第111回 かわさきデザインフォーラム 開催内容

ツイッターへのリンクは別ウィンドウで開きます

twitterでツイートする

2017年8月25日

講演テーマ

現場に“気付き”と利益を産み出すデザイン活用術

講師

第111回かわさきデザインフォーラム講師

MASAMI DESIGN co.,ltd 代表取締役 
クリエイティブディレクター、アートディレクター、デザイナー
高橋正実 氏

講演概要

今回のフォーラムは「テクノトランスファーinかわさき2017」の併催行事として行われた。

「デザインは社会の問題解決策の一つ」「ブランドストーリー」等、社会的な言葉や概念を多くこれまで生み、全分野のデザイン全般に渡って仕事をされているMASAMI DESIGN co.,ltd 代表取締役の高橋正実氏を講師に迎え、企業とデザイナーが協業するメリットや上手なデザイン活用方法などをお話いただいた。参加者30名ほどで満員の盛況であった。以下、講演内容概要。

講演内容

自己紹介

MASAMI DESIGN co.,ltdでは、デザインの役割を広い視野で捉えるスタイルで仕事を行っている。割合としては、いわゆるモノのデザイン(プロダクト、企業ロゴ、ファッション、建築など)が半分で、もう半分は、企業や地域や国のブランディングや未来像をつくること。新たな技術や産業を考えたり、それを活性化するためのアイディアを考えたり、時には白書に日本の農産業の未来像について執筆したりもしている。

社会科の教科書にデザイナーが登場

「突然ですが」と前置きし、小学6年生の社会科の教科書の写真を見せた。社会科の教科書にはさまざまな職業の人が登場するが、そこに「デザイナーの高橋さんの話」として自身の仕事やユニバーサルデザインについて執筆している。

20年ほど前、デザイナーという職業が全国の社会科の教科書で登場する事が国内で決まり、デザイナーがはじめて教科書で紹介されることになった。このとき「ユニバーサルデザイン」という言葉はまだない時代。デザインというと、かっこいい・おしゃれなど、なにか個人的な表現と捉えられることが多かったが、そうではなくデザインの中にある「社会を活性化する力」や「社会の問題解決策」としての可能性について伝える内容となっている。

この教科書は完成までに5年かかり15年前から使われているので、最初に学んだ学生たちはいまや20代後半だ。つまり産業の活性化のためにデザインが良い解決策になるのでは、という発想を持った若者が非常に増えた時代に、いま入っているといえる。

点字の印刷技術の発展

デザインと社会や産業の関わりの一例として、教科書にも載せた「立方体(正六面体)のカレンダー」について紹介した。点字の印刷が施された一見するとおしゃれなカレンダーだが、実は沢山のこだわりが隠れた目の見えない人も健常者も使えるカレンダーである。このような使う人を限定しないデザインは、目が見える人も見えない人も「共に」という自身の概念に基づいている。

また教科書には五十音の点字を印刷し、実際に触って体感できるようにした。こうして教科書に点字が載ったのは初めてのことだった。印刷には、カレンダーにも使用した新しい点字の印刷技術を用いた。「人とのコミュニケーションツール」として、とても重要な点字。このような印刷技術の発展が点字の世界にも変化を生んでいった。

高橋氏は小さい頃から地元の墨田区の工場の人たちと交流があり、10代に入ると、「こんなことをやってみたらどうか」とアイディアを現場で話すこともあった。こうした経験は当時の仕事に大いに活かされ、そして現在の仕事のスタイルにも反映されている。

点字の一例のように、ある産業が生まれることで変わる世界があり、それによって世の中全体の概念も変わっていく。ものづくりの現場でのさまざまな気付きが産業を作り、社会を活性化させていく。それが会社の利益にも繋がっていくということを長年に渡って経験していった。

目の見えない人のための美術館ガイドブック

カレンダーは、目の見えない人の団体からどこに売っているか質問がくるほど好評を得た。テレビでも紹介されたため、今度は岐阜県美術館から「目の見えない人のための美術館の所蔵品ガイドブックを作りたい」と依頼を受けた。全二冊あり、一冊目は彫刻作品、二冊目は絵画作品をまとめている。こうした本は今までなかったため、目の見えない人にどう美術を届けるか、その方法を考えながらデザインした。

