市立看護大学大学院 開学記念シンポジウム オンライン配信(テキスト情報)
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第1部
(動画0分13秒から)
【司会 事務局 関担当課長】
それではお時間となりましたので、これより「川崎市立看護大学大学院開学記念シンポジウム 地域包括ケアの未来を拓く:看護の学術的挑戦と高度実践者の育成」を開会させていただきます。ご挨拶が遅れましたが、私は本日の司会進行を務めさせていただきます、川崎市立看護大学事務局の関でございます。どうぞよろしくお願いいたします。

学長挨拶
(0分47秒から)
【司会 事務局 関担当課長】
はじめに開会にあたりまして、川崎市立看護大学学長の坂元昇から一言ご挨拶を申し上げます。坂元学長よろしくお願いいたします。
【坂元 昇学長】
みなさん、こんにちは。川崎市立看護大学の学長の坂元でございます。本日は多くの方に会場においでいただき、またウェブでご参加の方も非常に多いというふうに伺っております。このように記念すべきですね、川崎市立看護大学院開学記念シンポジウムに、多くの方にご参列いただきまして本当にありがとうございます。
この川崎市立看護大学は、もうご存知の方もいらっしゃると思うのですが、1964年、ちょうど第1回目の東京オリンピックが開催された年に、この近くにあります川崎市立病院の敷地内に高等専門学校として開学いたしました。その後1995年に看護短期大学となり、令和4(2022)年に大学となったところでございます。1964年以来、実に4,000名を超える看護職を川崎並びに地域に排出しておりまして、各方面より非常に高い評価を受けており、非常に伝統ある学校でございます。私は1964年の高等専門学校、看護短期大学、それから大学、これは、私は一つのものであるというふうに思っております。現在大学があるのは、その深い歴史の上に成り立っているということで、ご卒業生の方も、我々も、一体であるということをまずご理解いただければと思っております。
そしてこの大学院ができるにあたりまして、多くの先生方に大変ご助力をいただきました。荒木田副学長、それから岡田学科長はじめ多くの教授の先生に非常にご助力いただきました。それから文部科学省からは、「川崎の事務職は本当に優秀ですね、何のミスもないですね」というふうに非常に高い評価をいただいております。本当に感謝申し上げたいと思います。それから大学以外にはですね、川崎市看護協会から非常に多大なご支援をいただいておりまして、今日は看護協会の先輩方もお見えになっております。中には私が保健所に入った際にしごいてくれた元会長さんもいらっしゃいます。本当に懐かしい限りで本当にお世話になりました。このような形で川崎に大学院が開学できること、川崎で初めての看護の大学院が開学できることは非常に嬉しい限りでございます。
開学は4月です。ただ、文科省の認可が8月と遅くなり、募集がかなり遅くなってしまいましたので、応募される方は非常に慌ただしい中での応募となると思いますが、よろしくお願いいたしたいと思います。
それから開学にあたって、外部の方、それから川崎市の議会からも、多大なご協力、ご支援頂いております。ただ、議会からは授業料が高すぎるのではないかと言われてしまいました。修士と特定行為、高度実践も合わせて53万円ですから、私としては破格かなと考えておりましたが、まだまだ安くする余地があるのかなというふうに思っております。
大学院の場所は、暫定的に川崎駅から50mのフロンティアビルの10階に設けております。ただ、スペースが900平米と狭いので、全部合わせて3,000平米以上ある第4庁舎を将来大学院として使わせてほしいと現在ノミネートしており、各議会方面からもご理解を得ているところでございます。
ということで、我々大学院は今日を皮切りに将来に向けてますます発展させていきたいと思います。それも今日お集まりいただいた皆様、それからウェブでご参加の皆様の今後の支援をいただいて、我々は一層頑張って、さらに立派な大学院を作ってまいりたいと思います。本日は日本看護系大学協議会の鎌倉やよい先生をお招きして、これから素晴らしいシンポジウムが開催されると思います。皆様、どうか最後までご参加いただけたらと思います。
