婦人科内視鏡の検査および手術には子宮鏡と腹腔鏡があります。日本産科婦人科内視鏡学会の内視鏡手術技術認定医資格も腹腔鏡技術認定と子宮鏡技術認定とに別の資格として分かれています。当科の婦人科内視鏡外来では両者の認定医資格を有する担当医により実施しています。また生殖医療専門医として不妊治療の一環からの見地で、またさらに女性ヘルスケア専門医としての視点から、内視鏡手術を総合的な立場からとらえて患者様のニーズにお応えする外来として実施しております。


子宮鏡検査

子宮の中で育ってきた子供が生まれて出てくることからもわかるように、子宮の内側と体の外側はつながっているので、子宮の中に内視鏡を入れて観察することができます。これが子宮鏡検査です。子宮鏡検査は外来の診療として通常の婦人科の診察と同じように行います。短時間で終わり、また問題となる痛みはほとんどありませんので、麻酔は必要ありません。子宮鏡検査は月経終了後から排卵前までに行うのが検査に好ましい時期です。排卵後の(いわゆる基礎体温での)高温期であっても妊娠が完全に否定できるのであれば検査が不可能ではありません。しかし高温期では子宮の内側を覆う子宮内膜が厚くなっており、観察しにくくなったり出血しやすくなったりすることもあるので注意を要します。そのため実施時期については担当医と相談の上で検査予約日を決めています。検査当日の食事は普段通りで構いません。子宮鏡検査が終わった後に画像を見ながら検査結果の説明を行い方針および必要な治療などを検討していくことになります。
 子宮鏡検査を必要とする疾患は、子宮粘膜下筋腫(子宮の内側に筋腫が突出しているもの)、子宮内膜ポリープ、子宮腔癒着症、中隔子宮(子宮奇形)などが代表的です。子宮鏡検査の結果で、別に示すような各種子宮鏡手術の必要性を判断します。


子宮鏡下内膜ポリープ摘除術

子宮内膜ポリープは子宮の内側を覆う子宮内膜から発生するもので、10-15㎜程度のものが多く、茎(腫瘍の根元)が太くなく、硬くないため、外来で子宮鏡を用いて摘出することが可能です。通常の子宮鏡検査と同様な条件で予約日を決めて準備します。原則的に麻酔が必須な手術ではありません。手術とはいえ普通の子宮鏡検査と大きな差はありませんが、ポリープの位置や大きさ、形状、数などにより所要時間が多少長くなることはありえます。摘除の方法は、普通の子宮鏡検査と同様に子宮の内側にアプローチして、ポリープの状態を確認し、スネアというループ状の器材で結紮することで切断します。ポリープが非常に大きい場合や子宮頸管(子宮の出入り口)が狭い方などでは実施が難しいため、下記のような子宮鏡手術を必要とすることがあります。
 子宮内膜ポリープでは月経の経血が多くなる過多月経や不正出血などの症状が現れることがあります。不正出血などがある患者様は、前提として子宮に悪性の病気がないかどうかを判断する子宮癌検査を受けることが重要ですが、子宮鏡による評価も有用なことがあります。また子宮内腔の形態異常や慢性子宮内膜炎との合併などの理由で不妊症や不育症の原因になることがあります。不妊治療などを行っている患者様で子宮内膜ポリープを疑われた場合は、子宮鏡検査を行い必要に応じ子宮内膜ポリープを摘除することにより妊娠のための条件が好転することがあると考えられています。


子宮鏡手術

腹腔鏡手術はおなかを切らない手術としてもてはやされていますが、子宮鏡はおなかを全く切らない手術です。子宮鏡手術の適応になるものでは、子宮粘膜下筋腫(子宮の内側に筋腫が突出するタイプ)、子宮内膜ポリープ、子宮腔癒着症、中隔子宮(子宮奇形の一つ)などが代表的です。


①子宮粘膜下筋腫

 子宮粘膜下筋腫の場合は、月経の経血が多くて止まりにくくなる状態(過多月経)になりやすく貧血に至ることが多くなります。毎回のように月経の量が多い方は婦人科を受診し粘膜下筋腫の有無を見てもらう価値があります。同じ子宮筋腫でも子宮の外側に出ている筋腫(漿膜下筋腫)などでは子宮鏡手術でなく腹腔鏡手術が妥当な手術となります。


②子宮内膜ポリープ

 子宮内膜ポリープは上記のように外来で摘除することが可能ですが、大きいものなどに対してはしっかりとした態勢で子宮鏡手術を行う方が望ましいと考えます。


③子宮腔癒着症

 流産手術や子宮内の感染などにより子宮の内側が癒着(本来離れている部分がくっつく)してしまうのが子宮腔癒着症です。不妊症の原因となったり、ひどい場合は無月経までに至ることがあり、これも子宮鏡手術による癒着剥離で改善を図ることが可能です。


