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川崎市立井田病院 令和3年度 市民公開講座動画「たばこについて考える」(目が不自由な方へのテキスト情報)

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2021年7月7日

コンテンツ番号130041

川崎市立井田病院 令和3年度 市民公開講座動画「たばこについて考える」(目が不自由な方へのテキスト情報)

こんにちは。川崎市立井田病院の医師の亀山直史です。

本日は、市民公開講座の機会をいただきました。

私の専門は呼吸器内科で、普段は肺癌、喘息、肺気腫、肺炎など、呼吸器に関する病気を診療しています。

できてしまった病気を治すのは医者の使命ですが、病気の予防もとても大切です。そして、呼吸器内科の病気の原因の多くは、たばこです。

そこで今回の公開講座では、「たばこについて」をみなさんと考える時間を、いただきたいと思います。

 

開示すべき利益相反はありません。

 

まず、たばことは、何を指すのでしょうか。

日本国内においては法律があり、きちんと定義がなされています。

お示しするこの青々とした植物がタバコで、これを乾燥させて製造されたものをたばこと呼んでいます。

流通する製品としては、みなさんにもっともなじみの深いであろう紙巻きたばこ、加熱式たばこ、葉巻、嗅ぎタバコ、水タバコ、などなどがあります。

とくに最近は、多くの加熱式タバコが発売されています。

紙巻きタバコに比べて健康被害が少ないとはいわれていますが、これまでのたばこ成分とは異なる成分による健康被害が言われており、変わらず禁煙の対象となっております。

 

それでは、実際どれほどの人が喫煙をしているのでしょうか。

平成元年から令和元年までの30年ほどを表しています。

30年ほど前は男性は半分ほどが喫煙していましたが、近年は30%を割り込んでいます。

日本人全体では、依然として4人に1人が喫煙をしていることになります。

 

私は仕事柄、喫煙している人に禁煙をおすすめします。

そこで気づいたのが、たばこを吸う人、吸わない人で、たばこについて全く考えることが違う、ということです。

どういうことかといいますと、吸わない人は、どうして喫煙者がタバコをやめないのか、やめられないのかが理解できないのです。

一方、右側にお示しする喫煙者は、タバコの話題を出してほしくない、もしくは、(ここがおもしろいのだが)やめたいのにやめられない、と考えているのです。

そして、お互いに、どうしてそう思うのかがわからないのです。

たばこは嗜好品だと言われることもありますが、他の嗜好品で、このようなことはあまり起こらないのではないでしょうか、とても不思議なことです。

このレクチャーのおわりには、この謎が解けるようにしていきたいと思います。

 

それでは、たばこ反対派、賛成派の、具体的な意見をみていきましょう。

まず日本人の7~8割を占める、反対派からの意見です。

この集団は、非喫煙者に加え、医学の学術集団、医療機関、厚生労働省などが該当します。

まず、健康に悪いのであればやめた方がいいに決まっている。これは、喫煙によりさまざまな病気が起こり、死亡率もあがることがわかっていますから、健康が大事とする価値観からすると当然のことと思われます。

受動喫煙の被害をうける身にもなってほしい。これも、あと少ししてお話ししますが、タバコは、吸う人だけでなく周囲の人にも健康被害を及ぼしますので、至極当然でしょう。

さらに詳しい人は、社会の経済損失に目を向けるかもしれません。たばこによる健康被害に対する医療費、喫煙施設にかかる費用、喫煙行動で仕事中に席を立つなどの労働生産性の低下をあわせると、およそ年間2兆円ほどのマイナスと言われています。

また、社会的なことではなく、身近な人のことを心配に思って、やめてほしいと考える人もいるでしょう。

 

一方、賛成派の意見はどうでしょうか。

おおよそ社会の2割程度を占める喫煙者や、一部の政治家、社会的著名人が組織する喫煙文化研究会などが情報発信をしています。

税金を払っている、社会には遊びが必要だ、また医療ばかりが正しいわけではない、ヒトラーと同じように喫煙者はスケープゴートにされている、好きでやっていることだから自己責任の問題だ、あと喫煙には灰皿やたばこを吸う情景などの文化がある、などの意見があります。

公平にみて明らかに間違っているのは、先ほど反対派のところでお話しした「たばこ税」と「自己責任」のところですが、それ以外のことに関しては、なるほどもっともだなと思うこともあります。ですので、禁煙を掲げている私も、頭ごなしにこうした主張を否定しているわけではありません。

