどね、皆様はさすがに意識が高い」とのこと。実は最初の姓の人口合計と、障害者と呼ばれる人の数がほぼ同数なのだという。

 須藤氏は息子が3人いて、二男が重度の脳性マヒで生まれてきたのだが、その時に須藤氏には障害者の友人は一人もいなかったという。そして、次男を育てる中で(関わる人々は皆、丁寧だが)、この分野の地味さ、暗さ、どこか閉じたイメージを感じたそうだ。海外の国々を見た時、他国との違いや、大きな違和感を感じたとのこと。

 例えばヨーロッパには古い石畳が多いが、それをお金をかけて平らにしようとせず、むしろ守っていこうという文化だという。街を歩いていると、おしゃれをして車いすで出かけている人々や、その他障害者の方を街中で多く見かけるという。一方で日本は、お金をかけて街中や建物内の段差をなくしているが、街の中で障害者の方を見かけることが少ない。また日本では、車いすの人が電車に乗る時に職員の方々が手助けをするが、海外では周りの乗客が声を掛け合って、助けることが当たり前だという。つまりは、本当のバリアは段差などの物理的なものよりも、人々の「意識」や「心」の中にあるのではないかとのこと。

さらに、日本では特別支援学級として障害者を別のクラスにするのも日本の特徴。欧米先進国ではあまり見られないという。前述のように須藤氏自身、20年前は障害者の友人が一人もいなかったように、日本では幼少期の教育の現場から健常者と障害者の間に距離があり、双方の接触頻度は著しく低い。故に、双方の特徴や犠牲に対して”無知”であることが多く、知らないが故に恐怖を感じる、ということがわかった、とのこと。この状態から、「健常者と障害者が自然に混ざり合う」ことが当たり前の状態にすることがピープルデザインの目指すところだという。

ここで、これまでに手掛けた商品の一部の紹介があった。まず、シューズについて。これは最初に手掛けた商品で、2007年にアシックスとコラボして作った靴とのこと。須藤氏の二男が歩けないと医者から言われていたが、奇跡的に歩けるようになった。しかし専用の靴を装具士さんに作ってもらう必要があり、両方で保険適用後でも数万円もかかったという。さらに、成長してしまうので、年に3回ぐらい買うとのこと。装具士さんには素直に感謝しているが、見栄えが大変地味だったのでインソールだけ作ってもらい、このような商品を作ることにした、という。

2007年にアシックスとコラボして作った靴
ピープルデザインの傘
ピープルデザインのレインコート

他のプロダクトにも通じるその仕組みは以下の通り。

 「マイノリティの人々が抱える課題を解決する商品を、(須藤氏が)ディレクションして、外観を世界のトップクリエイターにデザインしてもらう。そして、今までであればそれをマイノリティの人々に販売していたが、ピープルデザインの考え方では、それをファッションに敏感な一般の人々に売る。なぜなら、マイノリティの市場は例えば障害者は人口の6%しかないのでビジネスとして成立しないから」

このシューズも販路にこだわり、これらの製品のターゲットを次世代、これから父となり母となるファッション感度の高い健常者に置き、ニューヨークのUrban Outfittersと、代官山のオニツカタイガー直営店のみで販売したそうだ。このプロモーションは話題を呼び、多くのファッション雑誌から取材が来たという。例えば当時掲載されたファッション誌のPOPEYEでは、広告を1ページ載せれば約120万円かかるが、このときは1ページで大きく紹介してもらえたそうだ。無料で10誌に載れば、それで約1200万円の価値がある、ということになる。

これだけ販路が少ないにもかかわらず、2週間で5,000足が売れたそうだ。1足12,800円だから、メーカーとしてはこれを作り続けようと考えるのが自然で、事実アシックスでは素材や色を変えて以後7年も販売し続けたという。他人の資本でやる以上、「関わる人々に経済的にメリットがあること」は大変重要だ、とのこと。

