第3章 川崎市地域包括ケアシステム推進ビジョン 基本理念 川崎らしい都市型の地域包括ケアシステムの構築による誰もが住み慣れた地域や自らが望む場で安心して暮らし続けることができる地域の実現 推進ビジョンの構成 基本理念を達成するため、5つの基本的な視点、及び11の具体的な取組に向けた考え方を設定する。 なお、ここでは、主に高齢者に関する記載を多く採用しているが、その視点や考え方は、障害者や子育て中の親などを含む、多くの地域住民の間で共有できるものであると考えられる。そのような観点からも、地域包括ケアシステムの構築にあたっては、保健・医療・福祉等の異なる施策間での連携強化が不可欠であるといえる。 基本的な視点・具体的な取組に向けた考え方 1 意識の醸成と参加・活動の促進 地域における「ケア」への理解の共有とセルフケアの意識の醸成 誰もが、「自立した生活」と「尊厳の保持」を実現することのできる地域を目指すため、地域全体が互いの生活への理解を深め、「共生の意識」を醸成し、人々の多様な在り方を認め合える「全員参加型の社会」を築いていくことが必要である。 全ての地域住民には、住み慣れた地域や自らが望む場での生活の継続に向けて、その健康状態・生活機能を維持・向上させるための自発的な努力(セルフケア)が求められる。 1の1 地域における「ケア」への理解の共有と共生意識の醸成 「誰もが住み慣れた地域や自らが望む場で安心して暮らし続けることができる地域の実現」という基本理念を現実のものとするためには、まずは地域全体でその理念を共有し、そのための意識を醸成することが必要である。 また、本推進ビジョンにおける「ケア」とは、この基本理念の実現を念頭に「住み慣れた地域や自らが望む場での生活の継続のために、自立した生活と尊厳の保持を目標として行われる支援や取組」としている。 すなわち、基本理念を実現するためには、必要となる資源の整備やケアを行うのみでなく、例えば、現状に多くみられる「要介護状態が重度化した場合には、家族に負担をかけないよう、在宅生活の継続を諦め施設入所を検討せざるを得ない」という意識ではなく、「地域の資源を活用することで、重度の要介護状態においても、自らの意思で自身の生活スタイルを選択できる」という基本理念に即した意識が、本人・家族・専門職・地域コミュニティの間で共有されることが必要であるといえる。 そして、そのような共通の意識を地域全体で共有していくためには「何らかのケアを必要とする人」と「現状ではケアを必要としていない人」が、互いに閉ざされたコミュニティの中だけで生活を完結させることがないよう、地域の中で交流する機会を持ち、地域全体が互いの生活への理解を深めることにより「ノーマライゼーション社会の実現」を目指し、共生の意識を醸成していくことなどが必要となる。 高齢となっても介護が必要となっても、あるいは認知症があっても障害があっても、積極的に社会に参加・貢献していくことができるよう、誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合い、人々の多様な在り方を相互に認め合える「全員参加型の社会」を築いていくことが必要である。 そのためには、例えば、高齢者と同居する世帯が減少し、子どもが高齢者の生活を知る機会や看取りの場に立ち会う機会などが減少した現状に対しては、若年層の「高齢者や看取りに対する理解」を進めていくなど、地域全体で相互理解を深めるための機会や場を積極的に設けていくなどの取組が必要と考えられる。 その効果的な取組の1つとして、福祉的な視点をもった学校教育や社会教育の推進により、若年層から高齢者までの共生意識の醸成に努めることがあげられる。 また、このような「地域全体での相互理解」の実現に向けては、より身近な「家族等との相互理解」が、その前提としては欠かすことのできない重要な要素となる。「自分らしい生き方・逝き方」について、家族とともに考える時間を持ち、認識の共有を図ることは、互いに離れて暮らすことが多くなった家族の絆を深めるためにも、今後に向けてより一層求められる有用な取組であるといえる。 