意見表明

「川崎市の不登校対策等について」


T 意見表明に至る経緯
   今、学校では、様々な問題がある。それは不登校、いじめ、学級崩壊、校内暴力等々であり、それぞれに対応した工夫がなされ対策が講じられている。その一方、教師の指導力が問われ、特に不登校、いじめについては大きな問題となっている。
 川崎市人権オンブズパーソンは、市民の理解と相互の協調のもと、子どもの権利の侵害に関する相談・救済を行っているが、問題となった出来事だけでなく、学校や家庭等子どもをめぐる背景事情を探り、子どもの最善の利益と笑顔を求めて活動している。
 そのなかで、義務教育課程の子どもが、いじめやその他友人関係、教師との関係で起こるトラブル等で傷つき、この解決のために求めた学校側の対応が不適切であったために、より傷を大きくしてしまったり、親子関係など様々な原因から結果として登校が困難になっている多くの例に接してきた。
 不登校児童生徒への初期段階における適切な対応により登校が可能になれば良いが、その時期を過ぎると傷ついた児童生徒にとって、登校を促す保護者の言葉や態度が逆効果になったり、学校側の働きかけにも拒否反応をみせ、教師の配慮で差し向けられる友人たちの訪問にも応じられなくなってしまうことが多い。
 相談・救済事例を積み重ねるごとに、児童生徒が深い精神的な傷を残さず、有意義な学校生活を送り、好ましい人格形成を行うには、不登校やいじめ、非行などを生まない学校をつくり、児童生徒がいきいきと生活できること、つまり未然の防止対策が最も重要な課題と確信するに至った。
 そして、不登校となった児童生徒に対する対策は、児童生徒が学校から回避するという視点で行うのではなく、前向きの、自立した社会人として生きていくために必要な資質・能力を身につける機会を保障し、義務教育以降の足がかりとして着実に機能する内容であることが求められる。このような問題意識のもとに、学校等の調査を実施した。



U 調査結果から見えてきたもの
 
 不登校に関する資料等を調べる中で、次のようなことがわかった。
  (1)  平成17年度の川崎市の不登校児童生徒数は、小学生191人(出現率0.28%)、中学生1,208人(出現率4.19%)であり、中学生については全国の出現率の2.75%を大きく超えている。(「川崎市の学校―平成18年度学校基本調査結果―」:川崎市)
  (2)  不登校になるきっかけについて、全国の小・中学校の状況を見ると、「学校生活に起因」と「本人の問題に起因」のうち、その他本人にかかわる問題(直接のきっかけは見当たらないが、不安、緊張が原因になっているもの)を合わせると小学生が50.7%、中学生が70.0%となっている。(「平成17年度児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」:文部科学省)
  (3)  中学生の多くが「学校に行けない」、あるいは「学校に行くのが嫌だ」という登校回避感情、もしくは「学校に行きたくない」という学校忌避の感情をもっていることが明らかとなっており、学校が児童・生徒にとって魅力ある存在になっていないことが見てとれる。
 魅力ある学校をつくり、登校回避感情を減らし、不登校・いじめへの対応に有効な試みは全国様々な形で行われているが、先行事例として、川崎市立臨港中学校、岡山県岡山市立岡輝中学校・清輝小学校、愛知県扶桑町立小・中学校、福岡県那珂町立小・中学校の取組みを調査した。
 その結果、学校の状況を良い面も悪い面もありのままに地域に発信して、協力をお願いし、様々な地域の行事、学校のイベント等を児童生徒、学校、保護者、地域が一緒に取組んでいくことで、互いの関心・理解と信頼が生まれ、荒れていた学校が落着きを取り戻したり、魅力的な居場所として再生したことがわかった。また、「シニアスクール」等を学校で実施することで、大人の生涯学習の場としてのみならず児童生徒の社会学習、教員の意識改革につながり、相乗効果をあげている例もあった。それらの取組みが成功を収めた要因の一つとして、キーパーソン(校長、教頭、地域の人、保護者等の優れたコーディネーター)がいたことがあげられる。
 川崎市においては不登校・いじめ問題について、不登校対策推進事業、「フリースペースえん」の運営、家庭訪問相談員の配置等、積極的に様々な取組を進めている。しかし、それらの施策は効果をあげながらも、なお問題が複雑化、長期化するなど多くの課題を抱えている。
  (1)  過去の事案では、担任教員が相談者の気持ちを十分受けとめきれず、時には相談者の問題点を指摘したり、本質を理解できないでうわべだけの解決に終始したりするなどの不適切な対応が目立つ。適切な初期対応こそ早期解決の道である。また社会資源をよく知って、児童生徒の状況に合わせて紹介していく必要があり、その任の多くを担う教職員の研修の充実が課題である。
(2)  スクールカウンセラーは全中学校に配置されているが、1配置校につき1週間あたり8時間の勤務体制である。問題が発生した場合には効果的な 活用ができるよう、状況に合わせた柔軟な対応が望まれる。
(3)  小学校に配置されている心のかけはし相談員は7校のみだが、小学校での課題も大きくなっており、また、1人担任制の限界も見受けられるので各校への配置について検討の余地がある。
(4)  ゆうゆう広場については、小・中学生が合同のクラスである点、相談員の年齢層が高い点、市内3か所の設置である点について改善の余地がある。
(5)  相談指導学級は、市内2か所のみの設置であり、また、教室の数や広さが不十分であるので、地理的な条件を考慮した、ゆとりのある環境を確保することが大切である。
(6)  家庭訪問相談員の機能の充実と増員の検討が求められる。