それからもう1点。これはお遊びの話ですが、この庁舎が昨年(2023年)10月に25階建で新設になりました。本当は航空制限がなければ、さらに高い建物を建てたかったのですが、航空制限があるので今の高さが限度です。25階の展望台はガイドブックにも載っており、夜景名所に選ばれています。休みの日も夜9時まで見学できますので、ぜひ今日のお帰りにお時間のある方は、立ち寄って川崎、東京の夜景を見ていただければと思います。本日は皆様方どうぞよろしくお願いいたします。
【司会 事務局 関担当課長】
坂元学長ありがとうございました。

市長ビデオメッセージ
(動画7分18秒から)
【司会 事務局 関担当課長】
続きまして、本シンポジウムの開催にあたり、川崎市立看護大学の設置者でございます福田紀彦川崎市長よりビデオメッセージをいただいておりますので、正面のスクリーンの方をご覧いただければと思います。
【川崎市長 福田 紀彦】
皆さんこんにちは。川崎市長の福田紀彦です。
川崎市は2024年の今年、市政100周年という歴史的な節目を迎えることができました。その記念すべき年の翌年に、市立の大学院を開学できることは感慨深い気持ちでいっぱいです。
ご存知のように、今後の超高齢社会に向けて、医療、介護、福祉などのニーズが高まる中、地域包括ケアシステムの取り組みは一層重要となってきます。このような社会的な背景を受けまして川崎市立看護大学は、地域包括ケアシステムに資する看護職を養成することを目的として、一昨年の2022年に短期大学から大学へ移行しました。
来年(2025年)開学する大学院についてもこの大学の目的を踏まえて、またそれをさらに一歩前に進めるため、より高度な専門性と実践力を有する看護職、そして多職種と共同連携し、地域包括ケアシステムを推進できる人材を養成するため設置することにしたものです。
おかげさまで川崎市は人口の増加が続くなど、元気な都市でありまして、この4月には155万人を突破したところですが、人口減少と超高齢社会の転換の流れは避けて通ることができない重要な課題となっています。
このような中、新たに開学する大学院が養成する人材は、私たち市民が住み慣れた地域で安心して暮らしていくためには欠かせない存在となってきます。
この後どういった大学院なのか、どのような特徴があるかなど詳しい説明があると思います。ぜひこの大学院で学んでいただき、将来川崎市を、そして日本を支える人材になっていただきたいと思っています。
結びになりますが、本日は、会場とオンラインを含めて、多くの方々にご参加をいただきまして、誠にありがとうございました。

特別講演 「看護における臨床・教育・研究の統合」 講師:鎌倉 やよい氏
(動画9分53秒から)
【司会 事務局 関担当課長】
それでは、シンポジウムの第1部に入らせていただきます。この第1部では、先ほど学長の方からご紹介がございましたけれども、一般社団法人日本看護系大学協議会の常任理事でいらっしゃいます、鎌倉やよい先生を講師としてお招きしております。ここからの進行は第1部の座長である本学の副学長、荒木田美香子が行います。荒木田副学長よろしくお願いいたします。
【第1部座長 荒木田 美香子副学長】
ただいまご紹介いただきました、川崎市立看護大学の副学長をしております、荒木田と申します。どうぞよろしくお願いいたします。第1部の座長を務めさせていただきます。
本日は鎌倉やよい先生にお越しいただいております。鎌倉やよい先生は先ほどご紹介のありました、一般社団法人日本看護系大学協議会の常任理事でいらっしゃいます。今まさに、看護学のコアカリキュラムの改定が進んでいるのですが、その中心におられる先生で、非常にお忙しくされておられます。お話の中にも恐らく出てきますので簡単にはなりますが、先生のご略歴を少し紹介させていただきます。愛知県立看護短期大学をご卒業後、慶應義塾大学で学士課程を取られ、愛知修徳大学院で修士・博士号を取られておられます。また、現場の方では愛知県がんセンターで看護師として勤務された後、教職に就かれておられます。
私は、鎌倉先生は本当に素晴らしい先生だと思っておりまして、日本看護科学学会の理事長をされていた時に、とても情熱を持って、さらにリーダーシップを発揮してガイドラインなども作っていかれた先生で、そういう先生のお姿を見てすごいなと感じました。
