第1章 推進ビジョン策定の背景と趣旨 1 地域包括ケアをめぐる背景 平成25年10月1日の推計人口によれば、日本の総人口に占める65歳以上人口の割合は25.1%となり、初めて4人に1人が高齢者という時代を迎えた。この高齢化率は、先進諸外国の中では最も高く、日本は世界に類をみない超高齢社会に足を踏み入れたといえる。 さらに、団塊の世代が後期高齢者となる2025年(平成37年)では、日本の高齢化率は30.3%になるものと推計されており、その後も引き続き高齢化が進むことが予測されている。 本市においては、全国平均と比較して若い世代の流入が多く、生産年齢人口は増加傾向にあるものの、2040年(平成52年)には高齢者人口は約45万人となり、総人口の30.4%になることが予想されている。本市は、現時点では若い世代の多い都市であるといえるが、今後全国と同様に急激な高齢化が進むことは明らかである。 そして、このような急激な高齢化は、医療・看護・介護・福祉・生活支援などの「ケアを必要とする人」の増加のみでなく、慢性疾患、さらには複数の疾病を抱えながら生活を送る高齢の患者数が増加することを意味することから、地域全体で必要とされるケアの「質」にも大きな変化を及ぼすと考えられている。 平成12年に施行された介護保険制度は、それまで措置制度のもとで一部の高齢者を対象に提供されてきた介護サービスを、介護を必要とする高齢者等に普遍的に提供するための仕組みとして構築されたものである。 しかしながら、こうした高齢者の生活を支えるために必要となるケアは介護のみではない。その他にも、医療・看護・生活支援などの多様なケアが「質」と「量」の両面から適切に提供されることが求められる。 そのためには介護保険制度のみでなく、医療・看護・介護・福祉・生活支援などの多様なケアを提供するための仕組みを、社会・地域の特性にあわせながら、一体的に、そして抜本的に見直していく必要があるといえる。 すなわち、地域で疾患を抱えながら生活する高齢者等の増加に対し、医療においてはこれまでの「病院完結型の治す医療」から「地域完結型の治し・支える医療」への重心のシフトが求められるとともに、医療のみでなく看護、介護、福祉・生活支援などを含めた必要なケアが、地域において一体的に提供されること(地域包括ケア)が新たに求められ、そのための仕組みとして提唱されたのが「地域包括ケアシステム」である。 地域包括ケアシステムは、「ニーズに応じた住宅が提供されることを基本とした上で、生活上の安全・安心・健康を確保するために、医療や介護のみならず、福祉サービスを含めた様々な生活支援サービスが日常生活の場(日常生活圏域)で適切に提供できるような地域での体制」と定義され、平成24年の社会保障制度改革国民会議においては、当該仕組みが介護保険制度の枠内では完結しないものであるとし、特に医療・介護の一体的な見直しや、ネットワーク化が必要である旨が指摘されている。 地域包括ケアの理念は、介護保険法改正(平成23年6月改正、平成24年4月施行)により、介護保険法に盛り込まれたが、その後、今般の制度改正により、「地域における医療及び介護の総合的な確保の促進に関する法律」の中で、第1条で「地域において効率的かつ質の高い医療提供体制を構築するとともに地域包括ケアシステムを構築することを通じ、地域における医療及び介護の総合的な確保を促進する」とされ、同2条で「地域包括ケアシステム」を「地域の実情に応じて、高齢者が、可能な限り、住み慣れた地域でその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、医療、介護、介護予防(要介護状態若しくは要支援状態となることの予防又は要介護状態若しくは要支援状態の軽減若しくは悪化の防止をいう。)、住まい及び自立した日常生活の支援が包括的に確保される体制をいう。」と定義されている。 本市においても、こうした日本の現状を踏まえながら、誰もが住み慣れた地域や自らが望む場で安心して暮らし続けることができるよう、地域の実情に応じた適切な「地域包括ケアシステム」の構築を推進していくことが求められている。 また、このケアシステムにおいては、行政だけではなく、事業者や町内会・自治会などの地縁組織、地域・ボランティア団体、住民など地域内の多様な主体の取組が求められるとともに、主体間の緊密な連携が必要であることから、その構築にあたっては本市の基本的な考え方が地域全体で共有されることが重要である。 