日本民家園の民家のあった場所の環境を考えるきっかけとなるワークシートを作成しました。3つのワークシートが完成しましたのでご紹介します。 この取り組みは、日本女子大学家政学部住居学科という、建築やまちづくりを勉強する学科の学生の3年生が作成したものです。 川崎市立日本民家園は、世界に誇れる多摩区の財産です。川崎市内の小学生は校外学習で必ず訪問をしますが、大人も子供も日本の伝統文化の力を感じられる素晴らしい場所です。 私共住居学科でも、建物のつくりを理解するために、必修授業で見学に来ることもあります。本当に素晴らしい屋外博物館です。 ただ、日本民家園の展示では、もともと立地していた場所の情報が多くはないことを残念に思っていました。そもそも現在建物が建っている場所自体は、 これらの建物が建っていた環境とは全く異なります。 古民家は建物そのものにも多くの知恵が詰まっていますが、立地していた場所や立地環境に合わせた建物の作りからも多くのことを学べます。 実はこのような学びは、自然と共生した豊かな暮らしの知恵と同時に、災害への備えにもつながる地形の理解にも結びつきます。 今回は楽しく地形等を意識するようなワークシートを作成してみました。 このようなワークシート作成に取り組んでいる背景には、お隣高津区の経験があります。2019年に発生した台風19号。 マンションの1階で暮らしていた方がなくなられる被害があり大変悲しい気持ちになりました。残念であったのは、 その方が浸水被害があることが明らかであった場所に生活していたらしたのに、早めの避難ができなかったこと。 実はここは霞堤とわざわざ地図にも記載され、ハザードマップでもリスクが指摘されていた場所です。 かすみ堤は伝統的な防災の知恵。田んぼなどに洪水を逃がすことで、町を守ります。 東京近郊等の大都市では、人口が増えた今、このようなかすみ堤の脇の浸水する場所に住宅を作って住まわざるを得ません。 私たちは、そういったことを知って、避難の心がけをすることが大事です。 日本は災害列島。絶対に安全な場所、というのはきっとないでしょう。 そういった状況ですから、自分のいる場所のリスクを知り、身の安全を確保する知恵を持つことが大事です。 こちらは男鹿半島の様子。なまはげが有名ですが、この集落は海側に船を入れる小屋があり、山側に住まいをつくるという形態の集落を江戸時代から築いてきました。 そうすることで、これまでにも津波や爆弾低気圧から、身の安全を守ってきました。断面図を見るとよくわかります。 2012年に発生した爆弾低気圧では、小屋は浸水したけど、母屋は浸水を逃れるという絶妙な場所に建ってます。 そして山の畑の中に蔵があり、更に高い場所に集落の神社がありいつでも逃げられる態勢が整っています。 東日本大震災被災地でも同様のこと見られました。 高台移転を前提に復興が行われ、大がかりな造成工事が行われましたが、私たちの先祖は、安全な暮らしを造成をせずに得ていました。 福島県いわき市にある豊間という集落の様子です。村の神社の本殿は被災しませんでしたし、江戸中期頃までに家が建った宅地は被災していません。 最も被害が大きくて亡くなられた方が多いのは、トドロと呼ばれる場所です。 トドロは等々力と同様、水がどーっと流れるという意味のオノマトペで、典型的な災害地名です。 漢字は後から兎が走る場所のような字があてられたので、地域の方は震災時には、気づいていらっしゃらなかったようです。 先人の知恵が周知されていれば、きっと避難をしていた方は多かったことでしょう。 薬袋研究室では、こういった研究から、民家園の民家を通した学びの機会を考えるようにしようと思いました。 今回作成したワークシートを通して、多摩区民、そして日本民家園を訪れる方々が、災害に備える感覚を、楽しく持っていただけることを期待しています。 造成される前の古い地形や土地利用を意識したり、その中での暮らしの豊かさを感じてもらえるようにしました。 勿論少しだけ災害への備えを意識させる文言もあります。 