さらに、このような家族等も含めて、誰もが自立した生活と尊厳の保持を実現することができる地域を実現していくためには、成年後見制度や高齢者・障害者虐待の防止などの「権利擁護体制の構築」を推進していくことが求められる。 1の2 セルフケア意識の醸成 前述の通り、本推進ビジョンにおけるケアとは「住み慣れた地域や自らが望む場での生活の継続のために、自立した生活と尊厳の保持を目標として行われる支援や取組」であるが、将来的にケアが必要となる恐れがある人も対象として考えた場合、広義には全ての地域住民が「何らかのケアを必要とする対象」として認識されるべきであるといえる。そのようにケアを広義のものとして捉えた場合、全ての地域住民には、住み慣れた地域や自らが望む場での生活の継続に向けて、適切な食事・歯磨き・運動・睡眠など日常的な生活習慣や、健康づくり・介護予防など、自身の健康状態?生活機能を維持・向上させるための自発的な努力(セルフケア)が求められるといえる。 介護予防事業、及びその参加を呼びかける取組等は今後も引き続き重要であるといえるが、行政からの一方通行の呼びかけのみでは、多くの地域住民を効果的な予防の取組に結びつけることは困難であると考えられる。 地域に効果的な予防の取組を普及させるためには、まずは全ての地域住民が自身と周囲の人の健康・予防への関心及び意識を高めることが求められるとともに、これらの自発的な行動を動機付けるための支援が必要であると考えられる。 したがって、これらの自発的な行動とは、必ずしも自分自身だけで取り組むことを求めるものではなく、地域活動への参加や交流を通じながら、また必要に応じて、かかりつけ医・歯科医や栄養士、リハビリ専門職などによる評価・助言等を受けながら、地域との強いつながりの中で「自立した生活と尊厳の保持」を達成していくものである。 また、このようなセルフケアの意識は、全ての地域住民にとって重要であることから、子どもの頃から徐々に醸成されることが望ましく、そのための機会や学びの場を合わせて設けていくなど、それぞれのライフステージごとに求められる種々の意識醸成に合わせた取組を行っていくことが重要である。 なお、このようなセルフケアの意識は非常に重要であるものの、地域の中には、周囲から孤立した環境の中で、どのような状況になっても「誰にも助けを求めることができない」といったケースも少なからず存在する。 そのような状況の改善に向けては、希薄化が懸念される地域のつながりを取り戻すことに加え、「本当に困った時には、地域の身近な人に相談する」といったことを含めた「助け・助けられ」の意識の醸成及び実践を、地域の中で少しずつ進めていくことが必要であるといえる。 2 住まいと住まい方 安心して暮らせる「住まいと住まい方」の実現 安心して暮らせる「住まいと住まい方」の実現に向けては、その基盤となる「まちづくり」についての市としての考え方を、地域全体で共有するとともに、ケアのあり方を視野に入れた「まちづくり」を、統一された方針のもとに共同で進めていくことが求められる。 「住まい方」に深く関わる「地域コミュニティ」の再構築に向けては、地域の子どもから障害者、高齢者の方まで、全ての地域住民の交流機会の創出などを通じて、地域における「顔の見える関係」を構築していくことが求められる。 2の1 「まちづくり」に関する方針の共有 地域において、ケアのあり方を視野に入れながら住まいの整備を進めていくためには、「まちづくり」に関する市としての考え方を、ケアのあり方を含めた上で、地域で共有していくことが求められる。 例えば、「施設のバリアフリー化」や、「ユニバーサルデザインに配慮した生活環境の整備」、「多様な人々が混ざり合い、賑わいのあるダイバーシティ(多様性)のまちづくり」なと、まずはハード・ソフト面の多岐に渡る「まちづくり」に関する市としての考え方が、地域で共有されることが重要である。 特に「まちづくり」には、(ハード・ソフトともに)市場原理に沿って投資される民間資本による整備と、主に税金等を原資として整備される(準)公共財とが混在することから、必ずしも一致した方針のもとに整備されるとは限らない。 