幸区こども・子育て講演会動画「コロナと共に生きる子どものこころ ―輪(わ)とレジリエンスの視点から―(3)」テキスト情報
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ここまで具体的に子どもたちの心の状態がどんな感じなのかなというところを見てきました。ここからは子どもたちが持っているリソースに注目します。先ほど申し上げたように、子どもたちの健康、その子だけではなくて、その周りがどうあるかというところが非常に深く関わっています。そうすると、子どもたちの前に誰がいて、何ができるかということがとても大切です。
子どもたちが誰かと話す時間について第5回の調査で尋ねています。ウィズコロナを強いられた1年間を振り返って、子どもたちの対人関係はどのように変化したかということを尋ねているんです。コロナ前と比較して、コロナのせいで、またはおかげで減った、増えたと回答した子どもの割合をこのグラフで示しています。「家族と話す時間」については、増えたと感じている子どもも減ったと感じている子どもも、いずれも4割程度いました。「友だちと話す時間」については、4人に1人が「とても減った」と感じていました。「先生や大人への話しかけやすさ」については、およそ半数の子どもが減った、つまり、話しかけたり相談しづらくなったと答えてくれています。
これ、すごく大事だなと思っていて、大人に話しかけにくくなっているんですね。もともと相談しづらい、さらに大人にも話しかけにくいというと、子どもたちの相談は本当にハードルが高くなるなと思います。話しかけにくくなった理由はいろいろあると思うんですけれども、主としては大人が余裕がない、あるいは子どもにそのように見えるということです。子どもたちの自由記載からも、大人たちがすごく忙しそうだみたいな感じで話しかけにくい、大人たちをむしろ心配するような声も聞かれていました。少しでも大人のケアをしたり、大人にゆとりとか隙間をつくることがいかに大事かということかと思います。
もう一つ理由として考えられるとすると、フィジカルディスタンスだったりマスクだったりということで話しかけにくいことはあると思います。会話の制限とか物理的な距離のほかに、マスクで表情が読み取れなかったり、話しかけていいタイミングが分からなかったり、大人も子どもの表情が見えづらいので、ああ、しゃべりたそうだなというのが分からなくなったりしますね。あとは、もともと大きな声で話すのが苦手な子たちもいると思います。そういう子たちにとっては、そういった距離があったり、マスクがあったり、つい立てがあったりする中で、よりはっきり大きな声でしゃべらなくてはいけないというと、ああ、じゃ、いいかなと引っ込める子たちも必ずしも少なくないかなと思います。
じゃ、実際に相談できる人はどんな人がいるかなというところです。困ったことについて相談できる人は誰かというのをいろいろな分野別に聞いてみました。小学生と中高生と分けて結果を示します。
小学生ですと、家族に相談できると思っている子たちが多いですね。なので、家族との連携とか家族をサポートすることはより有用になるかなと思います。
中高生になってくると、家族の割合が少し減って、友人などに相談先が変化していきます。なので、友達に相談されたときにどうするかみたいなものを子どもと話し合ったり、シミュレーションするみたいな情報提供とか機会があるといいかもしれないなと思います。また、相談できる人がいないと答えている紫の場合、こっちですね。これも一定数います。特に家族のことだと、一定の子たちが相談する相手がいないよと言っている。もしかすると、その他の中には、SNSとかオンラインでの知らない第三者への相談もあるかもしれないなと思っています。安全にこうした相談ができるようになるサポート体制といったようもの、もちろんオンラインとか匿名での相談はすごく大事だなと思うんですけれども、それが安全にできるようなサポートも必要かなと思います。
子どもたちを取り巻く環境の中ですごく大切なのは保護者のメンタルヘルスです。保護者のメンタルヘルスに関しては、これは第5回の調査ですが、過半数の保護者が心に何らかの負担のある状態であると答えてくださっています。深刻な心の状態にある保護者も一定数いて、こうしたメンタルヘルスの不調が、家庭での子どもたちのケアにも影響を及ぼしている可能性があるかなと思います。
