第108回 かわさきデザインフォーラム 開催内容

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2016年7月15日

講演テーマ

「デザイナーと企業の新たな関係」
~ デザイナーの「越権行為」がイノベーションを起こす~

講師

第108回かわさきデザインフォーラム講師田中一雄氏

講師:田中 一雄 氏

株式会社GKインダストリアルデザイン 代表取締役社長
公益社団法人日本インダストリアルデザイナー協会 理事長
公益財団法人日本デザイン振興会 理事
国際インダストリアルデザイン団体協議会(ICSID)元理事

講演内容

昨今、デザイナーの役割は従来の姿形をデザインする仕事から広がり続けている。今回のデザインフォーラムでは、日本インダストリアルデザイナー協会(JIDA)の理事長であり、GKインダストリアルデザインの代表取締役社長でもある田中一雄氏を講師に迎え、そうしたデザイナーの仕事の広がりとそれをどう活用するかについて講演いただき、180名の来場があった。(かわさきデザインフェアの中で開催)

講演は、まず講師から副題として「経営支援型のデザインの姿」とさらに追加で題し、講演全体としては「GKデザインの紹介」「今日的デザインとは」「グッドデザイン賞12のイシュー」「1つのケーススタディ」の4つの大項目に分けて話すと説明があった。

 

今日的デザインとは

デザインが変わりつつありデザイナーと一口に言っても多種多様な立場になっており、それぞれからさまざまな意見が出て、デザイナー同士でも相互批判的な意見も聞かれる。しかし、昨今取り上げられる新しいデザイナーの役割・価値はもともとデザイナーが持っている能力である。それは、「ユーザーに内在するニーズを『これでしょ?』と見せてあげる」こと、つまり「生活者の潜在的なニーズを発見し、それを価値化し、機能的かつ美的に具現化する」ことである。その方法論が明確になったことが変化なのだといえる。

経営支援型デザイン

現在のデザインという言葉には6つの広がりがある。(デザインという言葉を中心に、6つの方向に広がった図が映し出された。「色彩・形態」「UI/UXデザイン」「サービスデザイン」「ソーシャルイシュー」「デザインエンジニアリング」「デザイン思考」)このうち、UI/UXデザインとサービスデザインは「領域の拡大」、デザイン思考とデザインエンジニアリングは「手法の拡大」、ソーシャルイシューに関しては「視点の拡大」と言えるのではないか。

 

6つのデザインとその事例

「色彩、形態」

ヤマハの大排気量バイク VMAXは、日本から発したアメリカンバイク。この造形は金剛力士像の筋肉の造形を参考にしたとのこと。専門性のある造形力、習熟した能力として、これらのデザイン能力の価値は厳然として存在している。

他の例では、サンヨーで野中ともよさんが社長だった時期に、サンヨー全体を、PIからのブランド構築を行った。その一例に炊飯器がある。当時は性能が良くて売れていたが、見た目がフルフェイスヘルメットのようだった。GKではそれに対し、米を入れる容器ということでおひつをモチーフにしたシンプルなデザインを提案し、成功を収めた。その後、エネル―プソーラー充電器デザインを担当し、Gマークの総理大臣賞を受賞した。

スライド画像

「UI/UX」

UXの話になるとどうしてもアップルの話が出てくる。次の言葉は日経デザイン編の「アップルのデザイン」にあった言葉。「目的を達成させること+ それが気持ちいいこと」

UXはこの言葉に尽きると思う。アップル以外に良いUI/UXの例としては、2014のGマークのベスト100に選ばれた、ソニーの「スマートテニスセンサー」 http://smartsports.sony.net/tennis/JP/ja/ が挙げられる。これはラケットの根本に取り付けてプレーの状態をセンサーで記録するもの。また、サムスンの洗濯機の大きな液晶ディスプレイも新しいUIだ。この洗濯機のように、「その時代に適応する道具のあり方」というものは変化する。

 