しかしながら、今後、高齢者人口の増加をはじめとした急増する様々なケアヘのニーズに対応するためには、限られた資源を効果的・効率的に組合せながら、有機的に機能させていくことが重要である。 こうしたことから、行政においては、客観的なデータ等に基づく地域の現状や見通しなどについての情報を地域(市場)に向けて積極的に発信していくとともに、中長期的な行政としての「まちづくり」に関する方針の共有を進めていくことにより、各主体の自由な活動を保障しながらも、ケアのあり方を視野に入れた「まちづくり」を共に進めていくことが求められる。 なお、本推進ビジョンについても、本市における「まちづくり」に関する方針の1つとして位置付けられる。 2の2 生活基盤としての「住まい」の確保と自らのライフスタイルに合った「住まい方」の実現 地域包括ケアシステムでは、本人の希望と経済力に適った住まいの確保が前提となる。今後は、高齢単身世帯や高齢者のみ世帯の増加や、地域住民の年齢構造、ライフスタイル等の変化などを踏まえながら、必要となる住宅の確保・整備を進めていくことが必要となる。 そのためには、本人の身体の状況に応じたバリアフリー化など住宅の良質化を図るとともに、多様な住宅の供給や暮らし方の提案がされるよう、住宅・土地所有者、事業者等への、住情報の提供や相談対応などを充実させていくことが重要である。 なお、ここでの「住まい」とは、一般住宅やサービス付き高齢者向け住宅、グループホームなどに加え、特別養護老人ホームや障害者支援施設などの入所施設を加えたものを想定している。これらの特別養護老人ホーム等の施設には、引き続き住み慣れた地域における「重度者向けの住まい」としての機能を発揮していくことが求められるとともに、地域における在宅生活者・介護者へのサポートや、他の福祉サービス・医療機関との連携、地域交流スペースや年間行事などを活用した地域との交流など、地域における介護・福祉拠点の一つとして、地域に積極的に展開していくことが期待される。 また、「住まい」と「住まい方」は一体として捉えられるべきものであるが、ここでの「住まい方」とは、家族等や地域コミュニティとの、生活を送る中での関わり合いとそれを含めた多様な生活の仕方を示すものであり、「誰と関わり、どのように生活していくか」といった観点である。実際の生活は「住まい」のみによって成り立つものではなく、その「住まい」での生活を支える「住まい方」との関係性が、在宅での生活を継続していくためには重要となる。 本市のような都市における地域コミュニティの再構築は、非常に重要かつ困難な課題であるが、誰もが住み慣れた地域での生活を継続するための基盤として、建物としての「住まい」のみでなく、地域コミュニティ等を含めた「住まい方」に着目していくことは、非常に重要な視点であるといえる。 本市においても、普段の近所付き合いについては、積極性の低い面がみられるものの、「地域で助け合うことは大切であり、そのためにもふだんからの交流は必要だ」との回答が最も多いなど、その必要性を感じる意識は高いものがある。 そのような意識を後押しするためには、例えば、地域の子どもから障害者、高齢者の方まで、その対象を限定しない多目的な拠点や交流の場を確保し、地域の中で機能させることなどが1つの方策として考えられる。なお、このような取組は「1の1 地域における「ケア」への理解の共有と共生意識の醸成」に記載したとおり、「地域の中で交流する機会を持つことにより、地域全体が高齢者や障害者、子育て世帯等の生活への理解を深めていく」ことにもつながるものと考えられる。 核家族化や少子化、未婚率の上昇などを背景としながら、今後ますます、高齢単身世帯や高齢者のみ世帯の増加が見込まれている。そのような状況の中、高齢単身世帯のほか、高齢者のみ世帯などで地域との交流がなく、人とのつながりが家庭内でのつながりのみといった状態となることは、地域における孤立化に陥る危険性をはらんでいるといえる。