家庭でのストレスの高まりは、子どもに対しての好ましくない関わりに影響を与える可能性もあります。第3回の調査では、直近の1か月で家で「叩かれた」と答えた子どもは11%、「怒鳴られた」と答えた子どもが25%いました。特に外出が制限されている期間は、家庭環境の悪化が外からは見えづらく、注意が必要かなと思います。ですので、児童相談所に勤務しておりますけれども、児童相談所への相談件数も、2020年とかそのあたりは、学校とか子どもたちを見守るそういった機関からの通告が減っています。一方で、最近のトレンドとして、子どもたち自身からの通告が実数として増えているのが結構特徴かなと思っていて、子どもたち自身が児童相談所に電話をかけてきてくれたりとか、あるいは警察に自ら行って、そこで保護を求めたりとかということが増えていて、この間、多分いろいろな相談をするといいよということとか相談先があるよということとか、それは虐待だよということが広まったことによって、子どもたち自身の中での自立はもしかしたら高まっているのかもしれません。
さて、ここまでで本当にワンセットの一部なんですけれども、紹介してまいりました。最後、全文へのリンクなども紹介するので、皆さん、全ての結果、もっともっと多様な結果が分かりやすいスライドとかでもまとめられているので、ぜひ御覧ください。
では、ちょっと疲れたかと思うので、ここまで半分来ましたので、ちょっとリラックスの体操をしたいと思います。皆さん、今座って聞いていらっしゃいますか。そうしたら、1回座り直して、背筋を伸ばして、足をしっかり床につけてください。実は、皆さん、床を踏むことはあまり意識しないと思うんですけれども、両方の足でしっかり台地を踏みしめます。足の指が床をつかんでいる感覚を靴の中からでもいいので、少し感じてくださいね。
その上で、今からやるのは肩を和らげる体操です。皆さん、ストレスが高まったり、ああ、もう嫌だと思っているときって、ちょっと肩がすくんで小さくなったり、眉間にしわが寄ったり、上半身が結構小さくなる感じがありますね。そこを緩めていこうと思います。人間はすぐになかなか緩めることはできないんですが、極限までずっと縮めて力を抜くと、上手に緩めることができるというこの仕組みを利用して、このペンギン体操をやっていきましょう。
足は大丈夫ですか。しっかりついていますか。では、このペンギンのように、肩をぐうっと耳まで上げて、もっと上がりますよ。首をすくめてあごを引いて5秒数えます。1、2、3、4、5、結構力を入れて、抜きます。力を抜くときに、はあっと息を吐くのがポイントです。もう1回いきますよ。せいの、1、2、3、4、5、はあい。いいですね。もう1回、皆さん、自分のペースでちょっとやってみてください。どうですか。少し緩んだ感じがしたでしょうか。
このように、無意識のうちにいろいろなところが凝っていたり固まっていたりということはあるかもしれません。ぜひ皆さん、近くの人で肩がきゅっとすくんでいる人がいたり、自分も、ああ、すくんでいるなと思ったら、ちょっと声をかけてあげて、このペンギン体操を一緒にやっていただけたらいいかなと思います。
では、次に行きましょう。ここまでいろいろな子どもたちのSOSが出ているよという話をしましたけれども、どういうふうに対応していったらいいのというところを、皆さん、困るところもあるかもしれません。簡単に対応のポイントについて御紹介しようと思います。今回は特にトラウマの症状と希死念慮・自傷行為についてというところで行っていこうと思います。
さて、皆さん、こんなこと、あるでしょうか。こんなお子さん、いるでしょうか。突然暴れたり暴言を吐いたりする。座っていられない。集団に入りたがらない。叱られると過剰に反発する。何を考えているか分からない。被害者意識が強い。ぼーっとして聞いていない。いつも疲れている。こんな方がいると、ああ、困った子だなとか手がかかるなと思われるかもしれません。でも、その気持ち自体は、それはそれでとても大事なことなのでいいんですけれども、もしそういった子たちを今からお話しするトラウマというもののメガネで見ると、違うその子が見えるかもしれないというお話をしようと思います。