また、看護系大学協議会で何度かお仕事をさせていただくことがありまして、その際に先生とお話をさせていただくと、お嬢さんの話が出てきたり、お母様の話が出てきたり、家庭人としても豊かなご経験のことをお話しいただくフランクな先生です。そのような人間性、そして学術性、リーダーシップというところで本当に尊敬している先生です。
今日は「看護における臨床・教育・研究の統合」というテーマでお話しいただきますが、先生の本当に素晴らしいご経歴、ご経験を垣間見させていただけるのではないかと思い、楽しみにしております。鎌倉先生、どうぞよろしくお願いいたします。
【鎌倉 やよい常任理事】
荒木田先生、過分のご紹介をありがとうございます。そして、このような機会を頂戴し、学長の坂元先生、そして荒木田先生、そして川崎市立看護大学の皆様にお礼申し上げます。
では、早速始めてまいりたいと思います。本日の話ですけれども、私がどんな経歴があり、どのような研究領域なのかということをまず説明させていただき、そしてどうして研究が必要なのか、そしてチーム医療における看護師の貢献、そして臨床での研究疑問から研究成果を臨床教育へどう発展させていくのか、臨床で気づく質問・疑問を言語化していくことの重要性、そして研究疑問となりうるかを確認すること、そして最後にこれから50年の課題ということを少しお話しさせていただき、博士前期課程・後期課程での研究についてまとめさせていただきたいと思います。
まず自己紹介でございます。先ほどご紹介いただきましたけれども、私は愛知県がんセンターでちょうど10年働いておりました。病棟主任もしておりまして、そこの中でいろいろなことを患者さんから学んだと思っています。
そしてその後は、愛知県衛生部医務課というところで3年間看護行政に携わっておりました。行政に行きたかったわけではないのですが、ある時転勤の話で突然呼び出され、配置替えでなぜ呼び出されるのだろうと思ったら、県庁へ行きなさいと言われまして、3年間行ったという経過がございます。その後またがんセンターに戻り、その後教育の方に入りました。
そして最後は日本赤十字豊田看護大学で学長しておりまして、そこでコロナのことなど、いろいろと体験させてもらいました。
研究はと言いますと、先ほどご紹介があったように私は看護系ではなくて、主に心理学の分野で研究をしてまいりました。それが学士の人間関係学であり、修士(学術)、博士(学術)となっており、これは心理学の領域でございます。具体的に研究領域がどうなのかといいますと、こちらに赤字で記載したように、看護学の領域では成人急性期看護学を担当しておりました。術後の摂食嚥下障害や高齢者の摂食嚥下障害といったことも手掛けておりました。
そして、もう一つの輪が重なっておりますのが、先ほど申し上げた心理学でございます。心理学では行動心理にのめり込みました。なぜかと言いますと、行動心理というのは相手の行動を変える、つまりセルフマネジメントというところに根付いているのです。そこで、看護でこの手法が導入できるというふうに思い、行動心理、具体的には行動分析学と言いますけれども、そちらを学習し、そして研究もしてきました。研究手法としては右端の方に書いてあるように、シングルケース研究法、シングルケースデザインというものがありまして、実験的な研究で独立変数、従属変数を明確にしながらエビデンスを出していくという研究手法を学んでまいりました。
そして、博士でもやはり心理学なのですが、生理心理学を学びました。ここで私の獲得した一番大きなことというのは、生理指標を測定していくこと、ですからここでは筋電図を使ったり、呼吸センサーを使ったり、そのような道具を使いながら、生理指標を可視化していくという方法を学びました。
そして、もう一つ大きなところが摂食嚥下リハビリテーションの領域でございます。現在1万6,000人ぐらいの会員数で、そこの理事長をしております。これは愛知県がんセンターで最初に出会った患者さんですけれども、この患者さんは術後の方でしたが、半壊神経麻痺もないのに嚥下障害が起こる。それはなぜかという出発点でした。その後の脳卒中の方との出会いで、どうしてこんな「食べる」という事が重要なのに、放置されているのか?そういったところが私の研究の出発点で点から線、そして面へという形で広がってきて、リハビリテーション学領域の先生方との共同研究ですとか、そのような形で発展してまいりました。