地域コミュニティの再構築をはじめとした支え合いの仕組みづくりは、このような社会的な背景からも、その重要性が非常に増しているといえる。 一部の集合住宅や大規模宅地等では、高齢化率が局所的に高くなっている地域もあることから、特に、互助による見守りや生活支援の取組などを推進・強化していくことも重要である。 例えば、市内のある地域では、町内会などが主体となった互助による見守り活動や、孤立しがちな高齢者や障害者、子育て中の母親などが気軽に集えるサロンのようなものをボランティア的に展開するなど、認知症予防や介護者支援、子育ての悩み解消、地域防災などにも繋がるような先進的な取組を実施しているところもある。 また、低所得の高齢者などの中には、住まいの確保や地域生活に困難を生じる方もいることから、地域の実情に合った支援の仕組みを構築し、尊厳を持って、地域での生活を継続できるような取組が必要であるといえる。 3 多様な主体の活躍 多様な主体の活躍による、よりよいケアの実現 今後は、求められる「ケアの多様性」に対応しながら、多様な主体の役割分担の概念である「自助」「互助」「共助」「公助」を、各々の特徴を活かしながら柔軟に組み合わせていくことが重要であるとともに、このような地域における「助け合い」の仕組みを、広く整備・機能させていくことが求められる。 特に、本市が有する豊富な「ボランティア活動」や「民間資源」の活躍を推進していくことは、「川崎らしい都市型の地域包括ケアシステムの構築」に向けては、不可欠な要素であるといえる。 さらに、今後増加が見込まれる「ケアを必要とする人」に対して効果的・効率的にケアを行っていくためには、これらの「多様な主体」の活躍と、適時適切な役割分担を実現していくことが求められる。 3の1 「助け合いの仕組み」に基づく、適切なケアの提供 個人の尊厳を保持し、本人が希望する生活を実現していくためには、地域及び住民の多様性に対応していくことが必要である。限られた資源をもとに、今後増加が見込まれる「ケアを必要とする人」に対して効果的・効率的にケアを行っていくためにも、行政だけではなく、事業者や町内会・自治会などの地縁組織、地域・ボランティア団体、住民など、地域内の多様な主体による適切な役割分担が重要となる。 この多様な主体による役割分担は、本市においては、これまで「自助・共助・公助」と表現されてきたが、本推進ビジョンにおいては、「自助・互助・共助・公助」とする。 ここで「自助」とは自らの活動により、自らの生活や健康を維持することであり、「互助」とはボランティア等のインフォーマルなサポートによる助け合いなどが該当する。さらに、「共助」とは医療保険や介護保険のような社会保険を介して提供されるサービスであり、「公助」は、自助・互助・共助では十分な対応ができない場合に、主に税負担により提供される社会福祉等が該当する。 (セルフケアを含む)自助は、自立した生活や尊厳の保持のための前提となるべきものであるが、自助・互助・共助・公助の関係は、互いに排他的なものではない。例えば、「自助+互助」、「自助+共助」、「自助+互助+公助」といったように、求められる「ケアの多様性」に対応しながら、柔軟に適時適切に組み合わせることが必要である。 したがって、この概念は決して過度な自助を求めるものではなく、自助・互助・共助のみでは生活の継続が困難な場合や、過度な家族負担等が懸念される場合においては、公助が果たすべき役割は依然として重要であるとともに、現状では互助・共助・公助によるケアを直接必要としていない場合においても、これらのケアが常に存在するという事実から得られる安心感などが、多くの地域住民の日常生活を支えていると考えることもできる。 「互助」は、近隣住民やボランティア等によるインフォーマルサポートに基づく、地域における「助け合い」であるとともに、「共助」・「公助」は、フォーマルな仕組みに基づく、「経済的な助け合い」という側面を持つ。 多様な人々が、同じ地域の中で、互いに安全?安心な生活を継続していくためには、このような「助け合い」の仕組みを整え・機能させることが重要であり、地域においては「ケアを必要とする人」と「ケアに携わる人」が明確に区別されるものではないということについて、互いに理解を深めていくことが求められる。 