「川崎市地域包括ケアシステム推進ビジョン」(以下、推進ビジョン)は、「地域包括ケアシステム」の構築に係る本市の基本的な考え方を示し、地域全体で共有した上で、その構築に向けた具体的な行動につなげていくことを目的として策定するものである。 2 これまでの川崎市の取組 「地域包括ケアシステム」は、全ての地域に共通した解は存在しないことから、具体的な目標や取組の内容については、各地域の特徴や課題を十分に踏まえた上で、地域ごとに検討を進めていくことが求められる。 そのような中、本市においては、来る超高齢社会の到来を見据え、これまでも「地域包括ケアシステム」の基礎ともいえる各種の取組を実施してきたところである。 主な取組としては、平成7年に「市民総ホームヘルパー大作戦」を実施し、介護の社会化に取り組んできたほか、平成13年には、全国に先駆けた「高齢者パワーリハビリテージョン事業」の実施、平成22年から「介護予防いきいき大作戦」の実施により、中高年の方のいきがい・健康づくり・介護予防の推進や地域人材の育成を図るとともに、「かわさき健康づくり21」を策定し、市民が主体的に取り組む健康づくりを市や関係機関・団体等が支援しながら、社会全体で健康づくり運動を進めている。 平成12年に「地域リハビリテーション構想」をまとめ、児童期から成人期、高齢期にいたるまでのライフステージを通じた切れ目のない、専門的かつ総合的なリハビリテーションサービスの提供を行うことを目指して、地域リハビリテーションセンターの整備を進めている。 また、「川崎市在宅療養推進協議会」を平成25年に設置し、在宅療養の仕組みづくりに向けた取組を推進しているほか、保健・医療関係団体の顔の見える関係づくりとして、平成23年度に立ち上げた「かわさき保健医療懇話会」は、平成26年度からは、福祉分野も加え、「かわさき地域包括ケアシステム懇話会」として開催をしている。 住宅分野の取組としては、高齢者や障害者、外国人等の入居機会の確保と安定した居住継続を支援するための「川崎市居住支援制度」を平成12年から進めているほか、平成13年からは、高齢者の安全で安心な地域居住を確保するため、高齢者向け優良賃貸住宅の供給を促進し、地域住民の生活支援サービスの向上のため、福祉施設等との併設に取り組んでいるところである。 さらに、平成17年には、政令指定都市としては初めて、市民自治の基本理念や自治運営の基本原則などを規定した川崎市自治基本条例を施行し、市民自治の確立を目指した取組を進めるとともに、福祉製品のあり方を示した「かわさき基準」の理念普及など福祉・介護産業の振興と育成を図るウェルフェアイノベーションや、先端医療の推進と健康長寿社会の実現を目指すライフィノベーション、エネルギーの最適利用とICT・データの利活用により、誰もが豊かさを享受する社会の実現を目指すスマートシティの推進等、本市としての特徴を活かした先進的な取組を展開している。 このように、本市では、これまでも「地域包括ケアシステム」の基礎ともいえる数多くの取組を実施してきたが、今後、このような取組を一体的に進めていくことが、より一層求められるといえる。 3 推進ビジョンの位置付け 3の1 基本的な考え方 前述の通り、主として高齢者を中心に議論が展開されてきた「地域包括ケアシステム」であるが、実際には障害者や子ども、子育て中の親など、地域内において「何らかのケア」を必要とする全ての人を対象とした場合についても、各施策間の連携を図ることにより、その仕組みを共有できる部分は多いと考えられる。 また、自身がケアを必要としない場合においても、自立的に自らの健康状態?生活機能を維持・向上させる「セルフケア」や「地域のケアを支える」といった視点においては、全ての地域住民においてその重要性が認識され、実践されることが必要である。 そのためには、若年層からの意識の醸成や健康づくり、介護予防など健康寿命延伸のための取組や、虚弱・要介護状態となっても心身機能の維持・改善を図るための取組、要介護状態が重度化しても住み慣れた地域や自らが望む場で暮らし続けられるような取組など、ライフステージにおける切れ目ない継続的な取組が重要であるといえる。 ただし、これらの取組は、必ずしも自らが実践するもののみではなく、必要に応じて地域のボランティア等による活動や、社会保険制度、社会福祉制度など、地域全体における支え合いや助け合いの仕組みを通じた多面的な支援を受けながら、取組・支えられるべきものである。 