「サービスデザイン」

サービスデザインの原点として、千利休の「茶の湯」が挙げられる。実は茶の湯は、打ち水をしておいて客人に涼を感じてもらい、花を飾り目で楽しんでもらい、、、最後のお帰りまで、全ての「タッチポイント」を意識してその場面場面のおもてなしをデザインするという、まさに昨今いわれているサービスデザインの好例である。現代の例では、スターバックスが挙げられる。スターバックスは家、職場に次ぐ「第三の場所(サードプレース)を目指す」と謳っており、単なるコーヒー屋ではなく居心地のよい空間全体をデザインしている。

 

「デザイン思考」

企業はイノベーションが宿命づけられている。デザイン思考が万能な手法なわけではないが、科学的な発想による積み上げがあるため「こぼれが少なく」「新しい発見がある」ことが良い点。また、みんなで考えた、という納得感がある。

イノベーションを促すデザイン思考の4つの思考法としては、

1客観化 (人の行動によりそって考える)

2構造化(文脈を組み替えて考える)

3共有化(チームで考える)

4認識化(具体的に表現する ラピッドプロトタイピング等)

が挙げられる。

こうした考え方も、実は新しいものではない。1の行動を観察して考えることは今和次郎が提唱した「考現学」とも言えるし、2の構造化、3の共有化はKJ法、4は絵コンテ等に代表される。デザイン思考は先人たちの手法をとりまとめて新たな名称を付けたともいえる。

 

「デザインエンジニアリング」

デザインエンジニアリングという言葉も昨今良く聞くが、これの好例も先人にあり、まさにレオナルド・ダ・ヴィンチがその人。モナリザから戦車まで、デザインもエンジニアリングも両方で活躍した。発想には感覚的発想と論理的発想があり、どちらも大切。この二つの発想を1人の人で完結できるのがデザインエンジニア。現代で代表的なのは山中俊治氏。例えば彼がデザインしたOXO社の大根おろし。http://www.oxojapan.com/p-1054-daikon-grater.aspx  この大根おろしの刃は、乱数表を使ってランダムに配置されている。そうすることで職人が作った大根おろしのように、おいしくておろしやすい製品になっている。また、最近急成長しているバルミューダの寺尾社長なども好例。

 

「ソーシャルイシュー」

東日本大震災以降、誰しも社会的な問題と無関係でいられなくなった。例えばGKグループでは、GKがデザインして製品化されていた仮設空間ユニットQS72を100セット、震災後すぐに宮城に提供したが、直接被災者には届かず残念であった。しかし、最終的には仮設救護室やボランティアスタッフの休息室として利用してもらうことができた。

仮設空間ユニットQS72

グッドデザイン賞12のイシュー

グッドデザイン賞では、12の課題を「フォーカス・イシュー」として設定している。日本が世界に先駆けて直面する課題でもある。

1. 地域社会・ローカリティ

2. 社会基盤・モビリティ

3. 地球環境・エネルギー

4. 防災・減災・震災復興

5. 医療・福祉

6. 安全・安心・セキュリティ

7. 情報・コミュニケーション

8. 先端技術

9. ソーシャルキャピタル・オープンアーキテクチャー

10. 教育・伝承

11. ビジネスモデル・働き方

12. 生活文化・様式

 

(それぞれの具体例の説明があったが、このレポートではいくつかを抜粋して記載する)

3.地球環境・エネルギー

一つの例として、少し前にグッドデザイン大賞を争った、パナソニックのLED電球。形状や明るさ、デザインまで、白熱電球とほぼ同じ。LEDを普及させるため、あえてカタチを変えていない。ここが評価された。

 

10 教育・伝承

この例はさまざまな項目にかかってくるが、震災後、かつてここまで津波が来た、という記憶をとどめ続けるために、津波が来たところまで桜を植えている。

 

12 生活文化・様式

地域の石積みの歴史、そういう技術がどんどん失われていく中で、その教室をやったり、ボランティアをやって地域と人を結んでいく、そうした活動。これもグッドデザイン賞。とっくに「色、形」のデザインではなくなっていることがわかると思う。しかし、どうやって人々・社会に幸せな価値を作っていくか、ということは共通。

 