ですから大きく分けますと、看護学と心理学と、そしてリハビリテーション学、その領域にまたがって活動をしてきたという経過でございます。
なぜ研究が必要か、私なりにいろいろと考えるのですが、やはり看護ケアの効果や実績を可視化していく、目に見える形にしていくということが一番大きいことではないかと考えています。そして、研究論文を通して、医療の専門職の相互理解ができる。お互いに研究論文を読みながら、この人はこう考えているのだと知り、そこの中でまた次の発展がある。そして何よりも、中央に書きましたが、医療を必要とする個人に提供する「看護ケアの質」を保証していく。これが専門職としての役割だろうと思っています。
そして、チーム医療が推進されてきましたけれども、この中でいつも思うことがあります。私の最初の出発、1980年代でしょうか、その頃にはどんな状況だったかと言いますと、「保助看法(保健師助産師看護師法)」には、「療養所の世話または診療の補助」ということが書かれています。そのために私は何を言われ続けたかと言いますと、「看護の独自性は療養所の世話である。診療の補助ではない。」ということを言われ続けました。その方向で看護界は進んできたと思います。ところが介護福祉士ができて、日常生活の援助というのは介護福祉士の役割になってきています。
そうなると、一体看護は何をするのかというような質問が出てくるわけです。そこの中で私が考える事は、医療・看護の特徴というのは医療を受ける個人の生活を支援する、だから保助看法では「療養所の世話または診療の補助」と書いてありますが、今の時代はこれがアンドで結ばれる。つまり、診療の補助の技術、生活の援助の技術。それを十分用いながら医療を受ける個人の生活を支援していく。このあたりが一番重要だろう、看護の特徴だろうというふうに思っています。
最初の頃はそのような状態でしたが、2002年に新たな看護のあり方に関する検討会ができて、そしてその後にチーム医療の推進が答申されて、看護の役割の拡大が求められています。この看護の役割を拡大していくという時にチームの中で、それでは看護はどのような技術をもって貢献するのでしょうか。チームの目標は健康の回復になります。患者さんの健康の回復です。それに対して、いろんな専門職がアプローチすることになりますが、それでは看護師としてどういう技術をもってアプローチできるのか?それを言語化しながら、そして論文にしながら他の専門職も理解できるような形で表現していくということが求められていると思っています。
そして、この図では何を言いたいかと言いますと、臨床の世界を眺めてみると、一番基盤になるもの、一番根底に人格的世界があると思っています。人格的世界というのは、患者さんと、それから医療者・看護師との相互作用によって生まれてくる世界だと思います。これを基盤にして、そして一番右端に看護師の態度として発信する方法論があり、そしてその態度を発信する技術というものがあると思います。
私は研究のために臨床に入った際に、ちょうど術前の患者さんの呼吸訓練でいかにセルフマネジメントできるかという研究をしていたのですが、その時の患者さんの言葉が今も耳に残っています。何かと言いますと、「ここの看護師さんたちは私たちに興味がないみたい」とおっしゃった。その「興味がない」となぜ感じるのですか?とお尋ねすると、「毎朝来てくれるんだけれども、毎朝言われることが『お変わりないですね』と聞かれるんですよ。『お変わりないですね』ということは私たちに『変わりがないですよ』という回答を求めているのだなと思いますので、その希望に沿って『変わりはないですよ』と答えています。」という返事でした。
そしてもう一つ、「そう聞きながら、看護師さんの足は次のベッドに向かっているのよ。私たちの正面に向かってないのよ。」とそのようなことを言われました。それは何を意味するかというと、私たちの知らず知らずのうちに出ている態度が患者さんに伝わっている。そして態度というのは、私たちが何を考えているかということを表現するものであり、そういったメッセージが非言語的なメッセージとして伝わってしまっているということを、痛感いたしました。