子どもたちの行動は氷山の一角です。一見、問題行動のように見える不登校だったり自傷行為だったり、そういういろいろなものがありますね。でも、そういったものはよくその根っこを見てみると、その子たちの個人の要因とか家庭の事情とか地域の特徴とかがあって、その中でいろいろなトラウマ・傷つきの体験を抱えているかもしれない。
そこで、どんなサポートを受けたかとかどんなケアをされたかによって、中には心や体、関係性に不調を来している子どもたちもいますね。そうすると、何とかそれをどうにか自分でしなきゃいけないという自己対処の努力の結果が、学校に行かなくなったり自分を傷つけてみたり、すごく叫んでみたり歩き回ってみたり、そういったような問題行動に見えるものになっているかもしれない。そう考えることができると思います。そのときに、ふだん氷山の上しか見えないわけですけれども、その水の中にどぼんと潜って、もしかしたら、この背景にトラウマとか傷つきの体験があるのかなという視点で子どもたちを見ているというのが、トラウマインフォームド・ケアという考え方なんです。
そもそもトラウマという言葉をあまり聞いたことがない方もいらっしゃるかもしれません。トラウマ体験というのは、医学的には非常に狭い考え方で、本当に危うく死ぬような体験、ものすごく大きな災害だったり事故だったり誰かが自殺するとか、そういったようなことになるんですけれども、広い視点から、トラウマインフォームド・ケアの視点からのトラウマ体験というのはもうちょっと広くて、その人にとって体や心がとても傷ついて、命を脅かすようなふうに思った出来事や環境をトラウマ体験といいます。これは1回のことも繰り返されることもあります。その人の生活や心身の健康・関係性に長く影響を与えます。なので、暴力だったりとか性的な虐待だったりとか災害、事故だけではなくて、貧困とかネグレクトとか家庭内の不和、暴力、いじめみたいな、じわじわその人をむしばんでいくようなものもトラウマ体験として捉えることができます。
大切なことは、トラウマは誰にでも起こり得ることで、冒頭にも少し申し上げましたが、18歳未満の子どもで、こういったトラウマ体験が何かしらある人たちは7割ぐらいいると言われているんです。ただ、同じ出来事があっても、その人がどんな特徴を持つ人で、どう体験するかによって、どういった影響が出るかは異なっています。
では、どういう影響が起こるのかというお話をちょっとしたいなと思うんですけれども、皆さん、トラウマ的な怖い体験をしたときにどんなふうになるでしょうか。例えば、ちょっと想像していただいて、皆さん、このシマウマだったとして、シマウマがサバンナでライオンに鉢合わせしました。皆さん、シマウマだったらどうしますか。勇敢にも戦うという人もいるかもしれない。逃げるという人もいるかもしれないし、こてんと死んだふりをする人もいるかもしれない。これを3つのFといいます。Fight、Fright、Frozenの頭文字です。この3つのF、「たたかう」、「逃げる」、「かたまる」というのは、生物にとって自分を守るための非常に自然な大切な反応なんです。
ですので、どれも生存のために大事な方略であって、さらに人間の場合には、すごいストレスがかかったときに、人とつながったり、一人で安心して過ごすことで自分を癒すことができます。今日は詳しくは申し上げないんですけれども、自律神経の調整がこれには深く関わっていて、自律神経失調症ですと言われている人たちの中には、もしかしたらこういったトラウマ的な反応から何とか自分を守るための、そういった調整によって今も不調を来しているのかもしれないと考えることもできます。
先ほど言ったように、「逃げる」、「かたまる」、「たたかう」ってすごい大事な反応なんですけれども、慢性のストレスにさらされている人たち、例えば繰り返しの虐待とか、まさにコロナのようなずっとのストレスにさらされていると、常にサバイバルモードになって、この「かたまる」、「逃げる」、「たたかう」という反応が日常の多くを占めるようになってきてしまいます。そうすると、普通のときでもリラックスできないし、適度な刺激と恐怖の区別がつかなくなってしまう。いつも救急車のサイレンが鳴っているという感じになってしまうんです。