④中隔子宮

 中隔子宮は子宮奇形であり子宮の内側を二つに分けるような隔壁が存在する状態のものです。中隔子宮の場合妊娠はしますが、妊娠の継続に影響し流産率が高いことが特徴になります。子宮鏡手術により中隔を切除することで流産率を大きく下げることが示されています。


当科の子宮鏡手術のスケジュールは2泊3日の入院で行うことを基本とします。子宮鏡を子宮内に挿入して手術を行い、さらに切除したものを子宮の外に搬出するという点から、入院1日目の午後に子宮の出入り口(子宮頸管)を拡張するための処置を開始します。この拡張はラミナリア(水分を吸収すると膨張するもの)などの材料を子宮頸管に留置し一晩かけてゆっくりと広げることで行います。頸管拡張をしない場合は、子宮鏡操作が難しくなることだけでなく、摘出物搬出に無理があれば子宮頸管裂傷などの合併症を引き起こす恐れがあることも理解しておく必要があります。入院2日目に手術を実施します。手術はまず緩やかに拡張した子宮頸管を麻酔下で適切な径までさらに拡張します。子宮鏡で子宮内をよく観察精査して手術術式を再確認します。子宮内観察や手術操作のためには子宮内腔を拡げる必要があるので、潅流液(糖液や生理食塩水など)を子宮に注入することで行います。手術は電気メスによる切開、切除、細切などにより行います。手術終了後に必要があれば子宮内腔の術後癒着防止目的で子宮内に留置物を挿入することがあります。これは退院後初回の子宮鏡検査の際に抜去します。
 子宮鏡手術の合併症には、子宮穿孔、水中毒、子宮内感染症、出血、頸管裂傷、癒着などが挙げられます。合併症の頻度は少ないものと考えています。詳細については手術説明の機会に確認して頂ければと存じます。


腹腔鏡手術

当科では子宮筋腫や卵巣腫瘍等の良性疾患を中心に積極的に腹腔鏡手術を実施しております。川崎市立病院では腹腔鏡手術を1960年代から開始している伝統的な手術であります。1990年代までは実施施設が少ない手術でしたが、現在ではごく一般的な治療法になってきています。良性疾患の手術においては大部分が開腹手術から腹腔鏡手術へと術式が移行してきています。腹腔鏡手術は手術侵襲が少ない手術であり、創部(キズ)が小さく術後回復も速やかであるという利点を有しています。しかしそれは安全に手術を完遂して初めて侵襲が少ないと言えるのであり、一度合併症が発生すれば意に反し一転して開腹手術以上に侵襲の大きい手術となりえます。丁寧な手術を心掛けることは当然なことですが、腹腔鏡手術を選択してよいかどうかを慎重に評価判断することが重要と考えています。
 おなかの傷が小さいことが最重要ということではなく、安全に手術を完結させることが大事であり、そのための手術が腹腔鏡で実施可能であればより良いというコンセプトで対応します。腹腔鏡手術の適応を考えるにあたっては、手術すべき婦人科腫瘍の状態以外に、腹部手術の既往の有無、経腟分娩の経験の有無、体格(高度の肥満など)、他科疾患合併症の有無とその重症度なども評価検討すべき項目になります。腹部手術の既往があるとその手術の影響で腹腔内に癒着を生じていることがあり、その程度によっては手術リスクや難易度に影響します。また以前の開腹術創に加え腹腔鏡の創が加わることになり、美的要素という点では腹腔鏡手術のメリットを生かしきれない可能性はあります。
 適応疾患として代表的なものは子宮筋腫や卵巣腫瘍になりますが、子宮を全摘するのか子宮筋腫だけをとるのか、また卵巣を摘出するのか卵巣腫瘍部分のみ切除するのか、などにつき悩まれる方を多くお見受けします。婦人科内視鏡外来ではこのような部分を含め、経験に基づいて共に考える姿勢で対応してまいります。
 腹腔鏡手術の術後経過について、腹腔鏡手術は侵襲が少ないため、通常生活への早期復帰に向けて、手術翌日から歩行を含め体をよく動くことが勧められます。腹腔内(おなかの中)に炭酸ガスを注入して満たし拡張することで腹腔鏡手術は行なわれますが、術後2日目頃まではその炭酸ガスが腹腔内に残ることが多いため、その影響で起き上がった時の肩の痛みや、皮下気腫と呼ばれる胸腹部皮膚を押したときに感じる違和感(握雪感などと称します)を自覚することがあります。気腹症状は術後3日目頃には軽快していきます。退院後は元通りの生活に早期に戻ることが大事です。仕事に就かれている方では退院後1週間、遅くとも2週間で復帰するのが平均的な術後経過と思われます。


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