 

さて、ここからは、医療者からみたタバコのお話をしていきます。

まず、人体への有害成分に関してです。

タバコ煙には、5000種類もの化学物質、そして70種類もの発癌物質が含まれます。

表の左側が代表的な成分で、その右側には対応する日常の物質を示しています。

有機溶剤や殺虫剤など、普通の感覚ではとても恐ろしくて、吸うことなどできなそうな成分が、数多く含まれていることがわかります。

 

そして、こちらにお示しするようなさまざまな病気の原因となることがたいへんよくわかっています。

これにより、寿命は7~8年縮まると言われており、年間12~13万人が命をおとしているといわれている。

また、新型コロナウイルス感染症にり患した場合も、加熱式タバコを含むたばこを吸う人は重症化をしやすいといわれておりまして、健康被害の観点から、喫煙はおすすめできるものではありません。

 

一方、吸い込まれたタバコ煙だけでなく、それ以外に発生する煙も周囲に悪影響をおよぼします。

まず副流煙といって、タバコの先端から燃焼により空気中に放出される煙です。これは、フィルターを通っていませんので、喫煙者が吸い出す煙よりも有害物質が多くなっています。これを、二次喫煙と言います。

さらに、タバコを1服した後、喫煙者の口からは45分ほどもの間、有害物質が出てくることがわかっており、健康被害を防ぐために、その間エレベータを使用禁止にしている自治体もあるほどです。

また衣服や壁紙、車のシートなどに染み付いたタバコの煙成分が、発癌物質に変わるといわれており、こうしたものに触れたりするだけで、非喫煙者もタバコの害をこうむることになるのです。

実際、ご自身は非喫煙者であったが、昔同居の家族が喫煙していたという患者さんが、タバコ病である肺気腫から肺癌になり、家で酸素吸入をしなければならない例などを経験していますし、日本では年間、おおよそ15000人が受動喫煙が原因と思われる疾患で命を落としているといわれています。

 

このように、健康をまもる立場にある医療者にしてみると、喫煙は大変困りものです。たばこの害、受動喫煙の害は無視できるものではなく、禁煙を強くおすすめするというスタンスを取らざるを得ません。

ではどうして、皆さんこうしたことを知っているにもかかわらず、喫煙者はたばこを手放せないのか。そこには、医学的なわけがあるのです。

決して、その人が悪いとか、禁煙の意志が弱いから、ということではないのです。(ここはたいへん重要なポイントです)

そうではなくて、タバコを習慣的に吸う、という行為は、タバコの中に含まれるニコチンという成分に対する依存症によるものであり、治療が必要な状態であると、医学的に考えられるからです。

それでは、ニコチンが、身体と心にどのような影響を及ぼすか、みていきましょう。

 

まず、ニコチンの体への影響です。

たばこの煙を吸入しますと、数秒のうちにニコチン血中濃度が上昇し、脳に到達します。

すると、脳内でドーパミンという快楽物質が大量に放出されます。

これは大変強い刺激なので、慣れていないとくらくらしたり、気分が悪くなったりしますが、そのうちスッキリすると感じるようになってしまうのです。

 

次第に、怖いことがおきてきます。

脳が、このドーパミン大量分泌に慣れてしまうと、異常な量のドーパミン刺激が弱まっただけで、「いらいらする」と感じるようになる。

 

そこで、次のタバコを吸うと、またニコチンが補充されて、過剰なドーパミンが出て、すっきりした気分になるのです。

このサイクルで、喫煙者はタバコを1日何本も吸ってしまいます。これを医学的には「身体依存」と呼び、タバコをやめられない大きな理由となります。

 

次に、こうした体への影響が、心に及ぼす影響をみていきましょう。

人間は通常の生活をしているだけでも多少なりともストレスにさらされており、それに合わせて感情のアップダウンがあります。

そういうときどうするかというと、ちょっと伸びをしたり、深呼吸をしたり、気分転換をすることで、これらの谷を乗り越えて暮らしていくことができます。

一方、喫煙者はどうか。快と不快の振れ幅がとても大きくなっています。上下の振れはニコチンによる脳内報酬系への強制刺激で、完全に制御されてしまっています。このような状態では、非喫煙者がちょっと気分転換する程度のことでは、到底ストレスから逃れることはできないでしょう。