この靴を発売開始後、ハンディをお持ちの当事者の方々から「通販はないですか」という問い合わせを多数受けたそうだ。しかしそれに対して「代官山まで買いに来てください」と回答したとのこと。健常者と障害者が混ざり合ってほしいので、この靴を買いに街に出て来てもらい、来る途中で困ったら周りの人に、「手伝ってください」と、言ってもらいたいからだそうだ。

 傘にも多数のポイントがあり、手にした来場者は「たくさんの工夫がある、この留める帯は幅が広くて使いやすいし、ボタンも押しやすい」等と感心していた。そのボタンは子ども用の傘に使われている「安全ろくろ」というものだという。これは爪の長い女性なども押しやすい。その工夫がそのまま、握力の弱い障害者の方にも使いやすい工夫となっている。柄の部分も断面がかまぼこ型になっており、ホールドし易くなっている。

レインコートについては、背景の詳しい説明があった。この商品はレインコート最大手のムーンバット社と協業して商品化したものだが、ライセンス料を頂くビジネスとして確立したという (そこであがった利益は須藤氏のギャラにはせず、全て後述するコトづくりの活動に充てたとのこと)。通常レインコートは6月に売り上げが集中し、その他の季節には売れないが、そこに「7月、8月に売れるレインコートを作りませんか」と持ちかけたとのこと。7月、8月にはフェス=音楽の大型野外イベントが多数あり、そこにはレインコートが必須アイテムだという。その用途を狙ってファッション性の高いレインコートを作ったところ見事に当たり、継続して商品化してくれるようになった。関わってもらうメーカーサイドの本業である売上をどう上げるかを提案することがポイントとのこと。

障害者にも便利な機能も多数、盛り込まれている。まず介護製品などに使われているファスナーを転用し、写真の様に縦からも横からも差し込むことができるものを使っているとのこと。また、コートの最下部にポケットがついているが、これは野外フェスなどで座った状態の時に使いやすい位置であり、イコール車いすを使用している方にも便利なのだという。座った状態では通常の位置のポケットは使いにくいので、このようなポケットを追加したとのこと。

 以上がモノづくりの例の紹介だったが、サンプルは他にも多数持参いただいた。須藤氏は、障害者が一人で街に出歩いていっても、周りが自然に手伝ってくれるような社会を目指したい、といい、そのような次の「Next」、潮流「Tide」を、形成する「evolution」という意味で、社名をNextidevolutionにしたとのこと。

ここで一度会場から質問を受けた。質問内容としては、「かっこいいデザインを作るために、デザイナーを指名しているのか」というもの。須藤氏の答えは「デザインの『キーパーソン』であるクリエイティブディレクターと、有償で契約をしている。彼らのネットワークしているデザイナーを紹介してもらい、そのデザイナーに一人一人オリエンテーションをする。「私たちはこういうもので、こういう活動をしていて、今度こういう商品を企画しているがデザインを受けてくれるか」と。クリエイティブディレクターの目線が前提として入っているので、デザインやコンセプトはぶれない。その人の目を信頼している」ということだった。

 次に、コトづくりについて話があった。8月にラゾーナ川崎プラザソルで行われた映画上映イベント、11万人を集客した10月のカワサキハロウィンパレード、アメフトの富士通フロンティアーズとのイベント写真などが紹介された。その中で、Jリーグの川崎フロンターレとのイベントについて説明がされた。

 日本の人口のうち、障害者といわれる人は約6%にあたる。この6%が当たり前に混ざり合う状態がピープルデザインの目標であるので、フロンターレの試合の運営スタッフのうちの6%の枠、全体が100人なら6人分をピープルデザイン研究所で預かっているとのこと。そして、川崎市役所の皆さんにご協力いただき、イベントごとに就労体験という形で市内の精神・知的障害者の方々に参加してもらっているという。去年1年間で111人が参加したとのこと。障害者にとって、イベントは招待される「もてなされる側」だが、「もてなす側」として参加することになる、この違いは大きいとのこと。