ちょっと字がずれちゃいましたけれども、かたまる反応が優位な子たちというのは、何かぼーっとしていたりだとか、何考えているか分からないように見えるなとか、やる気なさそうだなとか、あとは不適応、何を言っても、大丈夫ですとかいいですみたいな感じになったりということもあるかもしれません。にげる・たたかう反応が優位な子、こっちのほうが分かりやすいですけれども、何かいつもイライラしていたり、すごい攻撃的だったり、やたら反抗的だったり、常に警戒している。そういったような子たちは、もしかすると、この慢性のストレスによって「かたまる」、「逃げる」、「たたかう」の反応が優位になっている子どもたちかもしれません。
そして、動物は生き延びるために努力をします。でも、それがうまくいかないこともある。つまり、「かたまる」、「逃げる」、「たたかう」の反応以外にいろいろな工夫を動物たち、私たちも動物ですけれども、するんですが、例えば、取りあえず記憶をしまい込むということがあるかもしれません。すごく嫌なことがあったときに、それは取りあえず記憶をしまい込む。例えば、お客さんがいきなり来たときに、ああ、何か片づけなきゃと思って、戸棚の奥に物をわあっと押し込むと、何か思いがけないときにあふれてきちゃったりすることもありますね。それと同じように、取りあえず慌ててしまい込んだ記憶は、思い出したくないときに思い出したり、フラッシュバックという体験として起こることがあります。
また、思い出すとつらいので、忘れようとする、考えないようにするという方略を取ったとしても、それが思い出しそうなこととか人を極端に避けることで生活が制限されることにつながったりとか、あとは記憶が飛びやすいという状態になってしまったりする子どももいます。また、つらいので何とか思い込みで乗り切ろうとするという子どもたちの中には、その思い込みが自分を責める方向に向くと、自分は悪い子だ、自分のせいだと向いたりとか、逆に周りを責めるような思い込みで乗り切ろうとすると、もう大人なんか誰も信じない、世の中腐っているみたいな、そういうような認知になる場合もあります。
あとは、トラウマの中で生きていくのはすごく疲れるので、何とか省エネモードにしようと思うと、ちょっとうつっぽくなったりとか、何も考えない、関わらないようにしようとなったりする子たちもいます。また、常に警戒しておく、感覚を敏感にしておくことで自分を守ろうという方略を取った子たちは、なかなか眠れなくなったりとか、集中できなくていつもうろうろしちゃったりとか、何だか常にイライラしているみたいな状態になりやすくなったりもします。
こういったようなことを医学的にまとめると、トラウマ症状と言われるものになるわけです。皆さんは、もしかしたら会議の中でトラウマ症状とかいうことを聞いたり、ここに出てくるような言葉を耳にしたりするかもしれせん。いずれにしても、トラウマ症状は、今のような生存の戦略として行っていることが症状として残ってしまって、過去に心身が振り回されているような状態ということになります。
大事なことは、上の侵入症状とか回避症状、認知・気分の変化みたいなことは、その子どもの中で起こっていることなので、外から見ていても大丈夫に見えるし、分かりにくいですね。さらに、逆に過覚醒症状という集中できないとかうろうろするとか、そういうのは問題行動として見られやすいですし、ADHDのような発達障害として誤解されやすいことがよくあります。巡回授業をしていても、何かこの子、授業中にうろうろしちゃって、全然集中できないし、すぐ人のことを攻撃するし、暴れやすい、多分ADHDですよねといって、学校の先生とかは感じられた人たちが、実はよくよくお話を聞くと、トラウマ症状による過覚醒であったということはしばしば見受けられることです。ですので、子どもたちの状態を見たときに、背景でこういったトラウマ症状が隠れていないかということについてはよく考える必要があります。
ということで、こういう子どもたちの様子について知っておくと、冒頭出したようなこういった子どもたちの様子が、単なる困った子ではなくて、あっ、もしかしてトラウマかなとか、生き延びる手段かもという視点を持って関わることができるようになるかもしれません。