一冊目では、前述の点字の印刷を応用し、作品のラインを浮き上がらせて印刷した。作品の形を掴むのに、目の見えない人は「正面から見た形」が認識しやすく、弱視の人は「より立体的に見える形」のほうが認識しやすいため、作品ごとに角度を変えて撮影した写真を用い、最適な見せ方を考慮して制作している。その他にも文字の選定や文字組みの方法、レイアウトの仕方など、常に相手にとってどのような表現が最適かを考えて制作している。

また二冊目では、色面分割やテクスチャーを変えた印刷で、絵の解説に挑んだ。

こうしてガイドブックが完成して、何より大きかったのは「目の見えない人が外に出た」ことだった。目が見えないと外に出たがらない人が多いのだが、この本の存在を知り、全国からバスツアーが組まれるなどして多くの人が来てくれた。

このように反響があると、次の段階として、似たような本が出回るようになる。これらに対しては、真似するだけではなく、真似たものよりさらに良いものにしなければならないと思う。その時には良くても、そのまま作り続ければ当時のクオリティで止まったものばかり増えていってしまう。私たちは「あるものに頼って発想しがち」だが、そうではなく常に人の立場に立って「ある問題を解決したい」というところから考えていくと、自ずとオリジナルなものが産まれる。

『工場へ行こう!』を通して

高橋氏の著書『工場へ行こう!』(美術出版社)の中から、複数の事例(可食印刷、EL印刷、木目印刷などの技術)についてエピソードを交えて紹介した。この本は20年ほど前に始めた連載を書籍化したもの。当時の工場といえば、現在のような工場見学はなく、同業者でもお互いの工場に入ることは少なく、とても閉ざされていた。そんな現状に対し、日本のものづくりの凄さ、かっこよさ、未来を担う技術を伝えたいとの思いから始まった。毎回ひとつの工場を高橋氏が訪れ、そこの技術を使ったアイディアを出し、実際に一緒に作るという構成。その分野にまったく詳しくない人でも楽しく読める内容になっている。

未来を想像し、そこに向けてステップアップする

次に、高橋氏が表した、過去・現在・未来を木に見立てた図を見せながら話した。

地面から木が生えていて、地中には木と同じ分だけ根が伸びている。実際に木は、根っこと同じ分だけ枝も大きく育つそうだが、この図でも地面を境に木と根は上下対称に育っている。

そして、根=これまで(過去)、地面=現在、枝や葉や花=これから(未来)を表している。

ここでこの木に、企業や人を当てはめる。これまでの経験や歴史の「根」を伸ばせば、「枝」も自ずと増えていく・・・となれば良いが簡単ではない。枝を広げるには、地面(現在)の位置から、葉が茂って花が咲いている未来を想像しなければならない。そしてその未来像を意識して、現在を矯正して、枝が上へ広がるように持ち上げていかなければならない。

木がある程度大きくなると、しばらくは安定した時期を過ごせる。しかしその内、また停滞が訪れ、成長がとまってしまう。そこでまた矯正が必要になる。この繰り返しが続いていく。

矯正して枝を上へ広げるには、過去の歴史や文化や仕事を知ることで、現在・未来が見えてくる。その未来像から、現在何をすべきかを逆算して考えること。多くの人とともに未来像を共有して進んでいくことも大切。

最後に、例えば皆さんが今、「何を作ったらいいかわからない」「今までと全く変わってしまった」という事態に直面することもあるかもしれない。そんな中、日々のニュースは絶えることなく、社会の問題は増え続けている。もしそこで、なにか解決したいと思えることが皆さんにあったら、それがきっと皆さんの仕事であると思う。産業やものづくりから日本をよくするという発想は、実はたくさんできる。

 

他にも、多くの仕事を写真やエピソードとともに紹介していただいた。来場者にとっても、現状への気付きや、未来を描くヒントになるような内容が詰まった講演であった。

2017年7月13日セミナー開催風景

セミナーの様子

開催日・会場

2017(平成29)年7月13日
かながわサイエンスパーク

お問い合わせ先

経済労働局 次世代産業推進室
電話:044-200-0168
ファクス:044-200-3920
メールアドレス:28sangyo1@city.kawasaki.jp
住所:〒210-0007 川崎市川崎区駅前本町11-2 川崎フロンティアビル10階