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ギグワークの拡大と労働者としての保護を考える(2022年4月号)

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2022年4月1日

コンテンツ番号138113

このページは、広報誌「かわさき労働情報」のインターネット版です。

沼田 雅之(法政大学法学部教授)

1.テクノロジーの発展と新たな働き方

 新型コロナウイルス感染症の拡大は、就労形態の多様化を促進させています。フードデリバリーが盛んになり、大きな鞄を背負った自転車やオートバイのライダーが街中に溢れています。これは世界的な傾向でもあり、フードデリバリーのほか、ライドシェアも一般的に見られるようになりました。また、フードデリバリーといった特定の仕事ではなく、プラットフォーム上でさまざまな仕事が受発注されるクラウドソーシングも拡大しています。

 これらの新しい働き方を支えているのがインターネットであり、就業者と利用者をマッチングさせるプラットフォーム(ウェブサイトやアプリケーション)技術の発展です。そして、このようなテクノロジーに支えられた新たな働き方は、就業者の意識の変化=時間や場所に拘束されず、自由に働くことを求めるフリーランサーの増加とも相まって、多くの就業者に受け入れられているのです。このような新たな働き方は、好きな時に一時的に働くという特徴を捉えて、ギグワークともいわれています。

2.ギグワーカーは労働者か?

 ギグワークに従事している就業者の多くは、個人事業主扱いされています。つまり、働き方の自由度は高いものの、事故などがあった場合の責任は就業者が負わなければならないとされています。考えてみれば、フードデリバリーもライドシェアも、以前から同種のサービスがありました。前者は出前ですし、後者はタクシーです。これらのサービスに従事する就業者の多くは、雇用された労働者であったはずです(他国では、タクシードライバーは労働者ではないとされているところもあります)。ギグワークは、従来労働者が担っていた仕事を、個人事業主=「名ばかり経営者」に置き換えたという側面があることも事実です。

 そのため、これらギグワークに従事している就業者を、「労働者」として扱うべきではないかということが、世界的規模で議論されているのです。

3.海外の動向

 海外では、フードデリバリーやライドシェアといったギグワークに従事している就業者は、各国の労働法上の労働者であるとする最高裁判決が相次いで出されています。イギリスでは、2021年2月19日の最高裁判決で、ウーバーのサービスを利用した運転手について、「ウーバー社が料金、ドライバーとの間の契約内容、アプリを通じたドライバーによるサービスの提供、あるいは乗客とのコミュニケーションに至るまでを管理しており、ドライバーが自らの事業としてこれに従事しているとはいえない」ことを理由として、「労働者(Worker)」であると判断しました。また、フランスやスペインでも、フードデリバリーやライドシェアのケースで同様の判断がなされています。ドイツでは、クラウドソーシングによって顧客から受託した業務(商品陳列棚の写真撮影等)に従事した就業者は労働者であるとされています。

 これらの判決だけでなく、立法によって対応しようとする動きもあります。

  • アメリカのカリフォルニア州では、3つの条件で定義される独立自営業者であることを使用者が立証できない限り、被用者(労働者)として扱うという法案(AB5)が成立しています。ただし、その後の住民投票で、一部のプラットフォームで就労している就業者には適用されないとされました。
  • フランスでは、プラットフォームを通じて就労している個人事業主に対して、団結権等を認め、さらに一定のプラットフォームに対して労災保険や職業訓練に対する費用負担を命じるという施策が導入されています。
  • スペインでは、フードデリバリーに従事する就業者を労働者とした最高裁判決を受け、フードデリバリープラットフォームに対して、これを通じて就労している就業者を労働者として扱うことを義務づけています。

さらに、

  • EUでは「プラットフォーム労働指令」が審議されており、採択される可能性は高いとされています。これが採択されれば、本格的なデジタルプラットフォーム労働の規制がなされることになるでしょう。

 

4.日本の動向

 日本の裁判では、ギグワーカーが労働者か否か正面から争われた事案はありません。ただし、労働組合と使用者との間の紛争を解決することを目的とした労働委員会では、これらギグワーカーが労働組合法上の労働者に該当するか否かが争点となっている事件が係争中です。報道によれば、この事件の審理は大詰めを迎えているのとことですので、近い将来、日本でもこの手の話題が大きく報道されると思います。

5.自由と保障は両立しないのか

 フリーランス等の就業者らは、働く場所や時間の自由を重視する傾向にあります。これは、プラットフォームを介して就労している就業者も同様です。たとえば、2017年に実施された連合総合生活開発研究所のアンケートによれば、プラットフォームを利用している就業者のうち、「自由に使える時間、休日」に「大いに満足している」「満足している」と回答した割合は、57.2パーセントもあります。

 だからといって、これら就業者らが現行の社会保障制度に満足しているわけではありません。2021年のフリーランス協会の調査によれば、「あなたは会社員・フリーランスなどの働き方の違いに関わらず、医療や雇用、老後の財源に対する社会保障が提供されることが必要だと思いますか。」という問いに対して、「とても必要である」「どちらかといえば必要である」との回答が、合わせて95.7パーセントでした。

 すなわち、現状では、「働く時間や場所の自由」さと「サラリーマン並の社会保障」がトレードオフの関係になっているといえるでしょう。

 新型コロナウイルス感染症の拡大は、リモートワークや兼業・副業を拡大させました。フードデリバリーに従事している就業者の中には、本業として、企業に雇用されている労働者も多いとされています。このように、雇用とフリーランス等の個人事業主としての働き方との境界は、すでに曖昧になっているのです。今後は、雇用とフリーランス等の「個人事業主」を度々移動し、あるいはこれらの働き方を同時に行うような就業者の存在は当たり前となるでしょう。

 しかし、ギグワーカーといった「個人事業主」は、決して独立性は高くありません。むしろ、労働者と同様に、「他者のために自分自身で労務を提供し、その対価(報酬)で生活をする者」といえそうです。そうすると、働き方に中立的な社会保障制度の構築の必要性が高まっているのです。

6・「労働者」であることを嫌う就業者

 繰り返しますが、ギグワーカーらは、兼業であっても。自由を重視しています。そのため、ギグワーカーも労働者として保護されるべきであるという意見に、ギグワーカーらの一部は反対します。実際、アメリカ・カリフォルニア州のAB5が導入された時も、スペインでフードデリバリーの就業者を労働者として扱うべきとする法令が制定された時も、一部のギグワーカーらは、反対の立場からデモ活動を行っています。

 この現象を、私はこう捉えています。つまり、ギグワーカーらが求めている自由は、表面的には時間や場所の自由ですが、その実は企業組織からの自由なのではないかと。すなわち、ハラスメントなどが横行する拘束的な働き方を嫌悪しているのではないかと思うのです。

 プラットフォーム経済の進展は、このような従来型の拘束性の強い企業組織のあり方に変革を迫っているのではないでしょうか。歴史的に見れば、雇用は、企業組織労働とイコールではなかったのです。しかし、資本制社会の進展とともに、雇用は企業組織労働とイコールとされるようになりました。雇用も。原点回帰すべきなのです。多くの就業者の支持を得るような、新たな「雇用」の形を模索すべき時が来ているのです。

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