このように子どもたち、皆さんが日々接している中でいろいろな問題と言われるものがあると思いますけれども、目の前の問題を超えて考えることが大事かなと思います。問題ばかり起こす生徒とか、何を考えているか分からない子じゃなくて、もしこのトラウマの視点を持つと、その子どもにとって、そのときに最適だった適応の努力の延長が今なのかなと考えられるかもしれません。すると、この子が生き延びるためにとってきた方略とか内なる力とか、周囲のリソースに敬意を払って、行動を超えてその子どものストーリーを理解して寄り添うことができるのかなと思います。
ここまでトラウマの話をしました。あとは、講演とかをしていてすごく多いのが、最近、死にたい気持ちだったりとか実際に自分を傷つけている子たちが多くて、どういうふうに対応したらいいですかということをよく聞かれます。皆さん、死にたいよと言われたとき、どんなふうに対応されていますか。
希死念慮とか自傷行為に出会うと、びっくりしてしまってうまく対応できないということがあるかもしれないですね。でも、それは本当に人として当たり前のことかなと思います。でも、事前に仲間とともに適切な対処方法を知っておくことで、本当にびっくりしてあたふたするんだけれども、でも、避難訓練みたいなものですね。何をするべきか知っておく。その共通言語をマニュアル化、共有しておくと、きっとそのときに思い出して、子どもたちにとってよりよい関わりができるかもしれません。
希死念慮への対応のポイントはTALKの原則があります。TALKの原則、皆さん、聞いたことはありますか。これは、Tell、Ask、Listen、Keep safeの4つの頭文字でTALKなんですけれども、一つ一つ言うと、Tellというのは言葉に出して心配していることを伝える。例えば、死にたいぐらいつらいことを教えてくれて、ありがとう。今何ちゃんのことがとっても心配だよと、自分を主語にして心配しているんだよということを伝えます。
Askというのは、死にたいという気持ちについてはっきりと尋ねることです。えっ、どんなとき死にたいと思うのとか、実際に死のうとしたことってある?みたいな感じですね。これは誤解があるんですけれども、そういう子に死にたいことについて聞くと、より死にたい気持ちになるんじゃないか。寝た子を起こすみたいになるんじゃないかみたいな意見がありますが、これはそうじゃなくて、いろいろな科学的な研究によって、死にたいという気持ちがある子に対して、死にたい気持ちについてちゃんとを聞くと、死にたい気持ちは少なくとも増えないし、むしろ減ることが分かっています。なので、安心して死にたいってどういうことっていうふうに、真っすぐ聞いてあげていいかなと思います。
次がListenです。話を聞くというのは傾聴するということなんですが、ここで大事なことは、介入しようとしないで、ただ聞くことがすごく大事です。行動の良し悪しを判断して止めようとしたり、命の大切さを説いたりすると、子どもたちが孤独感を増してしまいます。何でそこまで追い詰められたのかなという背景を純粋に理解したいな。純粋な関心を持って、その子どもたちの話を聞くことがとても大事です。
Keep safeというのは安全を確保することです。危険と判断したら一人にしないということ。それから、自分も一人にならないということです。そういうふうに受け止めると心のダメージも大きいですし、対応もいろいろしなきゃいけないことがあると思うので、子どもたちにきちんと許可を得た上で、チームで対応することが大事になってきます。
では、危険だったらというけれども、危険って何?ということなんです。自殺の危険性を評価するということ。つまり、自殺がどのぐらい差し迫った状態かを、何となくでいいので分かっていると、家庭とか医療機関といろいろな連携がしやすくなるかなと思います。自殺は計画が具体的であるほど自殺の意識は高いと言われています。なので、子どもたちが死にたいんだよねといったとき、「ああ、そうなんだね、どんなときに死にたいと思うの、実際に死ぬことって考えている?」「うん」といえば、「方法は実際に考えている?じゃ、首吊りしようと思っている?」というと、「ああ、そうなんだね、実際場所とか時間ってもう決めているの?」とか、あとは「やってみたことある?」とか、「何かそういう道具みたいなものっておうちに用意したり、それを買ったりしたことってある?」みたいな感じで、どのぐらい具体的なのかということを聞いていきます。もちろんこれは下に行くほど具体的でリスクが高いので、下に行けば行くほど、早期の介入というか、連携が必要ということになってきます。
