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第1章 危機にある川崎市財政

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 現在,川崎市は,指定都市移行以来,もっとも深刻な財政逼迫状況に直面しています。平成14年度予算においても,既に実質的には多額の収支不足が発生しており,このままで推移すると,現在考えられるあらゆる財源対策を講じても,平成17年度には赤字団体となり,平成18年度以降には,いわば民間企業の破産に相当する「財政再建団体」に転落してしまう危機的事態となっています。全国でも税財源に恵まれてきた川崎市は,多くの人々の予想をはるかに上回るスピードで財政状況を悪化させているのです。そこで,「第1章 危機にある川崎市財政」においては,川崎市財政の現況を客観的に説明したのち,こうした危機的状況に至った要因を,まずは歳入構造から分析します。

1 川崎市財政の現況

 平成13年度の川崎市の決算(見込み)は,「経常収支比率」が85.5%(普通会計ベース:経常的支出に充当する一般財源の割合で財政構造の弾力性を示す指標。一般的には都市にあっては75%程度が妥当),「起債制限比率」が12.7%(普通会計ベース:市債償還に充当する一般財源の割合で,20%を超えると起債が制限される。)となっており,表面上は他の指定都市と比較しても,特段に悪い数値とはなっていません。また,昭和47年に指定都市に移行して以来,今日に至るまで,自治体の赤字・黒字を一義的に表す「実質収支」は,黒字決算を維持してきたこともあり,川崎市の財政にはまだまだ余裕があると,安心している方々も見受けられます。しかし,実際には,川崎市における市税収入と歳出総額は大きく乖離したまま,さらに拡大する傾向にあります。市税収入と歳出総額の大きなギャップが,これまでの資産や基金を急激に減少させているというのが実態です。

グラフ1-1-1  歳入(市税)と歳出の乖離(実額)

歳入(市税)と歳出の乖離(実額)

グラフ1-1-2 歳入(市税)と歳出の乖離(昭和60年度を100とした場合)

歳入(市税)と歳出の乖離(昭和60年度を100とした場合)

 グラフ1-1-1とグラフ1-1-2によれば,当時不況であった昭和60年度に1,309億円であった市税収入と歳出総額のギャップは,その後のバブル経済期において,一旦は収束の傾向にありました。しかし,バブル経済崩壊後,平成4年度から平成7年度にかけて行われた景気対策を契機にそのギャップは再び拡大し,平成6年度には2,505億円にまで拡大しました。この後,縮小の傾向をみせていましたが,平成14年度には2,663億円にまで拡大し,今日に至っています。
 これを,昭和60年を100とする指数で見ると,平成2年度までは,むしろ市税収入の伸びが歳出総額の伸びを上回っていますが,平成3年度以降は,逆に歳出総額の伸びが市税収入の伸びを上回るようになり,特に,市税収入が38年ぶりに前年度割れした平成5年度以降は,そのギャップが急速に広がっていることが明確にわかります。
 こうした状況は,実質収支の動向にそのまま現れています。バブル経済末期の平成元年度の78億円をピークに,実質収支の黒字額は年々減少しており,ついに平成13年度決算においては過去最低規模の4億円強の実質収支にとどまりました。この間の決算の状況をさらに詳細に見てみると,実質収支から前年度の実質収支や財政調整基金の取り崩しなどの要素を差し引いたその年度の収支の実態を表す「実質単年度収支」は,平成6年度を除いて平成2年度から一貫して赤字となっています。
 しかも,平成10年度以降は,さらに財政健全化債の発行や減債基金の積立の一部繰延措置など,いわばぎりぎりの財源対策を講じた後の結果であり,実態が一層深刻化してきていることを示しています。端的に言えば,バブル経済の崩壊以後,川崎市財政は,これまでの資産を売却したり,将来のために蓄えていた残り少ない貯金をさらに取り崩したり,借金を重ね続けて,やっと,見かけ上の黒字決算を維持してきた状況であり,このうち借金や基金への積立の先送りをやめただけでも,実質収支は赤字に転落してしまう危機的事態なのです。