喫煙者にとって、たしかにタバコを吸わないことはとてもストレスなのですが、この状態が、はたして「たばこを吸うことがストレス解消」といえるか? と考えてみてほしいと思います。

 

非喫煙者と、喫煙者の快と不快の揺れを並べてみてみました。

喫煙者にとって、タバコがない状態で感じるストレス、この谷ですけれども、それはもしかしたらタバコがなかったら感じなくてもいいものかもしれないのです。(図の黒い網掛け部分でそれを表しています)

タバコを吸う人には、是非ここに気が付いていただきたいと思います。

 

大事なことなので、もう一度、お示しします。

たばこを吸うことがストレス解消になる、とよく言われますけれども、

たばこにより解消できるストレスは、非喫煙者が日常に感じるストレスではありません。

そうだと感じるなら、それはドーパミンの強い刺激により、脳が勘違いしている、錯覚を起こしているだけなのです。

たばこにより解消できるストレスは、タバコ切れ、ニコチン切れのストレスなのです。

このことが、タバコをすっているとわからなくなってしまうのです。

これが、タバコをやめられない2つ目の大きな理由です。医学用語でいうと、心理依存、といいます。

 

これは、田代まさし という覚醒剤中毒で有名になってしまった芸能人の本からの抜粋をお示ししています。

彼は何度か覚醒剤を所持、使用して捕まっていますが、その合間に薬物依存の治療をうけています。その一環として、依存症がどのように感じられるかを、克明に言語化しています。

「トリップするためじゃなく、ちゃんとするために〇〇〇を使っちゃう」

「最初は気分をかえるためとか、気持ちよくなるため、仕事をバリバリするために〇〇〇をつかっていたはずなのにやがて〇〇〇がないと、なんにもできない・・・という状態になっちゃうんです」

「自分の意志でいい気分になろうと思って〇〇〇を使っていたのに、いつのまにか〇〇〇に支配されている・・・これが〇〇〇の怖さなんですよね」

この〇には本来、覚醒剤、が入るのですが、タバコ、をいれても全く同じことが言えると思います。

この〇〇、を前にして、その人の人格、意志の強さなど関係なくなってくるのです。

行動が、タバコにより支配されてしまうのです。

 

旅行や出張などで、飛行機や新幹線から降りた直後、タバコを吸わない人は解放感を楽しむのが通常ですが、喫煙者は一目散に喫煙所を探します。これは、喫煙者の行動がタバコに支配されていることの大変わかりやすい例です。

 

さて、少し根詰めたお話が続きましたので、写真をみて休憩していただきたいと思います。

ここには、順に換気扇、灰皿、食後の風景、帰り道の特定の路地裏、ベランダ、コンビニ を出してみました。

なんとはない日常の風景です。

しかし、タバコを吸う人にとっては、これらはどれも、特別な意味をもつものです。

どういうことかといいますと、タバコを吸う人は、自分がタバコをよく吸う場所や状況を、「特別に強い記憶」として持っています。

私はこれを、ニコチンの記憶と呼んでいます。

 

そのメカニズムは、パブロフの犬の話と一緒です。

犬に、鈴を鳴らしてから餌を与えることを繰り返していると、鈴の音をきいただけでよだれが出てしまうという条件付けの実験がありました。

人間も、ニコチンが誘発するドパミンという強い刺激を繰り返し受けると、その刺激を受けたときの場所や情景と、ドパミンの快感欲求が、脳の中で強く結びつけられてしまうのです。

ですから、もし体のニコチン依存がなくなっていたとしても、昔自分が喫煙していた情景を目にするだけで、ついニコチンが恋しくなってしまい、

一度禁煙に成功したと思った人でも、また吸い始めてしまうことがあります。

こうしたことも、心理依存の一つと考えられます。

 

これまで、たばこがどのようにして人をだましていくのかを、お話ししました。

まず、脳に対してニコチンが強烈な作用を及ぼすことで、身体の依存が形成されること。

次に、ニコチン切れのストレスを、生活のストレスだと脳が錯覚してしまうこと、そしてニコチン摂取にかかわる強い記憶が、心理的依存を引き起こすということをお話ししました。

禁煙外来では、この2大依存・2大誘惑を解消することで、禁煙することのハードルを大きく下げてあげることができます。

 

