これから専修大学経済学部生活環境経済学科、小池ゼミナール、鈴木ゼミナールの合同ゼミナールによる「共に生きる」を共に考えよう〜生活ニーズ再発掘のための地域調査・対話ツール開発〜をテーマとした発表を始めます。 目次です。はじめにタイトル、テーマの趣旨やゼミ活動における趣旨、前置きなどを説明します。次にゼミ活動で行った、高齢者体験、妊婦体験、フィールドワーク、シビックテック、ワークショップゲームから、共生社会の実現について考察します。最後にまとめとしてゼミ活動の総括をします。 はじめに、タイトル・報告テーマの趣旨について説明します。近年のコロナ禍における生活を通し、私たちの中で人々のつながりが薄れ、それによって孤立する人々が増え、地域における支え合いの基盤が希薄になっているのではないかという疑問が生まれました。それに加えて、少子高齢化の観点からも多摩区に限らず共生社会の必要性は高まっているのではないかと考え、共生社会をテーマとした『「共に生きる」を共に考えよう』というタイトルをつけました。そこで、私たちは多摩区における生活ニーズを再発掘することでそれが共生社会実現のきっかけになるのではないかと考え、活動してきました。 ゼミ活動の趣旨について説明します。実施に行ったフィールドワークを通し多摩区において共生社会の実現をするために必要なもの、すなわち生活ニーズはバリアフリーであると考えました。 また、ワークショップや高齢者体験などを通じ、自ら共生社会とはどのようなものかを考える環境を創り、一人一人が共生社会の実現を意識することを目標として活動を行いました。報告ではフィールドワークを通して見えてきた生活ニーズや問題点、解決案の提案・考察、そして、高齢者体験、May iiの体験から学んだことを活かし、実際に開発したワークショップゲームの紹介をします。 次にゼミ活動について説明します。小池・鈴木ゼミでは、「共生社会の実現」というテーマで、1年間ゼミ活動を行いました。共生社会とは、これまで必ずしも十分に社会参加できるような環境になかった障害者等が、積極的に参加・貢献していくことができる社会です。また誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合い、人々の多様な在り方を相互に認め合えることが可能な全員参加型の社会 のことであり、この定義を元にゼミ活動を行いました。 次にSDGSについて説明します。共生社会の実現にはSDGsの知識が必要不可欠であり、SDGsとは何かについて全員が理解を深めるために、『SDGs(持続可能な開発目標)』という本の輪読を行いました。SDGsとは、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指すためにつくられた国際目標のことです。17のゴール・169のターゲットから構成され,地球上の「誰一人取り残さない」という理念のもと様々な企業や団体で取り組まれています。 SDGsのゴールの中には、「ジェンダー平等を実現しよう」「人や国の不平等をなくそう」というものがあり、 特にゼミ活動では、身体的な格差や高齢者であるといった理由から生じる不平等を無くすべきであるということに注目してゼミ活動を行いました。 ここからは、ゼミ活動について説明します。はじめにゼミ活動では高齢者・妊婦体験を行いました。この体験は川崎市多摩区社会福祉協議会さんの協力の下行い、我々学生などが高齢者や妊婦は体が思った通りに動かないということを理解することで、個人が高齢者、妊婦のサポートを積極的に行うことを目的としています。具体的な内容としては、手足には重りをつけ関節を固定した状態でヘッドホン、杖、白内障ゴーグルを装着し向ヶ丘遊園駅周辺を実際に歩きました。体験を行うことで、目的とされる移動困難者が感じている障壁を実際に理解することができました。 一方で、我々が体験を通して実感した問題点は、「少しの段差でも大変」「手すりが欲しい」「耳が聞こえづらい」「足が思うように動かない」「妊婦さんは腰に負担がかかる」「足元が見にくい」といった6つです。このように実際に体験してみなければわからないであろう視点で移動の困難さを理解することができましたが、これらの問題点を改善しなければ共生社会の実現には繋がらないと考えました。そのため設備の拡充など物理的なバリアをなくしていくことも必要ではありますが、ゼミ全体では特に周囲の人が積極的に気配りやサポートをしていけるよう心のバリアをなくすことが必要であると考えました。 次に、フィールドワークについてです。 高齢者体験、妊婦体験を行い、移動困難者の実態を理解したうえでフィールドワークを行いました。その目的は実際に足を運び探索することで住民目線での地域課題の把握をするためです。調査地点は登戸地区と生田地区で、向ヶ丘遊園駅周辺と生田駅周辺の二手に分かれて行いました。