実質的な収支の状況(単位:百万円)
年度
実質収支
実質単年度
収支 a
財政健全化債
b
減債基金繰延
c
実質的な収支
d=a-b-c
平成元年決算
7,824
3,960
0
0
3,960
平成2年
5,220
△554
0
0
△554
平成3年
3,421
△2,623
0
0
△2,623
平成4年
3,074
△1,878
0
0
△1,878
平成5年
1,940
△6,642
0
0
△6,642
平成6年
1,514
276
0
0
276
平成7年
1,303
△3,522
0
0
△3,522
平成8年
1,122
△1,479
0
0
△1,479
平成9年
1,007
△5,619
0
0
△5,619
平成10年
929
△8,171
3,500
0
△11,671
平成11年
850
△569
1,800
2,485
△4,854
平成12年
859
△1,775
0
2,631
△4,406
平成13年
決算見込み
454
△4,901
2,700
2,730
△10,331

 こうした収支ギャップの拡大は,比較的良好とみられていたその他の財政指標にも暗い影を落とし始めています。「公債費負担比率」(普通会計ベース:公債費に充当する一般財源の割合。一般的には15%を超えると警戒ライン,20%を超えると危険ライン)は,平成3年度以降ほぼ一貫して上昇しており,平成13 年度には公共用地先行取得等事業債の満期償還の影響などにより,19.5%と危険ラインの20%に迫る状況にあります。また,冒頭言及しました「経常収支比率」についても,平成3年度からほぼ一貫した上昇基調にあり,他の指定都市なみと言っても,一般に大都市圏で硬直化が懸念されはじめる75%を大きく上回る水準にあります。
 ここで留意したいのは,投資的経費が1,000億円以下に抑制されるようになった平成8年度以降も,市税収入と歳出総額のギャップがさほど縮小していないことです。これは,もはや収支ギャップが一時的な公共事業の拡大によってもたらされた一過性のものではなく,歳入歳出に係る構造的な要因に基づくものであることを示唆しています。そこで,次に,市税収入を含めた歳入構造に関して分析してみることとします。

グラフ1-1-3 起債制限比率,公債費負担比率の推移(普通会計ベース)

起債制限比率,公債費負担比率の推移(普通会計ベース)

グラフ1-1-4 経常収支比率の推移(普通会計ベース)

経常収支比率の推移(普通会計ベース)

2 崩れた豊かな歳入構造

 収支ギャップが拡大してきている理由の一つは,市税を含めた歳入の伸び悩みにあります。京浜工業地帯の中核に位置する川崎市は,個人・法人市民税,固定資産税といった主な税目のほか,臨海部の埋立てに伴う土地売却や競輪事業等収益事業からの多額の繰入金など,強固で豊かな歳入構造を維持してきました。
 しかし,景気悪化や臨海部における産業の空洞化等による市税収入や収益事業の低迷から,これまでの歳入構造は大きく変化してきています。不景気のための一過性の要因ではなく,構造的な要因に基づいて,歳入の根幹である市税収入が伸び悩んでいるところに事態の深刻さがあります。川崎市として,税源培養策を真剣に検討しなければならない状況ですが,大きな経済構造の変動に伴う時代趨勢的な現象なだけに,安易に市税の増収を見込める状態ではありません。

(1)今後も大幅な増収を期待できない市税収入

 市税収入は,平成5年度に昭和30年度以来38年ぶりに前年度を下回り,平成6年度の税制改革や平成10年度の特別減税,平成11年度の恒久的減税の実施等の影響により,平成9年度をピークに低迷状況にあります。

  • 市税全体では,平成9年度の2,853億円がピーク
  • 個人市民税は,平成4年度の1,077億円がピーク
  • 法人市民税は,平成元年度の380億円がピーク
  • 固定資産税は,平成11年度の1,207億円がピーク

 個人市民税は,平成4年度をピークとして,以後は,バブル経済崩壊の影響による譲渡所得の大幅な減少や,数次にわたる減税措置の影響などから減収が続いていますが,今後も景気低迷の影響などから所得の伸びは期待できず,人口増に伴う納税者数の微増による増収要因はあるものの,厳しい状況は続くものと見込まれます。
 法人市民税は,バブル経済崩壊後の景気低迷の影響から企業収益が大幅に悪化し,国際競争力を強化する観点から実施された法人税率引き下げのほか,不良債権処理や円高の影響などから,税収は平成13年度では平成元年度のピーク時の52%にまで落ち込んでいます。平成12年度はリストラなど経営合理化効果により,また,平成13年度は前年における一時的なIT関連業種の好調を反映して増収となったものの,その後同業種も不況に陥るなど,本格的な景気の回復に伴う企業収益の増加があるまでは,当面厳しい状況が続くものと見込まれます。
 次に,固定資産税は,平成11年度をピークに平成12年度においては昭和30年度以来45年ぶりに前年度比減となりました。これは,土地・家屋の評価替えと企業の設備投資抑制の影響によるものです。今後も地価下落の進行や製造業を中心とした企業の収益悪化により設備投資が回復しない中では,固定資産税の収入減は当分の間,続くものと見込まれます。
 このように,市の歳入の根幹を占める市税収入は,急速な景気回復や大きな制度改正がない限り,大幅な伸びは期待できない状況にあります。