こういったことは、海外の方にも発信することで、日本の文化の豊かさ、知恵の深さを感じていただき、 暮らしていたり訪問してくださる多くの外国人の方に、命を落とすような被害に遭わないようにしていただければと思っています。 そのために英語だけでなく、ベトナム語ややさしい日本語にもしました。 やさしい日本語の特徴を知ることで、本当に災害に遭った時に、皆さんも外国人の方を支援できます。 普通の日本語と、やさしい日本語のワークシートを見比べていただくのも良いかと思います。 なお、やさしい日本語は、専門家の監修を受けてあります。 「野原家を学ぶワークシートの提案」と題しまして発表を始めさせていただきます。 まず、野原家の民家園内の位置に関しては右の図の通りです。野原家は18世紀後半に建てられた五箇山の合唱造りの民家で 昭和40年解体、昭和42年に復元され、民家園の開園当初からある3棟のうちの一棟となっています。 私たちが野原家を選んだ理由は3つあります。1つ目に「認知度の高い合掌造り」であること、 2つ目に「五箇山の深い歴史」を探ることができるのではないかと考えたため、 3つ目に「傾斜地を生かした暮らしの工夫」見ることで私たちの暮らしにも生かせるのではないかと考えたためです。 私たちは野原家の傾斜地で暮らす知恵や工夫や五箇山の風土を、イラストや図を多用してわかりやすく伝えるワークシートを作成しました。 ワークシートの内容としては現地調査・文献調査から雪対策や生業について盛り込みました。 A4両面で印刷していただき重ねて折りたたむと冊子になるという形式にすることでご家庭でも簡単に印刷でき取り組みやすいものにしました。 これらの現地調査を踏まえ、私たちのワークシートでは、民家園を訪れた川崎さんが移築前の野原家に飛ばされるという設定とし、 野原さんとの会話形式で順を追って野原家について学べるものにしました。 ここからは、実際に作成したワークシートを紹介します。冒頭では、このワークシートの趣旨を述べ、目次を提示します。 また、登場するキャラクター、川崎さんと野原さんを紹介します。 野原家の移築前の所在地を紹介するページには、広域の地図や地形図を掲載しました。 また、地図には河川や集落名等を記載し、五箇山の風土への解像度を高めます。傾斜地であることや山がちな地形であることが読み取れます。 続いて民家園移設前の野原家に関してです。富山県南砺市利賀村に位置しており、険しい山に囲まれた渓谷地域です。 地図からも分かる通り傾斜地に位置しており自然環境の過酷さが伺えます。 次に、傾斜地であることを踏まえた暮らしの工夫を学びます。その1つが雪対策です。 山岳地帯であると共に、豪雪地帯であったこの場所では、微地形を生かした雪対策をしていました。 具体的には、棚池を設けたり、斜面を生かした水路を設け、雪を溶かしていました。 この学びをきっかけに、自分の住む土地や暮らしの工夫について考えることが出来ます。 次に、野原家の生業について学びます。野原家は傾斜地に位置し水場からも遠いため、農業や稲作には適しません。 しかし地形のポテンシャルを生かし、炭焼きを行っていました。土地の特性を利用した産業は現在も見られます。 このページを通して、自分が住んでいる地域の産業と、土地の特性の関連に目を向けてもらうことを目指しました。 まとめと振り返りです。野原さんと川崎さんの会話を通して、「土地の地形に合わせた暮らしの工夫を考えてみましょう」といった問題提起を行いました。 ワークシートの内容の紹介は以上になります。 このワークシートでは、民家だけでなく立地や生業など多面的な視点を取り入れ、地図やイラストを多用して、わかりやすく学んでもらうことを目指しました。 また、タイムスリップをする設定や対話形式で話が進むため、子供や外国の方でも読みやすい構成になっています。 ワークシートを通して、楽しみながら自分が住んでいる場所について、再考するきっかけになればと考えています。 日本民家園の旧鈴木家について「八丁目宿 馬喰と馬の旅 馬を売りに行く人たちの宿場町」と題しまして ワークシートを作成しました。 それについての発表を始めさせていただきます。 話す内容はこちらの目次に沿って進めさせていただきます。 