例えば、病棟主任をしている際に患者さんから通知表を渡されたことがあります。「ちょっと聞いてほしいんだ」と言われ、「いや、別に聞かなくてもいいけど」と言いながら、「でも聞いてほしいから」と言われて見せられました。看護師の通知表です。その通知表の基準に本当に驚きました。これが患者さんなのだという実感です。通知表の評価基準は3段階で、自分にとって役に立つ看護師か自分にとって害を与える看護師か、そしてその中間は害を与えないけれども、役にも立たない看護師かという3段階だと書いてありました。その患者さんは中学校の先生でした。それを見て、やはり患者さんたちが看護師を評価している、観察しているということを痛感するとともに、やはり患者さんに資するかどうか、その個人に資するかどうかということが重要だということを実感した次第です。
そのような態度の世界と、それから左側にもう一つあるのが論理的世界だと思います。論理的世界というのは、看護過程に代表されるように問題解決過程、問題解決技法によって行われる世界です。つまり、論理的にその病態を把握しながら、何をもってこの人の健康回復に資するのか、そういった方法論を技術として提供していくことが重要だと思います。
そして、私たちは看護計画をよく立てています。それをもう少し考えていくと、その看護過程そのものは仮説検証の過程です。つまり仮説検証は何を意味するかというと、看護計画として立案する際、それに裏付けされたエビデンス。つまりこの方法論を適用することによって、必ずこの結果を導くことができるといった根拠が必要になってきます。これがどのくらいまでできているかが、これからの課題になるだろうというふうに思っています。
そして体に介入する技術。これはいろいろと開発されてきました。行動に介入する技術。これは教育というような形で、患者教育という言葉で表現されていました。しかし、その効果を測定したというのが、なかなか少ないように思います。これはセルフマネジメントに関することで、ここを中心にしながら私は研究を展開してきました。
そして一番右に、先ほどお話しした望ましい態度を発信する技術で、これも心理の研究者が行った、病院でのナースコールの頻度を少なくするにはどうしたらいいのかという研究をサポートしたことがございます。その際に本当に驚きました。患者さんに「今日の看護師さんの名前を覚えていますか?」と聞くと「いや、毎朝来てくれるんだけれども、みんな同じ格好してるし。だからすぐに忘れちゃうのよね」という返事でした。そこに介入研究としてネームカード、今日の担当は誰々ですという名刺を作る。それによってどう変化するかということをみました。そうしたら非常に面白いことに、患者さんは看護師の名前が分かったので、ナースコール押すよりもナースステーションに行って、今まで「看護師さん」だったのが「誰々さん」と呼ぶように変わってきました。
そしてもう一つは看護師側の変化です。今までは行かなくてはと思っていても、なかなか行けないというところがあったかもしれないのですが、患者さんが個人名で来てくださるわけです。「誰々さん」と言って直接私に問いかけてくれるわけですね。そうすると、この患者さんは今どうなっているのだろうか、病状はどうだろうか、と気になって訪室回数が増えるのです。
そのような研究を通して、方法論を出して技術を開発する、というものが非常に重要だというふうに思っています。臨床での研究疑問から研究成果を臨床、そして教育へということになります。まずスタートラインは臨床場面で気づく疑問を言語化してみる。これは何だろうというような疑問ですね。それが本当に研究疑問とリサーチクエスチョンとなり得るかどうかを確認していく。そして研究を実施して研究の成果を臨床に還元する。それによってまだ次へ発展していくということがよくあります。研究成果を一般化して、そして教育の中に反映させる。こういった流れがあるだろうというふうに思っています。
臨床場面で気づく疑問を言語化する具体例を少し出していきたいと思います。まずは口に出す、言語化するということが重要です。