一方で、とはいっても、子どもたち、特に思春期だったり抑うつ状態になったりすると、突発的な行動に出ることが非常に多いので、残念ながら予測できないことももちろんあります。また、今SNSで自殺系サイトだったりとか、自殺系サイトでなくても、何か映っているものとかが死というものになったりしているとか、突発的にそういう事象の画像を見るとか、そういうようなものがそういった気持ちを惹起してしまって、突発的に自殺の気分が高まることももちろんあるので、そういったようなところにも留意が必要かなと思います。
自傷行為の場合にも、対応のポイントは基本的に大きく変わりません。根本的に前提として大人がしておくべきことは、自傷というのは、子どもたちにとっての孤独な自己治療であり、生き延びるための手段であるということなんです。なので、自傷だけやめさせようとしても、それって自分にとってすごく大切だったものをいきなり奪われるということなので、どこかにひずみが来ますので、あっ、これは孤独な自己治療、生き延びるための手段として、何かしらこの子にとって役に立っているところがあるのかもしれない。そういったような視点を持って子どもに向き合うことがまず何より大切です。
やっちゃいけないことがあって、それは自傷行為を禁止したり、もう二度とやらないように約束させたりとか、カッターナイフを全部取り上げて捨てたりとか、そういったようなことは全く意味がありません。また、よかれと思って、あなたの命はね、命の大切さを説いたりとか、本当に悲しいからやめてと泣いて情に訴えるみたいなことも、かえって子どもたちが、ああ、大人に相談すると大変だなという感じで、孤独を深めてしまいます。また、勝手に周囲と共有することもやらないほうがいいと思います。周囲に共有するときには必ず子どもの許可を得て共有することが大事です。
やったほうがいいことというのは、TALKの原則は、子どもたちにとっての自殺念慮だけではなくて、自傷行為についても同じような原則が有効と思いますので、その原則で寄り添います。子どもたちが自ら自傷行為をしていることを責めたり、後ろめたく思っている子たちももちろんいるので、そういった子たちに関して、もしかしたら、もちろん最善のことじゃないかもしれないけれども、それは対処行動なのかな、力なのかなと一緒に考えることも大事です。また、専門家と連携し、相談先の具体的な提案をする。特に自傷行為が日に日にひどくなっていったりとか、日常生活に支障を来しているような場合は早めの相談をお勧めしています。
私たちコロナ×こどもアンケートでも、15%ぐらいの小中学生が直近2週間で自傷していることが全国調査でも分かって、本当にたくさんの子たちが自分で自分を癒さざるを得ない環境にあるんだなということに気がつきました。そこで、子どもたちや周りの人にちょっと見てもらえるような動画を作成しましたので、今一緒に見ていただけたらうれしいなと思います。ちょっと再生します。
(動画)
御覧いただいてありがとうございました。こちら、QRコードをつけていて、「#しんどいって言えない」とかで検索していただいても、パンフレットなどもありますので、必要な方に届けていただけたらいいなと思います。
そういうことで、いろいろな子たちと接していますが、本当に子どもたちの全ての行動はコミュニケーションだなと思っています。特に問題行動だったり、あるいは大丈夫そうに見える感じというものに関しても、それが心身の安全を必死に守るためだったりとか、満たされなかった欲求を代わりに満たすためだったりという意味があるのかなと思います。不登校だったり、自傷行為だったり、暴言だったり、無気力だったり、そういうのはもしかしたら子どもたちがつらい心の症状を意識、あるいは無意識に何とかしようとしていることかもしれません。つい、すぐに介入しようと思うんですけれども、その前に、関わりながら丁寧に観察する、何が起きているのか、ちょっとたたずむ、どんなコミュニケーションなのか考えるといった時間を取ることが大事なのかなと思っています。
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