民家園においての旧鈴木家の場所は、正門から入ってすぐの宿場町エリアに置かれています。 旧所在地は福島県松川町本町で現在は薬局が建てられいます。 次に現地調査からの考察について発表させていただきます。 現地調査から、八丁目宿が置かれていた奥州街道の道は現在も主要な道路として使われており、 また江戸時代に引かれた用水路もまだ残っていることが確認できました。 江戸時代には馬や牛の蹄を洗うための用水路でしたが、現在は農作業に活用されていました。 この用水路の源流は安達太良山と呼ばれる山から来ていることも確認することる事ができました。 街道裏には諏訪山があり、八幡城跡地や諏訪神社に続いています。 内水氾濫が起こった際にはこれらの神社に避難していたのではないでしょうか。 また、旧鈴木家住宅跡地の裏にある用水路は住宅より少し高い位置にあり、敷地面積も広く、宿場町の馬宿は鈴木家のみだったため、 宿場町が栄えた頃は、かなり裕福だったのではないかと推測できます。 画面右側にある写真は、現在の街道の様子と用水路の写真です。 ここからは、実際に作成したワークシートを紹介します。私たちは、小学校低学年から中学生程度の子供たちが使用することを想定し作成しました。 表面は昔の八丁目宿の様子がわかるマップとなっており、 鈴木家オリジナルキャラクターである馬喰の「すずさん」と南部馬の「ナンちゃん」を登場させて、ふたりが旅する様子を会話形式で紹介しています。 一から十二までの順に会話を読み進めてもらうことで、一緒に旅をしているかのような気分を味わってもらえるかと思います。 裏面には八丁目宿の歴史や馬と鈴木家に関する豆知識、そして現地調査で撮った写真などを載せています。 A3サイズで印刷してもらうと三つ折りにすることができるので、表面の地図と裏面の豆知識を交互に見ながら楽しく学んでもらいたいと考えています。 次に、ワークシートを作成する上で工夫したことを紹介します。 まず1つ目に、図やイラストなどを多く用いることで、子どもたちがイメージを膨らませやすいようにしました。 すずさんやナンちゃんといったキャラクターに登場してもらい、鈴木家に親しみをもってもらえるよう工夫しています。 2つ目に、大事な部分は豆知識やクイズとして紹介し、さらに吹き出しの色を変えることによって視覚的にも変化がわかりやすいよう工夫しています。 3つ目に、現地調査で撮った写真を入れることで、八丁目宿の今の様子を知ってもらえるようにしました。 最後に、このワークシートを通して、鈴木家についての理解を深めてもらうだけでなく、今の暮らしにも活かせる工夫を探してもらいたいと考えています。 今回は「水」との関わりに着目して作成したので、普段の生活を振り返り、住居と水との関わりや水の危険性についてさらに理解を深めてもらえたらと思います。 子供たちだけでなく大人が読んでも学びのある内容となっているので、日本民家園で実物を見た際に「訪れて良かった」と思ってもらえるのではないかと考えます。 以上でB班の発表を終わります。 伊藤家について学ぶワークシートの提案と題しまして、日本女子大学家政学部住居学科薬袋研究室の飯塚、時田、矢野が発表させて頂きます。 よろしくお願いいたします。 まず本日の構成についてご説明させて頂きます。はじめに、伊藤家について概要などをご説明したのちに、現地調査とインタビューからの考察、 ワークシートの構成に関して、最後にワークシートの工夫をご説明させて頂きます。 伊藤家選定の理由は2つございます。 1つ目は、伊藤家が日本民家園誕生のきっかけとなった家であるためです。 建築史家である関口欣也博士の調査がきっかけとなり、伊藤家は300年ほど前のものとわかりました。その後1964年に国の重要文化財となり、 この家を川崎で保存しようという声が生まれたため、日本民家園が誕生しました。つまり、川崎市で文化財保護が進んだきっかけとなった重要な家であります。 2つ目に、伊藤家が建っていた場所が現存していることが挙げられます。私たち3人には、可能な限り実際に足を運んで学びたい、という思いがございました。 