V 意見表明
   不登校やいじめをなくすことは、それが複雑な要因に起因していることを思えば、容易ではない。児童生徒に豊かな学校教育を保障するために、より根源的な視点に立つことが求められる。
 現代社会は、人々がそれぞれ、社会や所属する集団等に対して所属する意味を探求する社会であるといわれる。また、同時に人間関係が希薄な社会といわれている。心を通わせ、生きた言葉や感情を交流し合う関係が、信頼関係を生む基本である。日常のこのような関係が希薄なために、傷つきやすく、また傷ついた心の回復が図り難く、登校回避感情を生む原因ともなっていると考えられる。
 人権オンブズパーソンの活動の中で実感するのは、核家族で、多くの親子が孤立して生活し、児童生徒が自分の親と教師以外の大人と接することなく成長する傾向があり、コミュニケーションが不得手な子どもが増えていることである。これは児童生徒間のみならず、教員・生徒間、保護者間、保護者・教員(学校)間も例外ではない。
 学校現場が人と人との信頼関係を築く場になるために、学校、児童生徒、保護者、地域社会のそれぞれが、信頼関係を実感できる取組みを行う必要がある。このことによって、児童生徒に登校回避感情を持たせない、「魅力」ある学校が実現する。
 不登校を経験して成長した人たちが義務教育を受けた時期を振り返って、「学校は、勉強をし、仲間との交流を通して人間関係を学び、楽しいことをたくさん経験させてくれて、社会生活に直結できる能力を学ぶことのできる場であって欲しかった」という感想を語っているが、このように望まれる場所こそ、「魅力」ある学校の姿である。
 地域の学校に関する情報は、地域の人々の関心が高いにもかかわらず、児童生徒を送り出している保護者でさえ分かりにくい場合が多い。情報不足の中で憶測により誤解を生じ、実態と異なるイメージが伝わってしまう場合もある。学校側のオープンな情報の提供があって、初めて保護者や地域の人々の理解と協力が得られるのである。
 地域に開かれた学校づくりや、地域の人たちが学校に協力する取組みは全国で様々な形で行われているが、一般的にはコミュニティ意識が希薄な中で、取組みが消極的になっている現状が見受けられる。
 人権オンブズパーソンは、不登校・いじめ対策の第一は不登校・いじめを生まない、つまり不登校・いじめを未然に防止できる学校づくりを強力に推進すること、そして第二は、川崎市が、今行っている対策が児童生徒の義務教育後の足がかりとして着実に機能するよう充実・発展させることであると考える。
 これらを踏まえ、川崎市人権オンブズパーソンは、同条例第19条第2項の規定に基づき、次のとおり提案するものである。

 すべての児童生徒が楽しく通学できる魅力・引力のある学校づくりをめざすことが不登校・いじめの未然防止のためにも不可欠である。
 
 魅力ある学校づくりは、学校、児童生徒、保護者、地域社会が一体となってつくり上げることが、特に有効と思われる。そのために、
(1)  学校が置かれている現状についての情報をありのままに保護者や地域へ発信すること。
(2)  学校は、楽しく魅力ある学校をつくるための取組を保護者、地域社会と一体となって行うように働きかけること。
(3)  地域教育会議・学校教育推進会議を積極的に利用すること。
 
 上記取組を実践し成功させるためには、学校、保護者、地域社会をつなぐ要となるコーディネーターを学校に置くこと。
 コーディネーターは実効性、継続性の観点から、市が強いリーダーシップをもって育成すべきである。このコーディネーターには、校長・教頭・主任など既存の職を充てることも考えられるが、ベテラン教員や意欲的な若手教員など適材適所による方法もある。コーディネーターの役割を明確にするとともに、有効に機能するように態勢を整える必要がある。
 

 不登校になった児童生徒が、希望を失うことなく成長するために、学校教育の中でこそ得られる体験をし、生涯学習を支える学力を身につける機会をより一層拡大させること。
 不登校となった児童生徒は、将来への不安を抱えて生きている場合が多い。将来、どのような仕事を選択するにせよ、基礎的な学力や社会性が必要である。通常級から離れても、不安に陥ったり、希望を失ったりすることのないよう、義務教育制度の趣旨に基づく権利を最大限保障すべきである。そのためには不登校の対策が、児童生徒に対して自立した社会人として生きていくための資質・能力を身につけさせる内容を持つ必要がある。それでこそ、再チャレンジが可能となる。
 
 川崎市の義務教育課程での不登校等の対策を充実させること。
 学校において直接児童生徒を支える立場にあるすべての教員等がいじめや不登校の兆候をすばやく感じ取り、適切に対応できるように研修を充実するとともに、保健室の整備、不登校児童の学校以外での居場所の確保等、不登校児童生徒を適切に支援するための事業・施策をより一層充実させることが求められる。


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