3の2 地域及び住民の多様性に対応するための地域資源の創出 地域及び住民の多様性を尊重するためには、地域内の様々な資源を組み合わせながら、適時適切なサービス提供を実現することが重要である。 本市は、政令指定都市の中では面積が最も小さい都市であるが、人口集積・年齢構成・外国人人口・経済力・新興住民の増加など、非常に多様な地域及び住民から構成されているという特徴がある。 一方で、本市は「ボランティア等の自発的な活動」や「高い産業集積」を持つ都市として、多様な資源を有するという特徴もある。したがって、「ケアを必要とする人」の地域及び住民の多様性に対応するためには、本市が有する多様な資源を柔軟に組合せながらケアを行うことが求められるといえる。 本市においては、ウェルフェアイノベーションの取組などを含め、都市として取り分け高い産業集積が存在する。ICTの活用などを含め、これらの魅力ある民間資源の最大限の活躍を促しながら、自助による自立した生活や尊厳の保持を支援していくことが、地域全体の満足度を高めるためにも、望ましい方策であると考えられる。 また、「ボランティア等による自発的な活動」については、ボランティア等の高齢化や女性の就業率の上昇、地域のつながりの希薄化などを背景としながら、今後はその維持・推進が困難な状況となることも懸念される。 そのためにも、互助による「助け合いの仕組み」の必要性が、地域にとって必要なケアを安価に調達するための手段といった発想によるものではなく、このような「助け合いの仕組み」の構築や参加、実践等を通じて、誰もが互いに助け合う関係であるという認識を共有し、希薄化が懸念される地域のつながりを取り戻すことにより、自らの生活を豊かにするためのものであるとの理解を深めていくことが重要である。 さらに、このような社会参加やそれに伴う活動などは、心身機能を含む生活機能全体の維持・向上につながることが期待される。「助け合いの仕組み」の中では、「助ける人」と「助けられる人」が明確に区別されるものではなく、「誰かを助けるための参加や活動」が、自らの生活機能の維持・向上とも密接に関係していることを理解することが必要である。 しかしながら、これらの(民間活力を中心とした)自助及び互助の活動水準については、地域ごとに濃淡があると思われることから、まずは本市としての統一した考え方を全ての地域で共有することが重要であり、実際の取組にあたっては、地域や個人の多様性に応じた検討を進めていくことが必要となる。 3の3 適切な役割分担に基づいた、専門職による高い専門性の発揮 今後、高齢化等により「ケアを必要とする人」の急激な増加が見込まれる中、医療・看護・介護を担う人材の不足は既に顕在化した問題となっている。今後は、持続可能なケアの提供体制を構築していくために、限られた資源を活用して、いかに効果的・効率的なケアの提供を実現していくかが重要な課題であるといえる。 例えば、本市の介護職業従事者は60歳以上が約2割を占めており(平成22年時点)、介護職員の高齢化は全国と比較してやや高い水準にある。今後増加が見込まれる要介護者への安定・継続したケアの提供のためには、介護サービス産業における若年層の確保が喫緊の課題であると考えられる。 一方、高齢者の約85%は介護サービスを利用していないなど、元気な高齢者も多くいる中で、高齢者自らも「ケアに携わる人材」として重要な役割を担っていくことが必要と考えられる。 また、今後急激な増加が見込まれる在宅療養において、質の高いケアを継続して提供していくためには、在宅医療を担う医療職や看護職の確保と、それらの専門職が効果的・効率的に高い専門性を発揮するための仕組みづくりが求められるといえる。 例として、現状で介護保険サービスとして提供されている調理や洗濯、掃除、ゴミ出しなどといった生活支援の一部を、民間企業等が提供するサービス(自助)やボランティアによる支援(互助)などにより担うことができれば、介護職が身体介助や医療・看護との連携など、より専門性の高い機能の発揮に集中することができ、限られた人的資源のもと、地域全体で高いサービス水準を実現していくことにつながると考えられる。 