調査日は11月1日月曜日と11月29日月曜日の計2回です。 まず、私たちは多摩区地区カルテの川崎市と多摩区の人口推計を比較し、そこから多摩区における生活ニーズを考察しました。人口推計から多摩区は今後高齢化が加速していくことが予測されます。また、児童施設が多いことも考慮すると多摩区における生活ニーズとしてバリアフリーが挙げられ、バリアフリーの充実が共生社会の実現に適しているのではないかと考えました。 次にフィールドワークの内容の説明に移ります。向ヶ丘遊園駅周辺の調査は、この登戸・向ヶ丘遊園駅周辺地区バリアフリー基本構想特定経路等地図を基に行いました。 続いて、生田駅周辺の調査についても、生田駅周辺地区バリアフリー基本構想特定経路等地図を基に行いました。 これは調査で見つけた医療や介護施設、地形、役所を3つに色分けして整理した地図です。地形は、バリアフリーを考え調査する上で特に印象的だった部分の写真を添付しています。 先ほどと同様に生田駅周辺の調査を基に作成した地図です。生田地区のバリアフリー推進構想特定経路等地図で設定されている範囲外まで拡大して調査を行いました。駅の南側の通りに沿って医療・介護施設が点在していることがわかります。 これは登戸駅周辺の児童施設が示された地図です。駅周辺だけ見ても多くの児童施設があることがわかります。児童施設以外にも公園や地域活動支援センターなど児童だけでなく、高齢者や障害者のための施設もありました。道幅が狭い歩道や、夕方以降は電灯がなく危険な道があることもわかりました。 生田駅周辺においても多くの児童施設や公園があることがわかります。実際に歩いてみると急な坂が多く、大道路以外は歩道が無い箇所が多く見られました。 バリアフリー経路に指定されていない道路では、歩道と車道の区別がつかない箇所が多く、加えて道幅が狭く、危険な箇所が多く見られます。上記の写真のように、車とスレスレになってしまう道がフィールドワークで幾つも見つかりました。 この改善策として、グリーンベルトの導入が進められています。グリーンベルトとは、歩道と車道の区分がされていない道路において、車道と道路の両端にある路側帯で構成されているエリアのことを指します。写真の緑色の部分は車が通行できない範囲となっており、交通事故防止、歩行者の安全を図る目的として導入されています。 これはフィールドワークを行った際に見つけた、改善が必要と見られる箇所の写真です。階段に手摺が設けられていますが、所々が錆びており、利用する際に使いづらい状態になっています。二枚目は歩道に設けられていた防護柵ですが、こちらも同様に錆びており、何かの衝撃で壊れる危険性があります。そして、先程の階段を下から見た際に、階段の5段目付近が崩落しかけているのを発見しました。 以上のように、フィールドワークでは地図やバリアフリー基本構想ではわからない地形やバリアフリーがいき届いていない部分などから多くの生活ニーズとなり得る箇所を再発掘できました。しかし、これらを自治体が全て正確に把握・管理することは困難であるという考えから住民の積極的な意見・情報の発信による自治体との協働が必要であるという結論に至りました。 次にシビックテックについて説明していきます。 私達は住民と自治体の協働のためにシビックテックを活用することが有効な手段のひとつではないかと考えました。シビックテックとは市民を意味するシビックという英語とテクノロジーを意味するテックをかけあわせた造語です。デジタルテクノロジーを活用して誰もが好きな時に好きな方法で行政の活動等に参画できるようにする活動のことで、これを有効に活用すれば住民が主体的に社会に参加できると考えられています。 ここでは実際にシビックテックが行われている川崎市の事例を紹介します。川崎にはオープン川崎という市民参加型のコミュニティの分科会であるCode for Kawasakiがあります。ここではシビックテックを広める活動が行われており、シビックテックを広めることで地域のエコシステムの創生やオープンデータやオープンガバメントの推進をめざしています。 シビックテックを説明する具体的な例として、私たちはメイアイといったアプリに注目しています。メイアイとは、大日本印刷株式会社(DNP)が開発した、助け合いをサポートするマッチングアプリであり、助けを求めると近くのアプリ登録者に通知が届き、助けを受けることができます。ゼミの活動で、実際に大学内で使ってみることでアプリの有効性を実感しました。 次にシビックテックの活用法と問題点・解決策について考察したものを紹介していきます。まずは活用法です。川崎市では令和2年度中に市立小中学校・特別支援学校の全児童生徒に1人1台端末を配備するという構想があり多摩区の小中学校では授業でタブレットの導入が進んでいます。それらを利用してシビックテックを授業の一環として取り入れてみるという方法を考えました。