資料編1 地域包括ケアをめぐる動向 1 地域包括ケアシステムの議論に至るまでの経緯 地域包括ケアシステムは、高齢者だけでなく、障害者や子ども、子育て中の親など、「何らかのケア」を必要とする人のための仕組みとしても捉えることができるが、元々は高齢者政策の議論の中で提唱されてきたものである。 平成12年に介護保険制度が発足して以降、介護サービス利用者・介護サービス事業者は年々増加し、介護を支える仕組みとして定着・普及していった。一方で、サービス利用の拡大に伴い、介護給付費や介護保険料が上昇し、制度の持続可能性をいかに担保するかが大きな課題となっていった。 団塊世代が高齢期を迎える2015年(平成27年)、後期高齢者となる2025年(平成37年)を目途に、大幅に拡大すると予想される介護ニーズにどのように対応すべきか、議論が行われるようになった。 介護保険制度改正に先だって行われた厚生労働省老健局長の私的研究会「高齢者介護研究会」では、平成15年に報告書「2015年の高齢者介護・高齢者の尊厳を支えるケアの確立に向けて」を公表した。その中で、高齢者の6割は介護が必要になっても現在の自宅での生活を継続することを望んでいる一方、重度者は施設サービス利用が半数を超えており、在宅サービスが在宅生活を十分に支えられていない可能性が指摘された。このほか、要支援者への予防給付の効果がみられていないこと、痴呆性(認知症)高齢者のケアの必要性等も、問題点として指摘された。 こうした中で、平成17年の介護保険制度改正の中で示されたのが、「地域包括ケア」である。高齢者が可能な限り住み慣れた地域で生活を継続できるよう、日常生活圏域単位で整備する地域密着型サービスの創設、包括的・継続的マネジメントを担う地域包括支援センターの創設、高齢期の活力を維持するための予防重視型システムヘの転換等が行われた。 その後も高齢化・長寿化が進展する中で、認知症高齢者や医療ニーズの高い要介護者、重度の要介護者が増加している。また、高齢者の世帯構成も変化しており、単身・夫婦のみ世帯が増加している。平成23年の介護保険法等の改正では、こうした状況に対応するには「地域包括ケアシステムの構築」が必要であるとし、その具体的な姿を「医療、介護、予防、住まい、生活支援サービスを切れ目なく提供する」仕組みとしている。また、地域包括ケアシステム構築に必要な取組として、@医療との連携強化、A介護サービスの充実強化、B介護予防の推進、C見守り、配食、買い物など、多様な生活支援サービスの確保や権利擁護、D高齢者の住まいの確保が挙げられている。 今後、医療費・介護費のさらなる増大が予測される中で、持続可能な社会保障制度を確立するため、平成24年には社会保障制度改革国民会議にて、医療・介護、少子化対策、年金の各分野について検討が行われた。地域包括ケアシステムについては、介護保険制度の枠内では完結しない仕組みであるとし、特に医療・介護の一体的な見直しやネットワーク化の必要性を指摘している。また、医療・介護・予防?生活支援・住まいの継続的で包括的なネットワークづくりに向け、2015年度(平成27年度)からの市町村介護保険事業計画を「地域包括ケア計画」と位置付け、多分野にわたる取組を推進するべきとしている。 2 地域包括ケアシステムの構築に向けた制度改革 現在、国においては、「地域における医療・介護の総合的な確保を図るための改革」により、高度急性期から在宅医療・介護までの一連のサービスを地域において総合的に確保することで、患者の早期の社会復帰、住み慣れた地域での継続的な生活の実現を目指しているところである。 本改革において、医療提供体制の構築とともに柱として掲げられているのが、「地域包括ケアシステムの構築」である。高齢者が住み慣れた地域で生活を継続できるようにするため、介護、医療、生活支援、介護予防の充実を目指すもので、以下の方向性が掲げられている。 サービスの充実として 在宅医療・介護連携の推進 認知症施策の推進 地域ケア会議の推進 生活支援サービスの充実・強化 重点化・効率化として 全国一律の予防給付(訪問介護・通所介護)を市町村が取り組む地域支援事業に移行し多様化 特別養護老人ホームの新規入所者を、原則、要介護3 以上に限定(既入所者は除く) 「在宅医療・介護連携の推進」は、市町村が主体となり、地区医師会等と連携しつつ、医療・福祉資源の把握、多職種の顔の見える関係の構築・人材育成、サービス提供体制の確保等の取組を進めていくものである。 「認知症施策の推進」では、事後的な対応に主眼が置かれていたこれまでのケアの考え方を改め、認知症の人が行動・心理症状等により課題を抱える前に予防的に対応することを基本的な考えとし、認知症初期集中支援チームや連携の要となる認知症地域支援推進員の整備が進められている。 「地域ケア会議の推進」は、個別事例の検討を通じて、多職種協働によるケアマネジメント支援を行うとともに、地域課題を整理した上で地域のネットワーク構築や施策への反映につなげるなど、実効性のあるものとして定着・普及させることを目指している。 「生活支援サービスの充実・強化」では、単身世帯等の増加による生活支援ニーズの拡大に対応するため、ボランティア、NPO、民間企業、協同組合等の多様な主体がサービスを提供する体制の構築を進めている。「予防給付(訪問介護・通所介護)の見直し」も、地域の実情に応じた取組が可能な地域支援事業に移行することで、生活支援を含む多様なサービス提供を目指すものである。 「特別養護老人ホームの新規入所者の限定」は、新規入所者を要介護3以上に限定することで、在宅生活が困難な中重度の要介護者を支える施設としての機能に重点化を図るものである。可能な限り在宅生活を継続するためのサービス・支援の提供体制がますます求められる状況となっている。 これらの方向性は、地域の「多様な主体」が「互いに連携」することにより、住み慣れた地域での生活の継続を目指すものである。したがって、各地域では、地域包括ケアシステムの構築に向けた基本的な方針を定め、地域住民・介護サービス事業者・医療機関・NPO・民間企業等のあらゆる関係者で共有することが求められているといえる。