そして、今後増加することが予想される「何らかのケアを必要とする人」を地域全体で支えていくためには、これらの「助け合いの仕組み」をより一層強固なものとしていくことが求められる。 そのためには、希薄化が懸念される地域のつながりを取り戻し、誰もが互いに助け合う関係であるという認識を共有し、地域による自主的な「助け合い」の活動を活発化させていくなどの取組は、今後に向けて必要不可欠なものであるといえる。 また、行政においては、そのような地域活動を支えるとともに、どのような状況になったとしても、安全・安心な暮らしを保障するためのセーフティネットを、確実に整備していくことが求められる。 本推進ビジョンでは、このような考えを前提としながら、ケアを「住み慣れた地域や自らが望む場での生活の継続のために、自立した生活と尊厳の保持を目標として行われる支援や取組」を総称したものと位置付けるとともに、近隣住民やボランティア等のインフォーマルな地域資源から提供される「サポート」を含むものとして定義する。 したがって、本市の地域包括ケアシステムについては、高齢者をはじめ、障害者や子ども、子育て中の親などに加え、現時点で他者からのケアを必要としない方々を含めた「全ての地域住民」を対象として、その構築を推進する。 3の2 関連計画との関係 推進ビジョンは、高齢者保健福祉計画・介護保険事業計画をはじめ、関連する個別計画の「上位概念」として位置付けられ、強固な連携を図る中で、各関連計画は推進ビジョンの内容を踏まえて策定されることが必要である。したがって、関連計画においては、推進ビジョンの内容を、より具体的な目標? 取組方針・施策として定めるとともに、その達成に必要な資源・体制・手法等を合わせて明確化・具現化することが重要である。 また、本推進ビジョンは全市に共通した基本的な考え方であるが、個別計画において、具体的な目漂?取組方針・施策及びその実現に必要な資源の整備等を検討するにあたっては、領域ごとの特徴を考慮しながら多様な手法が講じられることが求められる。 本推進ビジョンは、関連個別計画の上位概念としての性格を有するものであるが、同時に、本市としての基本的な考え方を明確化したものである。したがって、行政内の各部署や医療・福祉関係機関においては、本推進ビジョンのもとに各々が担うべき役割を認識し、具体的な行動につなげていく必要があるとともに、町内会・自治会などの地縁組織、地域・ボランティア団体、住民など、地域を支えるその他の主体においても、本推進ビジョンの考え方を共有しながら、それぞれの取組を進めて行くことが期待される。 4 地域包括ケアシステムの構築に向けた取組の推進 4の1 個別施策・事業の展開 推進ビジョンは、個別計画の上位概念としての位置付けであることから、具体的な施策や事業の展開にあたっては、個別計画の計画期間に合わせて展開をしていくこととなる。 地域包括ケアシステムを構築する上で重要となる、医療と介護の連携を図るため、改正医療法においては、都道府県医療計画と介護保険事業計画のサイクルが一致するよう、2018年度(平成30年度)から都道府県医療計画のサイクルを6年計画に変更し、在宅医療など介護と関係する部分は、中間年(3年)で必要な見直しを図るとされている。 本市では、2018年度(平成30年度)において、かわさきいきいき長寿プラン(高齢者保健福祉計画・介護保険事業計画)や、かわさきノーマライゼーションプラン(障害者計画・障害福祉計画)、かわさき健康づくり21(健康増進計画)、川崎市地域福祉計画など、本推進ビジョンを上位概念とした関連個別計画の改定・見直しを予定している。 このため、地域包括ケアシステムの構築に向けた施策展開にあたっては、関連個別計画の策定サイクルをステップとして、段階的に、具体的な各施策・事業の展開を図っていく。 4の2 ロードマップ 第1段階 2018年(平成30年) 3月末まで 本市では、新たな総合計画や、推進ビジョンを上位概念としている関連個別計画の多くが、2018年度(平成30年度)に改定・見直しの時期を迎えることから、この段階までに、市域における推進ビジョンの考え方の共有を進めるとともに、行政及び事業者、関係団体・機関などの専門組織は、地域包括ケアシステムを構築するために必要な資源・体制・手法等について検討し、それを明確化した上で、推進ビジョンを踏まえた、具体的な事業展開が図られるよう、ケアシステムの構築に向けた土台づくりを行う。