今後増加するであろう(看取りまでを含めた)在宅療養を支えるためには、まずはこのような多様な主体の参加による安定・継続した生活支援基盤を整え、介護職の専門性の高度化や医療職・看護職との連携強化などにつなげることにより、効果的・効率的なケアの提供を実現していくことが求められる。 4 一体的なケアの提供 多職種が連携した一体的なケアの提供による、自立した生活と尊厳の保持の実現 今後の高齢化とそれに伴う疾病構造の変化は、「治す医療」から「治し・支える医療」への転換を求めることにつながるが、在宅療養は医療のみによって支えられるものではなく、介護・看護・福祉・生活支援など、多職種が「顔の見える関係」を構築し、包括的・継続的なケアの提供を実現していくことが求められる。 さらに、これらの多職種によるケアが、本人の自立や自己実現を支援するものとしてその機能を発揮するためには、本人や家族の要望に単純に応えるのではなく、真のニーズを満たすために必要となる手段を、専門職としての立場から適切に提案していくことが求められる。 4の1 多職種連携による切れ目のないケアの提供 高齢化とそれに伴う疾病構造の変化等を背景に、今後は複数の慢性疾患を抱えながら在宅で生活する高齢者等の大幅な増加が見込まれる中、特に医療ニーズの高い方の在宅療養の継続や在宅での看取り、さらにはそれらを支える家族等を適切に支援していくための体制を、地域の中に構築していくことが求められる。 このように「誰もが住み慣れた地域や自らが望む場での生活を継続」していくためには、地域における資源・機能の整備のみでなく、その生活を支える医療・看護・介護・福祉などの多職種が一体となったケアの提供を実現することが必要であり、そのための入り口・手段として、まずは多職種間での「顔の見える関係」を構築することが重要であるといえる。 これらの「顔の見える関係」に基づく連携強化は、急性期から回復期、在宅復帰への一連の流れ(いわゆる地域連携パス)における、切れ目のない継続したケアの提供や、在宅療養を支援する医療や看護・介護・リハビリ・生活支援・その他インフォーマル資源等によるケアの一体的な提供といった、「機能分化され存在する個別のケアを、地域において包括的・継続的なものとして機能させる」ために、欠かせない取組であるといえる。 また、同様の取組は、認知症ケアパス(認知症の人の状態に応じた適切なサービス提供の流れ)の構築に際しても、非常に重要な視点となる。 このような標準化されたシステムを構築し、機能させるには、長い時間と継続した取組が不可欠となるが、まずは互いの専門職が果たす役割や日頃から抱えている悩みなどについて、互いに情報交換をするなどの取組から始めることにより、「顔の見える関係」を徐々に築いていくことが重要であるといえる。 さらに、次のステップとして、多職種の機能を統合し、一体的なサービス提供を実現するためには、一定のツールやルールを整備し、連携の仕組みづくりを進めていくことが求められる。具体的には、多職種間で情報共有するための様式の統一のほか、具体的な手順、日常の連絡調整上の配慮、共同で研修等を実施する際の連絡・調整に関するローカルルールの策定などを進めることが効果的である。 なお、「顔の見える関係」が十分に構築されていない状況であっても、ツールやルールの整備を先行し、その整備の過程を通じて「顔の見える関係」を構築していくということも、限られた時間の中でネットワークを構築するための方法論としては有用であると考えられる。 また、認知症の人の早期発見・早期対応についても、その実現のためにはこのような「顔の見える関係」が、地域コミュニティを含めた形で構築されることが重要であるといえる。 4の2 必要な機能に着目した適切なケアマネジメントの実現 「誰もが住み慣れた地域や自らが望む場での生活を継続する」ためには、ケアの提供に必要な基盤を地域に整備することに加え、専門職によるケアマネジメントのもと、それらのケアを適切に組み合わせることにより、必要となる「機能」が提供されることが重要である。 