例えばですね、胃切除術後の6回食は一生続けなければいけないのか。それが、私が臨床にいた時に思ったところです。人によって3回食に戻っていたり、6回食を続けていたりするので、6回食はどのくらいまで続ければいいのだろうか、どのように退院指導したらいいのだろうか、というのが疑問にありました。2番目の例としては、術後のせん妄は不眠状態の後に生じているけれど、術後の不眠はどうして起こるのだろうか。3番目としては、脳卒中後には一過性に偽性球麻痺の状況を呈しますが、気管口から咽頭残留が流入して肺炎になるのではないか、そういった疑問が出てくるわけです。そういったものを書き留めておく。そして、喉頭摘出術後の患者さんは手術をどのように意思決定しているのか、さらに患者会が実施している食道発声指導のプログラムはどんな状態なのか、こういったような疑問をいくつか出していきます。多くの研究を行ってきましたけれども、その出発点は臨床での疑問だったと思います。
研究疑問となり得るかを確認する際に、よく院生が「これは誰もやってませんからオリジナリティが高いと思います」ということを言ってくれることがあります。しかしそれは「研究に値しないから、ないのかもしれないよ」ということを返したりします。つまり、いろいろと文献検索をすると、いろいろなテーマで研究が行われていますが、そのテーマに関して研究している人が多ければ、それが研究すべき疑問である、テーマであるということが言えるわけです。しかし全くない、ゼロであるというのは、本当にオリジナリティが高いのか、逆にあまり研究する価値がないのか、その両方を考えていかなければいけません。論文を読むことによってこう世界と会話しているという、そういう形につながっていくと思います。
ここからは、研究疑問の一つ一つがどんな形で研究に発展させてきたのかということをお話ししていきたいと思います。
胃切除術後の6回食は一生継続する必要があるのかですが、手術前の栄養状態、手術後の胃の機能の回復状況もさまざまであるけれども、患者の個別性は無視されているなということを思っていました。医療者の一律的な指示に対し、患者さんが実行するとは限らない。本当に実行してくださらない人が多いです。そして1回の食事量が少ないまま、食事回数を3回に変更し、栄養不良となることもあります。重要なことは、患者さん自身が自分の栄養状態を評価して自分の残った胃の回復状況を判断できること、そして胃の機能の回復状況に応じて最大限の量を摂取できること、摂取量を自律的に調整できること。これが重要だろうと考えました。
そして食事指導プログラムを制作いたしました。この基本的な概念は、最初に申し上げた「行動の強化の原理」というのがございます。その原理に基づいてこのプログラムを作りました。食事前後に体重を測定・記録して、その増加量を食事摂取量として患者自身が客観的な数値を把握できる。そして食後の上腹部感覚・不快症状を自己記録して次の食事摂取量を調整できる。それを入院中に学習していただく。そして胃の回復状態を評価して、食事摂取量と食事回数を退院後に自律的に調整できる。こういったことを目指してきました。
食事指導のスケジュールと概要。こちらは食事指導(1)(2)(3)とありますけれども、(1)は測定方法を説明し、(2)は食事の摂取量調整を説明し、(3)では退院後の3回食への戻し方を説明する。そのような内容になっています。術前3日間、上腹部感覚・不快症状の自己記録を行って、体重を測定していくという練習をしていただき、そして術後、食事開始になったならば、それを実行していただく。ここで看護師は患者さんの判断が正しいか、間違っているかということをフィードバックする仕組みを作りました。
ここまでは私の方で行っていたのですが、その後、修士課程の学生がこの研究をしたいということがありまして、術後の状況を測定いたしました。術後の状況というと、どんなことかと言いますと、具体的に退院時の指導で3回食に戻す方法まで行うわけですが、もちろん入院中から全部指導して、学習したかどうかということを確認していくわけです。
どうなったかと言いますと、最初に主治医に協力をお願いして、了承をいただきました。それでもあまり乗り気ではないな、という感触ではあったのですが、患者さんの変化が大きかったですね。どういう変化かというと、退院後に外来受診した時に、主治医が今の胃の調子はどうかと聞くと、「まあまあです」とか「少し食べられるようになりました」というような返事でしたが、研究が始まってからは「今何グラム食べられています」というような客観的なデータでドクターの方に返していく。それによって、「この調子ならば、もう少し入院日数を減らすことができる」というようにドクターは変わりました。
