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副業・兼業する従業員の労務管理について(2021年8月号)

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2021年8月1日

コンテンツ番号131088

副業・兼業する従業員の労務管理について

社会保険労務士 菊川 洋平

このページは広報紙「かわさき労働情報」のインターネット版です

 副業・兼業を希望する人は年々増えており、国も法改正を含めて積極的に副業・兼業の普及促進を図っています。これに追随する形で、新たに副業・兼業を解禁する会社も増えています。皆さまの会社はいかがでしょうか。

 副業・兼業を認めることによる会社のメリットは、「従業員が社内で得られないスキルや経験を獲得できる」、「会社のイメージアップが図れる」、「優秀な人材の流出を防げる」などさまざまです。一方、副業・兼業を認めることによって「従業員の労務提供に支障が出る」、「情報漏洩のリスクがある」といったデメリットが生じる可能性があることも事実です。ですが、このようなデメリットを恐れず、十分に留意し対策したうえで、副業・兼業のメリットを会社の成長に結びつけていくことが世の中の労務管理の大きな流れではないかと思います。

 本稿では、従業員の副業・兼業を認めるにあたって「何から始めれば良いのか」、「留意すべき点は何か」について整理します。1つ1つの論点を深堀りするというより、論点を漏らさないことに重点を置き、広く浅くまとめています。実際に副業・兼業を認めるにあたって各論で迷ったときは、お近くの社会保険労務士もしくは労働局等の行政機関にご相談することをお勧めします。

1.副業・兼業を認めるにあたって初めにやるべきこと

 まず、副業・兼業を認める方向性で就業規則などの規定類を見直すことから始めると良いでしょう。具体的には、副業・兼業に関する条文を新たに設けて、原則認めることとするほか、必要に応じで禁止または制限ができる場合について明記することもポイントになります。厚生労働省のホームページでモデル就業規則が公開されていますので、参考にしてください。

 併せて、従業員から副業・兼業の有無や内容について会社に申告できるように、届出制などの仕組みを作っておくことが望ましいです。その理由は、労働時間や健康の管理、労災事故対応などを行う際に必要となる情報を、あらかじめ会社が把握しておくためです。

 また、上記のようなルールの整備だけでなく、会社全体として副業・兼業を認めるという雰囲気づくりをすることで、従業員が正しい情報を会社に申告できる環境を整えることも重要なポイントになるでしょう。

2.副業・兼業を禁止または制限できる場合

 従業員が労働時間以外の時間をどのように利用するかは基本的に従業員の自由です。しかし、一定の場合には例外的に副業・兼業を禁止または制限でき得ることが裁判例で示されています。ここでは、会社運営に支障のある場合には、副業・兼業を禁止・または制限することが可能であることを確認してください。

<例外的に副業・兼業を禁止または制限できる場合(裁判例より)>

(1)労務提供上の支障がある場合

(2)業務上の秘密が漏洩する場合

(3)競業により自社の利益が害される場合

(4)自社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合

厚労省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」P8より転載

https:www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000192844.pdf外部リンク

 なお、上記は会社を守るという観点では重要なポイントですが、一方でこれを拡大解釈して、必要以上に副業・兼業を制限することも適切ではありません。従業員とよく話し合ったうえで、上記のような恐れがあるかどうかを慎重に判断するようにしましょう。

3.労働時間管理(通算)

 従業員が副業・兼業する場合、自社と副業・兼業先それぞれの労働時間を通算して管理する必要性が出てきます。ここでは、労働時間の通算の要否や方法について解説します。

(1)労働時間の通算の要否

 自社と副業・兼業先ともに労働基準法の労働時間規制が適用される場合には、自社と副業・兼業先それぞれの労働時間を通算して管理する必要性が出てきます。逆に言うと、労働基準法の労働時間規制が適用されない場合は通算する必要はありません。例えば「フリーランス」、「起業」、「他社の管理監督者」といった形態で就業する場合がこれにあたります。どのような形態で副業・兼業するのかを、従業員に正確に確認するようにしましょう。ただし、通算の必要性がない場合においても、従業員からの申告によって就業時間を把握し、過労に繋がるような長時間労働を防止するよう配慮することが望ましいです。

 なお、36協定や健康確保措置など、労働時間を通算しない規定もありますので、ご注意ください。

(2)労働時間の通算の方法

 自社と副業・兼業先それぞれの労働時間を通算するルールはやや複雑です。通算ルールは「所定労働時間の通算」と、「所定外労働時間の通算」の2つに大別されます。ここでは原則のルールをご紹介しますが、これとは別に運用上の負荷を軽減するための簡易的なルールが認められることにも触れます。

 まず「所定労働時間の通算」のルールですが、自社と兼業・副業先の所定労働時間を通算した結果が法定労働時間を超える場合、その超えた部分については、雇用契約を後から締結した会社側の時間外労働となり、割増賃金の支払い対象となります。具体例を下記に示します。


図:厚労省「副業・兼業の促進に関するガイドライン(わかりやすい解説)」15頁より転載。
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000695150.pdf外部リンク