例えば、本人や家族が「可能な限り住み慣れた地域で生活を継続すること」を希望した場合、本人・家族にとって必要なことは「要介護状態や障害が重度化した場合にも、在宅生活を継続していくために、今すべきことは何か」を判断することであるが、そのためには高度で専門的な知見が不可欠となる。 特に、障害については、児童期においては身体的・精神的な発達、成人期においては家族構成や生活環境の変化、高齢期においては身体・認知機能の低下など、長い時間の流れとともに本人・家族を取り巻く環境や、その身体的・精神的状態が大きく変化することが予想される。本人・家族を支援する専門職には、このような障害の状況や環境の変化などを見越した上で、ライフステージに応じた適切なケアを提供していくことが求められる。 また、高齢化に伴う要介護状態の重度化についても、時間の流れとともに必要となるケアが変化し、その時々で適切なケアの組合せを変更する必要がある。医療・看護・介護・福祉等の専門職には、その度に「本人・家族の真のニーズ」を満たすために必要なケアの組合せを提案することが求められる。 ケアマネジャーは看護師等と連携しながら、今後の疾患や要介護状態の変化等を見越した上で、本人や家族の要望に単純に応えるのではなく、長期的な視点で真のニーズを満たすために必要となる手段を、選択肢として提示するスキルが求められるといえる。 なお、このような他の職種と連携することで、必要な機能に着目した一体的なケアを提供するためのスキルは、ケアマネジャーのみでなく、ケアの提供に携わる全ての専門職に求められるスキルであるといえる。 さらに、これまで障害者施策として進められてきた「地域リハビリテーションシステム」についても、今後は、多職種連携とケアマネジメントにおける専門性の確保と統合化に向けた基幹システムとして位置づけるとともに、高齢者や障害者に対するリハビリテーションに関する専門的評価、生活機能の向上や自立に向けた環境調整? まちづくり等、より広い対象を視野にいれたシステムとして、再構築していくことが求められる。 また、要介護状態や障害が重度化した場合でも在宅生活を継続していくためには、本人へのケアのみでなく、介護者の負担をいかに軽減するかが大きな課題となる。 そのためには、要介護認定や障害支援区分認定を受ける前などの、身近に相談できる専門職がいない段階から、地域包括支援センターや障害者相談支援センター以外にも、身近で気軽に相談できる場を用意することで、本人や家族の不安を取り除く効果を期待することができる。また、このような場を介して、同様の悩みを抱える人をはじめとした地域住民とのネットワークを構築することで、「顔の見える関係」を築くことにもつながると考えられる。 さらに、介護が必要になった初期の段階や退院後の在宅生活がスタートするタイミング等において、家族が介護の基本的な知識やケアの方法を学ぶ機会を用意するなどの取組は、家族も含めて在宅生活の継続に自信を持ってもらうことにつながると考えられる。 5 地域マネジメント 地域全体における目標の共有と地域包括ケアをマネジメントするための仕組みの構築 地域マネジメントは、主に行政に強く期待される役割であり、地域の目標を地域全体で共有しながら、個々の活動が1つの目標に向かって機能するための仕組を構築することが求められる。 本市における「地域マネジメント」のための仕組みの構築に際しては、「全市レベル」と「行政区レベル」の2層により構成される、階層的なマネジメント体制を構築することなどが想定される。 5の1 地域全体における目標・基本方針の共有 多様な主体が各々に個別の役割を担う中で、行政は、関係者全員が同一の地域目標を共有するよう働きかけ、それを個々人の行動レベルまで反映させることにより、地域全体の目標の達成につなげるという、極めて重要な役割を担っている。 