第2章 川崎市の状況 本章では、本市の地理的・社会的状況や、データ分析からみる状況について、その特徴を整理する。 なお、データ分析の詳細については、資料編を参照されたい。 1 地理的・社会的特徴の概観 本市は、神奈川県の北東部に位置し、北は多摩川を挟んで東京都に、南は横浜市にそれぞれ隣接し、西は多摩丘陵を控え、東は東京湾に臨んでいる。 地形は南東から北西へ延長約33.13キロメートル(最短部1.22キロメートル)にわたる細長い地形で、面積は144.35平方キロメートルと政令指定都市の中では最も狭く、北西部の一部丘陵地を除いて起伏が少ない。 京浜工業地帯の中核として、日本の産業を牽引してきた本市は、湾岸部には大規模な石油化学コンビナートが形成され、内陸部は東京のベッドタウンとして急速に開発が進み、現在は、過去の環境問題の経験で培われた環境技術が集積するとともに、世界的なハイテク企業や研究開発機関が集積し、先端産業都市として成長し続けている。 市政を施行した大正13年に5万人だった人口は、昭和47年に政令指定都市となり、川崎・幸・中原・高津・多摩の5区が設けられた翌年には100万人を突破し、昭和57年には高津・多摩の両区の人口増加に伴う分区により、宮前・麻生の両区が誕生して、行政区は7区となり、145万人もの大都市へと変貌した。 東京都と横浜市の2大都市に隣接した細長い地形のため、東京を中心とした放射状の交通網が多数存在し、市域を横断している一方、市域を縦貫する交通網は、旅客路線はJR南武線、道路網は、国道409号線(府中街道)、尻手黒川線、多摩沿線道路の3路線となっている。 また、国際化した羽田空港に近接し、市内の鉄道駅から成田国際空港への接続も容易であるなど、国内外へのアクセスが良好な地域である。 平成24年10月1日現在における政令指定都市と東京都区部の大都市間比較においては、出生率 (1.01% 、23年連続 1位)や自然増加率 (0.33%、27年連続1位)が最も高く、死亡率が最も低い(0.68%、7年連続)状況にある。 また、市全体の人口密度は、1平方キロメートルあたり9,970人と、東京都区部及び大阪市に次ぐ過密都市である。 近年、事業所の市域外への移転や、駅周辺の再開発等が顕在化する中、その跡地を大規模集合住宅用地として再開発することや、中・北部地域における宅地開発等により、人口増加比率は0.61%と、大都市間では上位に位置している。 昼夜間人口比率は89.5と、夜間人口が昼間人口よりも多く、市外へ流出する就業者・就学者の割合は、相模原市に次いで高い。 平成22年国勢調査における大都市比較においては、平均年齢は41.5歳と最も低く、生産年齢人口(15〜64歳)の割合は70.0%と最も高く、老年人口(65歳以上)の割合は16.8%と最も低いことから、若い世代の多い都市であるといえる。 2 データ分析からみる本市の特徴 2の1 総人口がピークとなる2030年(平成42年)に向け、生産年齢人口は横ばいも後期高齢者人口は2倍に急増 本市の総人口は、平成26年10月1日現在で約144.4万人(住民基本台帳人口べース)であり、2030年(平成42年)の約152.2万人までは人口増加が続くと見込まれている。2030年(平成42年)に向けては、生産年齢人口が概ね横ばいであるのに対し、後期高齢者人口は約2.0倍と急増することが見込まれている。 また、平成25年時点で、介護保険給付費は約673億円、医療給付費(後期高齢者医療制度)は約958億円であるが、過去の推移をみると、それぞれの給付費の伸びは、同期間の高齢者及び後期高齢者の人口の伸びよりも大きい。地域においては、このような人口構造の急激な変化や、これに伴う課題に対応していくための新たな仕組みを構築していく必要がある。 2の2 次世代を担う子どもの育成や良質な子育て環境の整備が求められる 本市では、中長期的には全国と同様に少子高齢化が進むことが予想されるものの、現状では、他の大都市との比較において、出生率と生産年齢人口割合が最も高く、平均年齢が最も低いなと「若い都市」であることが特徴となっている。 