グラフ1-2-1 市税収入の税目別推移

市税収入の税目別推移

(2)今後は見込めない「安定的な土地売払収入」

 川崎市の財産収入は,土地・建物の処分や浮島地区の首都高速道路公団への地上権設定収入等により,平成3年度には270億円もの巨額なものとなりました。しかし,その後は減少し,平成13年度決算では33億円にとどまっています。
 また,実質的には財産収入となる臨海部における埋め立て処分に伴う特別会計からの繰入についても,平成6年度には131億円に達していましたが,現在では皆無となっています。
 臨時的な収入である「土地売払収入」は,川崎市においては多額で,しかも安定的収入として活用されてきましたが,今後は多くを望めない状況にあります。

グラフ1-2-2 財産収入の推移

財産収入の推移

(3)「収益事業」の危機的状況

 競輪及び競馬事業からの収益金の繰入は,昭和49年度に競輪事業から47億円,競馬事業から15億円,合計で62億円の繰入があるなど,昭和40年代には歳入の5%以上を占める時期が続き,安定的な財源として学校等の建設に活用されてきました。
 しかし,最近では平成3年度及び平成4年度の競輪54億円,競馬2億円,合計56億円をピークに,レジャーの多様化等の影響から激減し,平成11年度以降は,競輪事業からわずか1億円の繰入となるなど,施設の老朽化も重なって,今後も多くを望むことはできません。
 また,競馬事業は平成7年度から実質的に赤字決算となっており,競輪事業から借入金により対応してきましたが,平成12年度から神奈川県と一部事務組合を設置し,経営改善に向けた取組を行っていますが,平成12年度には,約14億円,平成13年度には,約31億円の赤字となっており,大変厳しい状況にあります。
 川崎市の「豊かな財源」の一角を担ってきた競輪・競馬事業も,一般財源としての繰り入れを期待することは,ほとんど望めない状況にあります。

グラフ1-2-3 収益事業の推移

収益事業の推移

(4)底をついた市の貯金=「財政調整基金」

 財政調整基金からの繰入は,平成10年度には84億円を取り崩し,平成13年度決算では,45億円,平成14年度予算では,40億円を予定しています。財政調整基金の残高もピーク時の平成3年度には,311億円に達していましたが,その後の取り崩しにより,平成14年度末では約4億円と底をついた状況にあります。
 その他の基金についても,それぞれの設置目的に応じた活用を図る必要から財源対策として活用は困難な状況にあります。

グラフ1-2-4 財政調整基金残高の推移

財政調整基金残高の推移

(5)頼みにできない「地方交付税」と「国庫補助負担金」

 本年6月25日に閣議決定された「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002」(骨太の方針第2弾)により,「国庫補助負担金・地方交付税・税源移譲を含む税源配分のあり方」を三位一体で検討し,改革案を今後1年以内を目途にとりまとめることとしています。
 この改革案は,<1>国庫補助負担金は数兆円規模の削減を目指す,<2>地方交付税は,9割以上の自治体が交付団体となっている現状を是正するため,財源保障機能全般について見直し,縮小することとしています。
 また,これに先立ち,6月17日に公表された地方分権改革推進会議の「事務・事業の在り方に関する中間報告」では,<1>公共事業について国庫補助負担事業の廃止・縮減,<2>義務教育費国庫負担制度について一般財源化を検討するとともに,指定都市については県費負担教職員給与を県負担から市負担とする方向で検討を行うこと等が明らかにされています。いずれにしても,今後は,地方自治体においてさらなる自主・自立の行政運営が求められており,国へ依存する財源は削減される状況にあります。