そして、関連計画において具体的な地域目標や施策等を検討する際には、まずは地域の実態や地域住民の真のニーズなどを把握することが重要となるが、そのためには、本人の要望だけでなく、データ等に基づいた客観的な事実を把握するとともに、それらのデータを地域全体で共有することを通じて、共通認識の醸成につなげていくことが求められる。 さらに、データ以外にも、現場での実践を積み重ねていく中で専門職等が感じている地域課題を積極的に把握し、地域目標や施策の立案に反映していくことも、行政に求められる重要な役割であるといえる。 また、介護保険制度では、サービス提供者として民間事業者の参入を促進してきた経緯があるが、行政は地域におけるサービス・機能の整備を市場原理に任せるだけでなく、客観的なデータに基づく地域の実態や、地域に求められるサービス・機能に係る行政としての考えなどを積極的に発信するなど、これら民間事業者と地域の目標や課題を共有するための取組を積極的に行っていくことが求められる。 「地域ケア会議」や「川崎市地域自立支援協議会」などは、行政の考え方を関係者と共有する上で有用な機会であり、情報共有の場として積極的に活用されるべきである。 5の2 地域包括ケアをマネジメントするための仕組みの構築 行政が担う「地域マネジメント」においては、個人を対象としたケアマネジメントと同様に、まずは地域全体をアセスメントした上で目指すべき目標を明確化し、その達成のために必要となる資源・機能を、関係者との協働のもとに整備し、地域目標の達成状況を継続的にモニタリングしていくなどの役割が求められる。 そして、ケアマネジャーが担う個人レベルの「ケアマネジメント」は、行政が担う地域レベルの「地域マネジメント」の考え方や地域目標等を十分に理解しながら、常に連動するよう機能させるべきものである。 また、行政や地域包括支援センターが主催する地域ケア会議等においては、個別事例(ミクロ)を通じて得られた地域課題を、行政に対して情報提供し共有するという機能が求められるとともに、行政はその地域課題を解決するために、各地域の実情に応じた施策(マクロ)を検討するという連携・連動も重要である。 すなわち、行政は、地域の各主体と同一の地域目標を共有した上で、地域や各拠点との情報交換等を繰り返しながら、地域全体が一丸となって取り組むべき基本方針を定め、さらにその基本方針を地域内で共有していく役割を担う。 行政においては、本推進ビジョン及び関連計画を含め、このような地域マネジメントの仕組みを整備し、関係者間で継続的に運用していくことが求められる。 本市においてこのような「地域マネジメント」の仕組みを整備する際には、「行政区」を第1のマネジメントレベルとして、「区役所」と「生活レベルでの小地域」との間で行政区レベルのマネジメントを行っていくほか、「全市」を第2のマネジメントレベルとして、「市役所」と「区役所」の間で全市レベルのマネジメントを行うなど、階層的な体制を構築することなどが想定される。 なお、「生活レベルでの小地域」は、中学校区とすることなどが考えられるが、本市においては、これまで個々の施策・事業ごとに、様々な地域区分で取組を進めてきた経緯があることから、今後も多様な主体の参加に基づいた地域包括ケアシステムの構築を継続していくためには、これまでの既存のエリアごとの取組を尊重しながら、「地域マネジメント」の仕組みを構築していくことが求められる。 また、このような「階層的なマネジメント体制」においては、マネジメントレベルごとにその役割を明確化し、効果的・効率的な運営が行われるよう工夫をしていくことが求められる。 例えば、地域ケア会議等について、「第1のマネジメントレベル」である行政区においては、「生活レベルの小地域」において解決できなかった個別課題の解決や行政区におけるネットワークの構築、地域課題の把握や地域資源の開発・政策形成等を目的とした機会を、より高い頻度で確保するとともに、地域全体を俯瞰する「第2のマネジメントレベル」である全市においては、行政区を越えた課題の把握や資源開発・政策形成などの議論に重心を置くなど、マネジメントレベルごとにその役割を意識した運営が行われることが必要である。