次に、「所定外労働時間の通算」のルールですが、雇用契約の締結順とは異なり、所定外労働時間の発生順とされています。具体例を下記に示します。

 「所定労働時間の通算」、「所定外労働時間の通算」のいずれの場合も、法定労働時間を超えて労働させる場合の36協定は、法定労働時間を超えて働かせる個々の会社にて締結しておく必要がありますので、注意してください。

 なお、副業・兼業の日数が多い場合や、自社と副業・兼業先の両方で所定外労働時間が発生するような場合、上記の原則のルールを適用すると会社の運用負荷が高くなることが考えられます。この運用負荷を軽減するために「管理モデル」という、労働時間の通算を簡易的に行う方法が認められています。具体的には、自社と副業・兼業先の会社それぞれの労働時間にあらかじめ上限枠を設けて、それぞれの会社がその上限枠の範囲内で従業員に労働させる方法です。この方法を用いると、自社と副業・兼業先のそれぞれの労働時間が互いに影響を受けないようになり、労働時間の管理や割増賃金の計算がしやすくなります。


厚労省「副業・兼業の促進に関するガイドライン(わかりやすい解説)」P19より転載。
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000695150.pdf外部リンク

4.健康管理

 副業・兼業を行う従業員の場合、抱える全体の業務量や就業時間が過重になりやすく、健康確保の観点で特に注意が必要です。会社と従業員がこまめに情報交換することにより、過労で健康を害していたり、自社の業務に支障が出ていないかを定期的にチェックするようにしましょう。また、チェックが形骸化しないために、例えば「従業員に対して健康の自己管理を指示する」、「心身の不調に関して会社が相談を受けられる体制を作る」、「自社と副業・兼業先の通算の労働時間を把握し、必要に応じて時間外・休日労働を抑制する」といった、具体的な行動に結びつく対応を取れるようにしておくことが望ましいでしょう。

 現時点の法令では、長時間労働者に対する面接指導や一般健康診断などの健康確保措置の対象者選定にあたって、副業・兼業先の労働時間を通算することとはされていません。ですが、副業・兼業の状況を踏まえて、必要に応じて法律を超える健康確保措置の実施を検討することが適切でしょう。

5.労働・社会保険の取り扱い

 従業員が副業・兼業する場合、労働・社会保険の取り扱いはその種類によって異なります。ここでは、労働・社会保険の種類ごとに、法改正にも触れながらその取扱い方について解説していきます。

(1)労災保険

 まず前提として、従業員が副業・兼業しているかどうかに関わらず、労働者を1人でも雇用していれば労災保険に加入する必要が従来からありました。このルールは変わっていません。

 副業・兼業する従業員に労災事故が発生した場合、従来は労災事故が発生した会社分の賃金額だけで保険給付額を算定するルールでしたが、2020年9月の法改正後は、自社と副業・兼業先の両方の賃金額を合算して保険給付額を算定するルールに変わっています。今後もし、副業・兼業する従業員について自社で労災事故が発生して労災請求する場合には、副業・兼業先の賃金額も確認するようにしましょう。逆に、副業・兼業先から賃金額を確認されることもあり得ますので、確認された場合は回答できるように準備しておくと良いでしょう。

 また、労働時間やストレスなどによる傷病等に関しても、従来は会社ごとに業務上の負荷を評価して労災認定を判断するルールでしたが、同法改正後は、自社と副業・兼業先の両方の業務上の負荷を総合的に評価して労災認定を判断するルールに変わっています。


図:厚労省「複数事業労働者への労災保険給付(わかりやすい解説)」P4・5より転載
https://www.mhlw.go.jp/content/000662505.pdf 外部リンク

なお、上記の法改正は労災保険のメリット制には影響しません。例えば、副業・兼業先で労災事故が発生した場合、副業・兼業先の賃金額に相当する保険給付額だけがメリット制に影響し、自社には影響しないこととなっています。この点もご認識のうえ対応されると良いでしょう。

(2)雇用保険

 雇用保険に関しては、労働時間などの加入要件は従来から変わっていません。そのため副業・兼業する場合においても、現状では労働時間は通算せず、個々の会社ごとに加入要件を判断するルールとなっています。ただし、2022年1月からは。65歳以上の従業員については申出ベースで、複数の会社の労働時間を合算して雇用保険の加入要件を判断するルールに変わる予定です。該当する従業員がいる場合は、今から対応を準備しておくと良いでしょう。

(3)健康保険・厚生年金

 健康保険・厚生年金に関しては、現時点で従来からのルールの変更はありません。健康保険・厚生年金への加入要件となる労働時間については、副業・兼業先とで通算する必要は無く、個々の会社ごとの労働時間で加入要件を判断することになっています。

 また、複数の会社で健康保険・厚生年金の加入要件を満たす場合は、両方の会社の報酬額を合算して標準報酬月額及び保険料を決定するルールとなっています。副業・兼業する従業員が増えることによって、複数社の報酬額合算のルールに該当する従業員が発生しやすくなるとこが考えられますので、可能性があるような場合は対応を準備しておくことが望ましいでしょう。

以上、副業・兼業する従業員の労務管理を行うにあたって、「何から始めれば良いのか」、「留意すべき点は何か」について解説しました。本稿が、副業・兼業の導入を検討するきかっけになれば幸いです。

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