ケーススタディ

GKテックと富士通が共同で開発した事例を紹介する。

社員の方に聴覚障害の方がいらっしゃって、会議でも発言を聞くことができない。それをどうしていくか、という開発プロセス。

 

まず活動を観察し、これはまさに「観察、エスノグラフィ」ですね、誰が何をしてどういう問題があるか、これはまさにデザイン思考。それから「ブレスト」して、簡単なモデルを作って実験し、進めていく。

 

例えば課題の一つは、音が発生しているのか、誰が発言しているのか、ということがわからないということ。それをいかにして知らせるか。振動させたり、風見鶏のような装置を作って、視覚的に示したり、このように実証しながら検証して進めていく。

 

この中にデザインエンジニアリングもデザイン思考もUI、UXも入ってくるし、富士通がこれらを商品として世に出していくにあたってサービスデザインも入ってくる。その背景としてはソーシャルイシューから始まっている。このように、デザインの領域が「色・形」だけではなく、幅広く広がっている例。

 

最後に、二つの言葉を引用する。

紺野 登 氏 「サービスやシステムの中に、モノが埋め込まれていく時代」

従来、製品が単体として存在していたのが、関係性の中で成立しているようになった。

ティム・ブラウン 氏 「デザインは製品開発の中で上流域に移行した」

この言葉に関しては、「移行した」というよりも「拡大した」の方が正しい気がするが。

 

もう一つ、ICSID(国際インダストリアルデザイン団体協議会)が、名称をWDOに変更した。International Council of Societies of Industrial Design から、World Design Organizationになる。つまり、Industrial を取った。これもデザインの広がりを示している。最後に、そのWDOの定義を読み上げたい。(一部略)

インダストリアルデザインは問題解決のプロセスだ。インダストリアルデザインは(中略)異なる専門分野の相互交流的な職能である。人と人をつなげていくことで新しい答えを見つける、ということ。(中略) 問題解決のために創造性と視覚化を駆使して、(中略)新たな価値と競争力を提供する。まさにビジネスとリンクしている。

インダストリアルデザインはその行為の結果が、(中略)より良い世界の創造を目指すものである。人を幸せにする価値をもたらすもの。これが究極のデザインの目的である、ということは変わっていない。

 

本日は今日のデザインがどのように広がっているか、ということを話させていただいた。あれか、これか、ということではなく、従来のデザインは厳然として存在しつつ、多様に広がっていて、その全体像をつかんでいくことで、新しい時代のデザインが生まれてくるのではないかと思う。

 

Q&A

Q: 世界の90%を占めると言われる先進国以外の国の人々のことに対して、何か活動やお考えがあれば教えてほしい。

A: BOP(Base of the Economic Pyramid)の問題は、まさにこれから活動していくべき分野。なかなかビジネスとしてペイしない、と言われているが。GKでもインドとかかわりがあり、クライアントもいるが、本当の底部の方々とは直接にはつながっていない。クライアントがそうした活動をしていることはあるが。しかし、そうした分野は本当に重要。世界の賞でコンセプトアワードというのがある。素晴らしいアイディアも出ている。学校の先生ということで、ぜひ学生の皆さんにそうした世界の賞に挑戦するように働きかけてあげてほしい。

 

Q:自分は川崎のモノづくり企業、というか町工場。デザインも大事だとは思っているが、うちのような小さな町工場にはどうしてもハードルが高い。

A:川崎市のこの事業もマッチングの一つだと思うし、東京都でもマッチング事業をしている。そうした仕組み自体はあちこちにあるので、探してアクセスしてみてはどうか。

 

終了後にはデザインコンペの表彰式があり、その後交流会も実施された。フォーラム参加者とデザインコンペの関係企業、受賞者等、多くの参加者で盛り上がった。

開催日・会場

2016(平成28)年1月29日
川崎市産業振興会館

お問い合わせ先

経済労働局 次世代産業推進室
電話:044-200-0168
ファクス:044-200-3920
メールアドレス:28sangyo1@city.kawasaki.jp
住所:〒210-0007 川崎市川崎区駅前本町11-2 川崎フロンティアビル10階