経済的理由や、ライフプランに対する考え方の変化などを背景とした家庭内の子どもの数の減少に加え、未婚率の上昇や晩婚化などによる少子化、地域での交流の機会の減少などにより、自身の子どもができるまで乳幼児と触れ合う経験が乏しいまま親になるケースが増加している。 また、核家族化の進展や都市化の進行、就労環境の変化など、子どもと家庭を取り巻く現代の環境は大きく変化しており、地域との関わりの希薄さと相まって、子育てに対する負担や不安、孤立感が高まっていることから、子育てを社会全体で支援していくことが必要となっている。 このような状況の中、高齢者をはじめとした「全ての地域住民」を対象とする、本市の地域包括ケアシステムにおいては、次世代を担う子どもの育成や、良質な子育て環境の整備による地域社会の活性化なとも、重要な視点であるといえる。 また、このような「若い世代」を含め、子どもから高齢者までの地域全体が互いに理解を深め、共生の意識を醸成していくことなどが求められる。 2の3 地域及び住民の多様性 本市の人口密度・高齢者人口密度?生活保護率等は、南高北低の傾向がみられるものが多く、概ね南部の川崎区・幸区から中部の中原区・高津区・宮前区、北部の多摩区・麻生区に向かって徐々に低下する。 また、中部の中原区では武蔵小杉駅周辺の再開発に伴い、若い世代の人口流入が続き、急激な人口増加と地域コミュニティの構造変化がみられる中、南部の川崎区・幸区では長期の居住者の占める割合が比較的高く、高齢化率も2割程度と高い水準であるとともに、外国人人口が多いなどの特徴がみられる。 そのような中、居住期間が5年未満の住民が占める割合と、20年以上(もしくは出生時から)の住民が占める割合を比較すると、特に中原区においてその差が最も大きいものの、いずれの地域においても新興の住民と既存の住民が一定程度混在している状況となっている。 このように、本市は政令指定都市の中では最も小さい面積の都市であるが、人口・世帯の特徴を概観するだけでも、本市が非常に多様な地域と住民から構成されていることがわかる。 今後、単身高齢者や高齢者のみ世帯の増加が見込まれることから、地域の中での見守り、支え合いの仕組みや、支援を必要とする住民が必要な支援にアクセスできるような住民同士の互助の仕組みなどを、より一層強化していくようなソーシャルキャピタル(社会資源)の醸成が必要となる。 2の4 「ケアに携わる人材」の育成と確保が重要に 平成26年時点の要介護認定者数は、約4.7万人である。平成21年からの5年間で約3割の増加となっており、これは同期間の高齢者人口の増加率(約18%)を大幅に上回る。 平成25年度時点で、身体障害者・児数は約3.6万人、知的障害者・児数は約8.2千人、精神障害者数は約8.8千人である(各障害者手帳所持者数)。平成20年度から平成25年度の5年間での増加率は、身体障害者・児数は約15.0%増、知的障害者・児数は約27.6%増、精神障害者数は約57.9%増である。 このように、近年では人口の増加や高齢化等を背景に「何らかのケアを必要とする人」の著しい増加がみられるとともに、今後も高齢化等を背景に引き続き増加傾向となることが見込まれる。 しかしながら、「ケアに携わる専門職」として、中心的な活躍が期待される生産年齢人口は、長期的には減少することが見込まれている。 介護職を例にとると、本市の介護職業従事者は60歳以上が約2割を占めており(平成22年時点)、介護職員の高齢化は全国と比較してやや高い水準にある。今後増加が見込まれる要介護者への安定・継続したケアの提供のためには、介護サービス産業における若年層の確保が喫緊の課題となるものと考えられる。 このような「ケアに携わる専門職」の確保は、介護のみならず、医療・看護?福祉など、多くのケアについて今後の重要な課題であるとともに、人材のみでなく専門性や場などを含めたケアの提供に必要となる資源の整備と、その効果的な提供を実現していくことが極めて重要であるといえる。 ただし、本市は現状では多くの若い世代の流入が続いているところである。したがって、将来的にこのような世代に、専門職に限らず、広く「ケアに携わる人材」として活躍してもらうための様々な工夫が必要であるといえる。 