しかしシビックテックはデジタル化が進んでいない人々など、一部の市民が参加できないのではないかという新たな問いが生まれました。そこで私達は3つの解決策を考えました。一つ目は回覧板の活用、二つ目は自治体の掲示板の活用、三つ目は頻繁に利用する施設の活用でこれらはどれもデジタルを活用するシビックテックとは別の、アナログな方法です。一つ目と二つ目の回覧板と掲示板の活用とは、これらを情報を仕入れる場という方法以外に、市民から行政に対して発信する場として活用するという考えです。3つ目の頻繁に利用する施設の活用とは、例えばスーパーマーケットや駅など市民の多くがよく利用する場所に市民からの意見などを集める意見箱のようなものを設置するという考えです。これらによって行政では把握しきれないほどの細かい問題にも気づき対応することが可能になると考えました。 これらの取り組みによって、住民自らの地域を守る意識が強まり、町内会や自治会に加入する人が増え、最終的にまちの安心安全に繋がります。 以上のゼミ活動により、住民がニーズを表出するためにはコミュニケーションを円滑にすることが必要であると実感したことから、鈴木ゼミでは4つの班でワークショップゲームを開発しました。以下では時間の制約上、NEW GATE 新しい発想というゲームを取り上げて説明します。 このゲームは、様々な意見が交わりあい、新たな意見が生まれてくるようなゲームとなっています。このゲームを行うことによって共生社会を実現させるための新しい案を生み出すきっかけになればと思い、この名前を名付けました。このゲームは最小1グループ2人ずつの2グループとファシリテーター1人の5人、最大1グループ3人ずつの3グループとファシリテーター1人の10人でできるゲームです。問題解決をめざしてチーム内で話し合いを重ねていき、おおむね90分から2時間かけて行います。 このゲームで使用するものはサイコロと、移動困難者の悩みや課題が記載されているマスです。サイコロはルーレットでも構いません。 ここでゲーム内での約束事を確認します。1つ目はどんな意見も否定しないことです。これは柔軟な発想を求めており、発表しやすい場を作るためです。2つ目は積極的に発言することで、様々な意見を出すことを目的としているためです。3つ目は楽しく笑顔でコミュニケーションを取ることです。これは話し合いを円滑に進めるためです。4つ目は「健常者」と「移動困難者」、どちらか片方の視点に偏りすぎないことを意識することです。偏りすぎた意見では共生社会の実現は難しいからです。 以上の4つの約束を、ゲームを行う前に必ず参加者間で確認します。 次に、ゲームの実施手順を説明します。 このゲームでは最初にゲームの進行役となるファシリテーターを決め、そのあとにプレイヤーを各チーム2人から3人になるように振り分けます。そこで先ほど説明したゲーム内での4つの約束事を確認します。確認が終わり次第、各チームのプレイヤーの1人がサイコロを振ります。出た目だけスタート地点から進み、止まったマスで課題が決定します。各チームはそれぞれの課題を解決するために3分から5分間話し合い、3つの解決案を考えます。そして、各チームは自分たちの課題と、話し合って出た解決案を発表します。ファシリテーターは解決案に対して採点し、得点を発表します。制限時間が終了するまでサイコロを振って解決策を考えるといった動作を繰り返し、制限時間終了後にファシリテーターは振り返りを行います。この振り返りではこのゲームが想定した効果が得られたのかを確認します。移動困難者の悩みや困りごとを理解し、移動困難者との共存は可能であるということ、ささいなことでも自分にできることがあるということを実感できたかが重要なポイントとなっています。鈴木ゼミではこのゲームをおこなうことで多くの人に、移動困難者の実態、共生社会とは何なのか、また共生社会の実現には何をすべきなのかを考えてもらうことが共生社会の一歩へと繋がると考えました。 では、最後に小池ゼミ、鈴木ゼミの活動総括です。 高齢者・妊婦体験により移動困難者の実態を理解したうえで、フィールドワークを行いバリアフリーの現状の問題点を認識し、改善策を見つけることで、子供や高齢者が安全に暮らせる社会について考えました。これらの活動から、住民がニーズを表出するためにはコミュニケーションを円滑にする方法が必要であり、個人の移動困難者に対する意識を改善するきっかけとなるワークショップゲームを開発することの必要性を理解しました。これらの活動において、移動困難者の格差をなくすことを目指し、共生社会の実現を目標としたことで我々も1年間のゼミ活動を通して「共生社会」への理解度を深めていくことができたため、今後のゼミ活動にも活かしていきたいと考えました。 以上で発表を終わります。ご視聴ありがとうございました。