もう一つ、「2020年、渋谷。超福祉の日常を体験しよう展」(通称:超福祉展)という、昨年11月に渋谷ヒカリエ「08/(ハチ)」で行われたイベントが紹介された。イベントの展示物や様子が順にスライドで流され、それぞれに解説が加えられた。例えば「ドレスが似合う車いす」がデザインコンセプトのエレガントな形状の車いす、四肢まひになったイタリア人が、セグウェイを改造してつくった格好良いモビリティ、3Dプリンタを使ったアーティストによる義足ショップ、障害者の問題を解決する技術を転用した「スーパースポーツ」のショップ。他にも多数の展示が紹介され、共通しているのは福祉機器でありながら「かっこいい」ということ。このイベントはテレビ、ラジオ、新聞で多数紹介され、ヒカリエ「08/(ハチ)」の最大入場者数を記録したとのことだった。

まとめとして、須藤氏の考えるピープルデザインのイメージが図示された。「批判ではない、障害者の父として個人的に感じているイメージ」と断りつつ、「バリアフリー」はマイナスからゼロを目指す活動、というイメージ。「ユニバーサルデザイン」はもともとはマイナスから突き抜けてゼロを超えるイメージのはずだったが、現状はマイナスをゼロにする、というイメージに留まっているのではないか?とのこと。ピープルデザインは「みんな違って、みんないい」というスタンスなので、障害者もプラスからスタートし、プラスからさらなるプラスへ、というイメージなのだという。

ピープルデザインが目指すものの説明

マイナス以下にあるものは社会的なコストになってしまうので、一般の人々がほしがるようなかっこいい商品を企画・提案することで、障害当事者の欲求を喚起し、街にファッションを楽しみに出て来てもらうという行動を促す。ワクワクする材料をきっかけに、街に出て来てもらうことで、健常者と障害者の接点を増やす。そこが目指すところだという。

一つの例として、須藤氏が子供のころにメガネを購入した話が出された。須藤氏が子供の頃はメガネは眼鏡屋で計測して特注で作成し、当時保険適用後でも約48,000円したという。しかも、デザインが悪く、そのメガネをかけて学校に行ったら「ガリ勉君」と呼ばれたとのこと。それが今はメガネがおしゃれな雑貨になり、目の悪い人と健常者の間にバリアなどまったくない、これが車いすなどの現在の福祉機器でも起こりえるのではないか、とのこと。

「100万円の福祉機器を、70万円の保険を使い30万円を支出して購入するよりも、30万円が上代(定価)のさまざまなバリエーションから、『かっこいい』福祉機器が選べる方がいい。障害者や高齢者を『患者』として見るのではなく、『顧客』として見た時に、そこは市場となるはずだ。”売れる製品”をメーカーが認識しさえすれば、多数のメーカーが参入してコストも下がり、結果としてそれをもともと必要としていた人がおしゃれで機能的なものを、社会保障費を使うことなく、身近な場所で手に入れることができるようになる。そういう社会を目指している」とのこと。

最後に会場から質問を受けつけたところ、UDを広める職に就いているという方より「UDとの比較でUDはマイナスからゼロを目指す、とあったが、UDは一般の社会からハードルをなくしていこうという動きなので、むしろ矢印が逆ではないか、との指摘があった。それに対し須藤氏も、大変面白い指摘でその通りかもしれない、と話した。

終了後には交流会も実施され、多くの参加者が講師に直接質問をしたり、参加者同士で情報交換をしたりするなど、大いに盛り上がった。

開催日・会場

2015(平成27)年2月16日
川崎市産業振興会館

お問い合わせ先

経済労働局 次世代産業推進室
電話:044-200-0168
ファクス:044-200-3920
メールアドレス:28sangyo1@city.kawasaki.jp
住所:〒210-0007 川崎市川崎区駅前本町11-2 川崎フロンティアビル10階