また、高齢者の約85%の方は介護サービスを利用していないなど、元気な高齢者が数多くいる中では、高齢者自らも「ケアに携わる人材」として重要な役割を担っていくことが必要と考えられる。 2の5 高齢者の多くが「介護が必要になった場合でも、家族に負担をかけずに自宅で暮らしたい」と希望 一般高齢者・要介護認定者ともに、介護が必要になった場合の暮らし方(認定者については今後の暮らし方)について、半数以上の高齢者が「自宅で暮らしたい」と希望するとともに、自宅外を希望する高齢者についても、その理由の多くが「家族に迷惑をかけたくない(一般高齢者)」、「家族の負担が大きい(認定者)」などとなっている。 これらの回答から、高齢者の多くが「介護が必要になった場合でも、家族に負担をかけずに自宅で暮らしたい」と希望しているといえるが、現状では介護者の多くが介護に負担を感じているとともに、現状では特別養護老人ホームに早期の入居を希望する申込者数も3,925人(平成26年10月1日時点)にのぼっている。 さらに、国が特別養護老人ホームヘの入所を原則要介護3以上とする方針を示す中、これらの申込者に占める要介護2以下の割合は34.4%となっており、現状では要介護2以下の段階から、多くの方が在宅生活の継続に不安を感じていることがわかる。 地域住民のニーズに対して適切に応えるためには、「何らかのケアが必要になった場合でも、家族に負担をかけずに自宅で暮らすことができる」地域を目指し、そのために必要となる資源の整備を進めるとともに、効果的なケアを実現するためのケアマネジメントの重要性が増すといえる。 2の6 後期高齢者が増加する中、若年層からの生活習慣病予防や介護予防、及び病院の機能分化や在宅療養支援の推進など、一体的な体制構築の必要性が高まる 後期高齢者が増加する中、特に「脳血管疾患」や「虚血性心疾患」といった、亜急性期・慢性期の受療者数の伸びが大きくなることが予測されるため、中高年はもとより、若年からの健康づくりや生活習慣病予防、介護予防の取組が重要となる。 これらの受療者数の増加に対しては、病院の機能分化や在宅医療の充実により対応を図ることが求められ、医療のみではなく、介護・看護?福祉?生活支援などを含めた、在宅療養を支援するための体制全体の強化がより重要になるといえる。 さらに、自宅で療養したいと希望する割合は、全国調査によると、平成20年には63.3%を占めているが、本市における実際の死亡場所を見てみると、自宅で亡くなる方は16%程度となっており、今後は、本人が望めば、自宅で最期を迎えることができるような体制づくりを進めることが必要と考えられる。 2の7 要介護認定率は全国と比して高い水準にあり、効果的な予防の取組を推進することが求められている 本市の年齢階級別性別の要介護認定率は、他の政令指定都市と同様に、男性・女性のいずれについても、全ての年齢階級において全国よりも高い水準にある。 そのような中、二次予防事業への参加不承諾の理由としては、「既に自分で何らかの活動をしている」、「本人が介護予防事業参加の必要性を感じていない」などの回答が多くなっている。 さらに、65歳以上の高齢者における介護予防の認知度は、全体で5割弱程度となっており、4人に1人は、介護予防の取組をしていないと回答をしているとともに、介護予防の取組をしていない理由としては、「情報がない」、「自分には必要ない」がともに3割を超えている。 また、本市国民健康保険では、生活習慣病の予防、早期発見、早期治療を目的として、40 歳から74 歳までの被保険者を対象に、特定健診?特定保健指導を実施している。平成25年度の特定健診の実施率は22.9%であり、市の計画目標値に達していないことから、実施率向上に向けた取組が課題である。 このように、要介護認定率が全国と比較して高い水準にある一方、自主的な予防の取組や意識が十分であるとは言い難い。 可能な限り自立した生活の継続を実現するためにも、自身の健康状態?生活機能の維持・向上を目的とした、効果的な予防の取組を推進することが求められる。 2の8 人口構造や世帯構造が変化する中、本人の希望や経済力などの状況に適った多様な住まいの供給が求められている 高齢者世帯の持ち家率は、本市全体では65歳以上の単身世帯で52.7%、高齢夫婦のみ世帯で78.3%である。