特に行政においては、推進ビジョンを上位概念とした関連する個別施策の明確化・具体化を図るために必要な分析を進め、行政が行うべき施策・事業のあり方や必要な資源等について検討し、具体的な取組を進めて行く。 第2段階 2025年(平成37年)まで 地域において、将来のあるべき姿についての合意形成がなされるとともに、それを実現するための地域包括ケアシステムの必要性、及び本推進ビジョンの考え方が地域全体で共有されることで、行政をはじめ、事業者や町内会・自治会などの地縁組織、地域・ボランティア団体、住民などの各主体が、それぞれの役割に応じた具体的な行動が行えるようになる。 第3段階 地域包括ケアシステムの更なる進化 「誰もが住み慣れた地域や自らが望む場で安心して暮らし続けることができる地域の実現」を目指し、時代や社会状況に応じて、常に進化した取組を進めていく。 5 各主体に期待される役割 誰もが安心して暮らし続けることができるようにするためには、地域の実情に応じた適切な「地域包括ケアシステム」の構築を推進していくことが求められている。 このため、地域包括ケアシステムの構築にあたっては、行政だけではなく、事業者や町内会・自治会などの地縁組織、地域・ボランティア団体、住民など地域内の多様な主体の取組が求められるとともに、主体間の緊密な連携が求められる。 各主体には、以下のような役割が期待される。 5の1 市民 地域社会は、その地域に住む住民が主体的に作り上げていくものであり、地域包括ケアシステムの構築に向けても、住民一人ひとりが地域におけるそれぞれの役割を理解した上で、地域特性に応じた具体的な取組を進めていくことが必要である。 例えば、多人数で1人の高齢者を支える「胴上げ型社会」から、3人で1人を支える「騎馬戦型社会」、1人で1人を支える「肩車型社会」への移行が進む中、人生80年ないしは90年の時代を迎え、元気な高齢者も多くいる現状においては、これまで支えられる存在として捉えられてきた高齢者についても、今後は地域包括ケアシステムを支える地域の一員として、広く活躍していくことが期待されるところである。 また、高齢者をはじめ、障害者や子ども、子育て中の親など全ての地域住民が、就労・ボランティア等を含む各種の地域活動を通じて、社会との繋がりを深めていくことは、住民一人ひとりが地域の中で、いきがいを持って暮らし続けていくことにもつながることが期待される。 住民一人ひとりが地域活動に積極的に参加し、さらにはそのような活動を地域全体に広げていくことにより、地域のコミュニティが活性化され、誰もが安心して暮らし続けることができる地域社会の構築が期待できる。 5の2 事業者、関係団体・機関 地域では、24 時間?365 日の生活を支えるための切れ目のないサービスの提供を、多様な主体のもと、コミュニティ・レベルで実現していくことが必要であり、特に高い専門性を求められるサービスについては、事業者や関係団体・機関が、積極的に取り組んでいくことが求められている。 特に、社会福祉法人については、運営の健全性を担保するための方策や、地域で果たすべき新たな役割に関する検討が国においても行われているところであり、社会福祉を目的とする事業の主たる担い手として、より積極的な取組が求められている。 また、川崎市社会福祉協議会などでは、住民によるミニデイやサロンなどのふれあい活動や見守り活動などの組織化や支援、ボランティア活動の振興、成年後見制度や日常生活自立支援事業など様々な取組が行われている。今後も、地域福祉推進の取組を更に強化していく必要がある。 川崎市医師会、川崎市病院協会をはじめとした医療関係団体については、疾病を伴っても、自宅など住み慣れた地域での療養?生活が可能となるよう、「治す医療」から「治し・支える医療」の実践に向け、在宅療養環境の整備を含めて、地域の医療体制の面的な仕組みづくりが求められている。 なお、その他の民間企業においては、今後大幅に拡大すると考えられる高齢者向け市場を1つのビジネス機会として捉え、市場に対してニーズに即した質の高いサービスを供給していくとともに、地域住民の生活満足度の向上や地域産業の活性化につなげていくなどの役割が期待される。 さらに、今後は従事者の健康管理や仕事と介護を両立できるような職場環境を整えるなど、従事者の心身不調や介護離職等の問題を未然に防止するような取組を積極的に行っていくことが求められる。また、このような取組は個別の企業のためのみでなく、地域にとっても重要なものであるとの認識が、広く共有されることが重要であると考えられる。 