そのためワークシート作成にあたり、民家園内に保存されている旧伊藤家と、現存している伊藤家にお住いの伊藤様にご協力いただき、 ヒアリング調査・現地調査を行い、学びを深めました。 以上の理由より伊藤家にフォーカスを当てて民家園研究を行いました。 まず概要についてですが、表記してあります5項目が大まかな概要となります。 また、伊藤様にお借りしたビデオからは、金程地域は自然豊かな山々に囲まれ、農業が盛んにおこなわれている地域だとわかりました。 次に位置関係についてです。左の地図は民家園の地図でして、西門に近い場所に保存されております。 右の地図は現在の地図でして、伊藤家が元々あった場所と日本民家園の位置関係を表しております。 伊藤様、日本民家園様のご協力の元、私たちはどちらにも訪れることができ、当初の希望通り研究を深めることができました。 次に現地調査・インタビューからの考察です。まずは金程地域を歩いてみて、ということで、こちらの伊藤家に向かう道中の動画をご覧ください。 ご覧いただいた通り、金程地域が山間部にあり、自然が豊かな地域であった名残を感じられる場所でした。 次に現在と昔の様子です。左上は伊藤様にお借りした「日本民家園の発端」という関口欣也博士の著書にあります1955年時の伊藤家です。 山々に囲まれていることが分かります。続く二枚は伊藤様の家に保管されていた上空からの写真です。土地区画整理事業が行われていく様子がわかります。 そして右下の写真が私たちが訪れた際の様子です。周囲の山は削られ、伊藤家のみが元の高さにあります。 続いて、敷地内に現存するものからの考察です。ここでは蔵とお稲荷について取り上げます。 蔵は伊藤様のご自宅の横にありました。上段左から二枚目の写真のように、中には養蚕や農業に使う道具をはじめ、歴史的に価値のあるものが沢山ありました。 また、3枚目は、江戸時代につくられた木のはしごだそうで、製作者の名前が刻まれていました。 また、伊藤家が持っていた裏山ではドラマの撮影なども行われていたため、蔵の中には松坂慶子さんや志村よしひろさんなど著名な俳優たちのサインが飾られていました。 下段の写真につきましては、敷地内にあるお稲荷さんです。強い信仰心はなかったそうですが、 お祭りなどの行事の際には近隣の人たちが神社に集まったと教えていただきました。 最後にインタビューからの考察です。質問させて頂いたことは主に4点で、 養蚕に関して、農作業や生業に関して、宅地に関して、その他生活の様子に関して、です。 そしてこれらのことを1時間半程度お話をさせていただいた中で、3つの重要なポイントが得られました。 それが、屋号の文化について、土地区画整理事業による土地・地形の変遷に関して、そして環境に合わせた生業の実態に関して、です。 私たちは以上3点が伊藤家がこの土地で災害に見舞われずに長く暮らしていることを解き明かすものだと考え、この3軸に沿ってワークシートを作成しました。 ここからは簡単にですが、ワークシートの構成をご説明させていただきます。 ワークシートは3部構成にしておりまして、まずはじめに屋号について考えるクイズをつくりました。昔の地図や断面図を手掛かりに考える点がポイントです。 第2部は、土地区画整理事業についてです。 こちらは記述形式にしていて、答えを説明形式にするとともに、その他の伊藤さんとの会話や断面図からも学べるようにしています。 第3部では、伊藤さんの生業の一つであった農業に関して、土地の特徴を考えながら配置するワークをつくりました。 パズルのように楽しみつつ、地形の特徴や農作物の栽培特徴などの知見を総動員させるワークでして、大変こだわったところです。 最後になりますが、こちらにワークシートの工夫をまとめました。形式については、A4サイズで印刷頂ければ誰でもすぐにワークシートを作成できます。 日本女子大学の学生による取り組み、いかがでしたでしょうか? ワークシートがあることで、日本の魅力を、より深く理解いただけることを期待しています。 生田緑地でのイベント等でも来場者の方にご紹介して、裾野を広げたいと思っています ワークシートは研究室のホームページにあります。アクセスしてみてください。