一方、夫婦と18歳未満の子ともが同居する「子育て世帯」では、持ち家率は子どもの成長とともに上昇する傾向にあるが、いずれも高齢夫婦のみ世帯の持ち家率を下回っている。 高齢単身・夫婦のみ世帯のうち61.6%が共同住宅に居住している中、特に宮前区においては中層(3〜5階)の共同住宅への居住割合が49.9%と高い状況となっている(川崎市全体では26.1%)。 高齢者等のための何らかの「設備がある」とするものは45.4%、「一定のバリアフリー化率」は39.6%となっている。今後は、居住者の身体の状況に応じた適切なバリアフリー化や住宅の供給が、より一層求められる。 一般的に中層の共同住宅ではエレベーターの設置率が低いことが多く、エレベーターが設置されていない場合は、例えば高齢者の外出が困難になり、心身機能の低下に伴い徐々に閉じこもりがちになるとともに、それがさらなるADLの低下につながることなどが懸念される。また、訪問介護の提供や通所介護の送迎において、サービス提供の妨げになることも懸念される。 さらに、高齢者世帯の住み替え状況をみると、2013年現在、この5年間で持家に住み替えた世帯は4.1%、借家に住み替えた世帯は15.1%となっている。 また、持ち家の高齢者世帯(単身世帯・夫婦のみ世帯)と借家の子育て世帯の居住室の広さを比較すると、30畳以上の比較的広い住宅に居住する世帯は高齢世帯に多く、子育てをする3人世帯・4人世帯が居住する借家では、30畳未満の住宅が占める割合が高い。 このように、住まいをめぐる様々な状況がある中、人口構造や世帯構造などの変化に合わせながら、本人の希望と経済力に適った多様な住まいの供給が求められている。 3 川崎らしい都市型の地域包括ケアシステムの構築に向けて 日本全体で人口の減少が顕在化する中、本市は依然として若い世代を中心とした人口の流入と高い出生率を維持しており、市民の平均年齢は政令市で最も若く、高齢化率も最も低い状況となっている。さらに、今後も2030年(平成42年)までは引き続き人口の増加が続くものと見込まれる。施策の展開にあたっては、この「若い都市」であるという特徴を十分に活かしていくことが重要となる。 また、本市では、高齢者や障害者を支えるボランティア団体などの活動が活発な地域があること、あるいは、福祉・介護産業の振興と育成を図るウェルフェアイノベーションや、先端医療の推進と健康長寿社会の実現を目指すライフィノベーションなど、これまで培ってきた技術や、研究の集積や連携といった多様な社会資源を有することから、地域包括ケアシステムの構築にあたっては、これらの様々な資源を基盤としたケアを行うことが可能な地域である。 さらに、市民が主役の市民自治を確立することを目的として平成17年4月に施行した「川崎市自治基本条例」において、「情報共有」「参加」「協働」を本市の自治運営の基本原則として規定し、地域の課題解決に向けて、大学・企業など事業者を含む市民と行政との協働・連携を推進してきた。施策の展開にあたっては、こうした多様な主体による協働・連携の取組を活かしていく必要がある。 一方で、本市は、狭い市域の中に高い人口集積を持つ過密都市でありながら、南部(臨海部)の工業・産業地域と中部(内陸部)及び北部(丘陵部)の住宅地域という、性格が大きく異なる地域から形成されている。また、多くの地域で急激な人口の社会増とそれに伴う新興の住民の増加、外国人との共生がみられるなど、本市は「多様な地域と住民によって構成されたコンパクトな都市」であるといえる。 本市の地域包括ケアシステムの構築にあたっては、都市としての多様な資源を組み合わせ、このような地域及び住民の多様性に対応しながら、今後増加が見込まれる「ケアを必要とする人」に対し、効果的なケアを行うための仕組みをいかに構築していくかが、重要なポイントになる。 本市では、都市としての魅力がある一方、都市部特有の課題を抱えるという状況の中で、「ケアが必要になった場合でも、自立した生活と尊厳の保持を実現し、家族等に負担をかけず、安心して暮らしていくことのできる地域」を実現するための基盤として、地域包括ケアシステムの構築を推進する。