5の3 行政 川崎市は、住民に最も身近な基礎自治体として、今後、更に地域包括ケアシステムの推進において中心的な役割を担うことが必要と考えられる。特に、本市においては地域ごとに、人口構造や社会資源等の状況も異なることから、行政区の単位ごとに地域の課題や必要となる資源・機能等を把握・分析しながら、その地域に適した仕組みを検討し、施策を展開していくことが重要である。 一方で、全市的には、財政面や技術面から行政区単位での地域包括ケアシステムの推進を効果的に進めるため、先駆的な事例の収集・紹介やモデル的な取組を提示するほか、職員全体の資質の向上に向けた取組を検討・推進することにより、効果的な施策展開を行うことが必要と考えられる。 さらに、地域住民やNPO等の多様な主体によるネットワークの構築を推進するとともに、地域全体をマネジメントしていくなど、質と量の両面からサービスの充実を図っていくことが求められる。行政職員においては、地域住民やNPO等の多様な主体とのコミュニケーションを通じて、地域の真のニーズを把握し、必要な施策を企画立案していくことも、重要な役割の1つであるといえる。 そして、全ての住民が、地域包括ケアシステムの推進に関わり、将来にわたって支え合うことができるよう、地域住民の理解を深める取組を進めていくことが重要と考えられる。 6 (補足)地域包括ケアシステムの全体像 地域包括ケア研究会(厚生労働省老人保健健康増進等事業)では、「地域包括ケアシステム」を、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で生活を継続することができるような包括的な支援・サービス提供体制の構築を目指すものとしている。 地域包括ケアシステムは、「住まいと住まい方」「生活支援・福祉サービス」「医療・看護」「介護・リハビリテーション」「保健・予防」から成るとし、これら5つの構成要素の関係性を次のように示している。 これは、「住まいと住まい方」という生活の基盤に、「生活支援?福祉サービス」が整備されていることが前提となって、「医療・看護」「介護・リハビリテーション」「保健・予防」という専門的なサービスが、その力を発揮することができるということを意味する。 さらに、地域包括ケアシステムを支えていくための重要な要素として「本人と家族の選択と心構え」が挙げられている。これは、今後、単身又は高齢者のみ世帯の増加が見込まれる中で、従来のように、「家族に見守られながら自宅で亡くなる」という最後ばかりでなく、毎日誰かが訪問してきて様子は見ているが、翌日になったら一人でなくなっているということも珍しいことではなくなると考えられることから、そのような現実をそれぞれの住民が理解したうえで在宅生活を選択する必要があるとしている。 また、上述の5つの構成要素を支える方法として、「自助」「互助」「共助」「公助」の概念が示されている。これらの概念は、「誰の費用負担で行うのか」という視点からの整理となっており、「公助」は、公(税)による負担、「共助」は介護保険や医療保険にみられるリスクを共有する仲間(被保険者)の負担である。また、「自助」の中には、「自分のことを自分でする」という以外に、自費で一般的な市場サービスを購入するという方法も含まれている。「互助」は互いに支え合うという意味で「共助」と共通点があるが、黄用負担が制度的に位置付けられていない自発的なもので、地域の住民やボランティアという形で支援の提供者の物心両面からの支援が多いとされている。 また、「自助」「互助」「共助」「公助」の役割分担は、時代や地域により変化することから、それぞれの時代や地域における「自助」「互助」の持つ意味にあわせ、「共助」「公助」の範囲やあり方を再検討することが重要とされている。 地域包括ケア研究会では、地域包括ケアシステムは「地域住民の新しい暮らし方」の構築を目指すものであるとし、医療・介護サービスはもちろんのこと、一般の商店・交通機関・金融機関・コンビニ等も含めた地域経済の仕組みなど、あらゆる社会の仕組みを、団塊の世代が75歳に達する2025年(平成37年)以降を見据えて構築していく必要性を指摘している。 これらの多様な社会資源を地域包括ケアシステム構築に向けて、同一の目的の下につないでいくためには、自治体が「まちづくり」の基本方針を明確にし、当該基本方針を住民や地域の諸主体で共有していく「規範的統合」が求められるとされている。