まず、禁煙外来で使う薬についてです。こちらは、主に体の依存を治療するのに用います。左にお示しするニコチン受容体部分作動薬は、バレニクリンというお薬ですが、ニコチンがドパミンを出す経路を部分的に遮断してあげます。そうすることにより、ドパミン分泌を正常な状態に戻し、またもしニコチンが体内に入っても、快感がえられないように脳のシグナル伝達経路を変えてしまうのです。ですから、タバコを吸いたいという体の欲求は少なくなり、またもしタバコを吸ってもおいしくないと感じるようになります。

この薬が副作用や合併症などで使えない場合、また運転をする患者さんには、右側のニコチン置換療法を用います。こちらは、タバコで補っていたニコチンを、タバコを吸う行為ではなく張り薬で補い、ニコチンが少なくなることで起きる離脱症状を抑えてあげることで、禁煙をサポートします。週単位でパッチに含まれるニコチン濃度を下げていき、最終的にはゼロにもっていきます。

 

体の依存を薬でとりながら、心の依存は、面接で治療していきます。

保険診療では、3か月のうちに5回の受診が可能となっています。

本日お話ししたように、「なぜ吸いたくなるのか」「喫煙で解消できるストレスはニコチン切れのストレスだけ」といった話をして、「タバコに支配されていた自分」というものを発見していただくよう努めています。また、吸いたくなった時の対処法や、禁煙のモチベーションアップなどを話し合う時間にしております。

途中で来なくなってしまう患者さんもいらっしゃいますが、5回中5回、すべて来院していただいた患者さんの大部分は禁煙に成功しますので、とにかく途中で失敗しても、がんばって通い続けていただくことを大切にしています。

 

この図をみてお気づきになった方もいらっしゃるかもしれませんが、面接と面接のあいだには、長い空白期間があります。

この期間、患者さんは基本的には一人で禁煙と戦わなくてはなりません。この期間が禁煙失敗の原因となるとも考えられていました。

そこに、最近強い助っ人が開発されました。

スマートフォンを持っている患者さん限定になってはしまいますが、医師が処方したアプリケーションを使うことができるようになったのです。

このアプリケーションは、患者さんに禁煙に関する教育動画を配信したり、日記記録を促したりするだけでなく、チャットボットによるカウンセリング機能を備え、まるで24時間、医療者に悩み相談をしているかのような体験ができるようになっています。

実際に、どのような効果があるのか、慶応大学のグループにより、ランダム化比較試験で検証が行われています。

お示しするのは持続禁煙率のグラフですが、グラフの一番左端が禁煙外来が終わる12週時点での禁煙率を表わしますけれども、このアプリケーションを使った黒丸群の方が10%程上乗せ効果を認めています。

CureApp SCというアプリケーションですけれども、当院でも、今後導入を検討しているところです。

 

さて、まとめに入りたいと思います。

これは、今回のレクチャーの最初のほうにお示ししたスライドです。左側の喫煙者と右側の非喫煙者では、タバコに対する考え方は全く異なり、お互いに理解をできていない状態ではないかと述べました。

しかし、このレクチャーをきいていただき、みなさん、どうでしょうか?

 

私は、このように、みなさんの考えが変わっているといいなと思っています。つまり、

タバコを吸わない人には、「どうしてやめないのだろう?」ではなく、「喫煙者は、意志が弱いのではなく、治療が必要なのだ。本人は意外と一人で戦っていて、大変なのかもしれないな」と考えていただけるきっかけとなってほしいですし、

また、タバコを吸う人には、「タバコをやめてみようかな」「やめられないのは自分のせいではないのだから、治療を受けてみようかな」 と思っていただければ、これ以上の幸せはありません。

 

喫煙者と嫌煙者の意見はすれ違うことが多いですけれども、共通しているのは、どちらもニコチン中毒の被害者であるということです。

ニコチン中毒(たばこを吸うということ)は自助努力だけでは解消が難しく、専門家による身体依存と心理依存の治療が克服のハードルを下げると考えています。

本日はこの二つを持って帰っていただきたいと思います。

 

最後に、宣伝です。

当院では、2020年7月から禁煙外来を開設しました。

今年の4月からは専門の看護師さんも増え、皆、明るく楽しい禁煙をモットーにやっております。

毎週月曜日の午後、予約を受け付けておりますので、お気軽にお問い合わせください。

本日はご清聴いただき、ありがとうございました。

また、禁煙外来でお会いできるのを楽しみにしております。

 

 

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