川崎市水道百年史 川崎市上下水道局
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418アクティフロ回想録 アクティフロは、超高速凝集沈でん池です。フランスで開発されたシステムで、平成18年(2006)から生田浄水場で運用されています。1日の処理量が20万㎥で常時稼働する施設としては、当時日本初でした。あれから16年、事故もなく毎日京浜工業地帯へ工業用水を送り続けています。しかし、導入当初は苦労の連続でした。 そもそも上水道用に設計されたものですから、制御も上水道用。処理の失敗や機器の故障等が発生すると、すぐに停止してしまいます。飲料水としての安全性は万全なのですが、工業用水では困ります。飲料水ほどの高い基準がない代わりに、常に工場へ送り届けることが責務だからです。そのため、制御プログラムの改良を行いました。しかしこれはパテントを持っているヴェオリアウォーター社との戦いで、彼らの制御を大幅に改良することは許されませんでした。理解を求め何か月も話し合い、パテントを崩さないギリギリの接点を模索しました。代表的な例として故障等の警報にレベルを導入し、安全性が保たれない危険な故障以外は、プラントを停止させないようにしました。 一般的な凝集沈でん池は、ポリ塩化アルミニウム(PAC)を凝集剤として使いますが、アクティフロは更にマイクロサンドとポリマーを注入します。これにより、通常2時間程度の処理時間が18分に短縮されますが、オペレータにとって脅威で大阪まで2時間かかっていた新幹線が18分で到達するということで、人間の判断能力を大きく超えてしまいます。異常を検知し停止しようと思っても止めるのが困難で、気が付いたら濁りの残った水を工場へ送ってしまうという危険が常に存在します。これを回避するためにも、水処理の状況に合わせたプログラムの改良が必要でした。 いままで水道界では使用したことのない、食品工業からの機器を多用したプラントで、取り扱いやメンテナンスでも苦労しました。粉で納入されるポリマーを水で溶解する装置は、小麦粉を溶解してパン生地を作る機械です。水道界にもポリマー溶解装置はありましたが、あまり優れたものはありませんでしたが、食品工業用の素晴らしさには感服しました。粉の流路に設ける接続装置等は医療用です。 そのような訳で、新しい知見に溢れたアクティフロは、職員の好奇心を強く刺激しました。当時、他都市では導入されたアクティフロが不完全だということで、維持管理部門が引き取りを拒否し、建設部門が細々と試運転を繰り返していたという話があるくらいです。アクティフロを受け入れ、前進してきた川崎水道は、100年を迎えても先人たちが続けてきた不屈のチャレンジを忘れることなく、どんどん新しい技術に挑戦してください。元生田浄水場長 渡辺 尚夫 氏コラム第2編工業用水道第3章工業用水道の拡張から維持管理への転換

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