つまり今までは患者さんの方は自信がないから、もう少し病院に置いといてほしいという主張でしたが、自分で判断できるようになると、自信がついたから一刻も早く社会に復帰したいという形に変わってきました。ドクターの腕も非常に良かったということもありますが、胃の3分の2を取った幽門側胃切除の方は術後8日目に退院するようになりました。それほど変わってきました。
そして、この手術からの変化をどうしたかと言いますと、ここで見ていただくと分かりますように、この赤線が、術前の摂取量に対して何割まで食べることができるようになったかということを示しています。ですので、入院中の最後は44%でした。それが自律的に調整して、つまり食べられるようになって、不快症状がなければ少し増やしていく、これだけ食べられるようになったら1回減らすというようなルールを出していて、13週で93.8%まで摂取量比が上がりました。そして一番右端47.8%の人が3回食に戻しています。約半数はまだ3回食に戻ることはできずに、自分の胃との相談で4回食や5回食の方がいました。6回食の人はさすがにいませんでしたけれども、4回、5回と自ら調整をして、このような形での成果が上がっていきました。体重の方も一般的には退院するとガタっと減るのですが、減ることなく継続されました。
そしてこれは運動量との関係ですが、歩数が上がるに従って食事摂取量も徐々に上げていくことが、自律的にできたということになります。その時の大学院生は、本当に患者さんからの信頼を一身に受けて、とても充実した生活をしていました。
そして患者さんの方はまた変わります。退院後ですから、外来受診の際にいろいろなデータをこちらはいただくわけですが、エクセルで分析して持ってきてくれる方もいらっしゃいます。患者さんの力というのはやはりものすごく大きなものであって、それを利用しない手はないと思います。それがセルフマネジメントの醍醐味かなというふうに思います。
成果を臨床に届けるということで、これを病院に導入をし、栄養科とも調整をして、栄養科から食事指導をするところ、看護が行うところを全て分担しました。今まで栄養指導料が取れていなくて、その課題を出されていた栄養科長は「目からウロコでした」という表現をされていました。自分たちは一律の食事指導しかこなしてこなかったが、この病態によってこんなに変わるのかということがよくわかり、本当に共同していくということが重要だという言葉をいただきました。そのような形で臨床へ届けるということをしてまいりました。
次の例は、術後のせん妄は不眠状態の後に起こっているが、術後の不眠はどうして起こるのか。これはですね、修士に来た学生がせん妄の研究をしたい、そして物質が影響していると思うから、それとの関係を見ていきたいという話でした。そこの中で十分ディスカッションを行って、研究枠組みの構築に向けて検討をしてきました。
睡眠物質はメラトニンやプロスタグランジンD2などがありますけれども、まずは睡眠物質や覚醒物質が影響しているかもしれないというところにたどり着きました。動物実験の結果です。プロスタグランジンE2が睡眠を抑制して覚醒時間を増加させる、覚醒作用があるという動物実験の結果なども文献で検索し、やはりこれが影響しているのではないかと推測しました。しかしプロスタグランジンを確認している研究がまだ少なく、さらに私の臨床経験で耳に残っていた、患者さんの「本当に眠りたいのに眠れない。」という訴えがあり、これはやはり物質が影響しているかもしれない、そういう判断をして研究をスタートさせたという形です。その時には、私の力では及ばないところがありましたので、分子生物学の教授と共同体制をとって、その物質を測定していく研究を行いました。
その結果です。せん妄群と非せん妄群に分けていまして、そのプロスタグランジンE2は術後に分泌されます。一過性に分泌されて、すぐに減少することが報告されていまして、それが下の図です。非せん妄群です。これは正常な動きです。ところがせん妄群はどうだったかというと、プロスタグランジンD2がどんどん上がっていく。これにより眠れず、せん妄を引き起こしていることが見えてきました。これも論文にしていて、修士の研究です。
そしてもう一つ、脳卒中後には一過性に偽性球麻痺を呈する。気管口から咽頭残留が流入し、肺炎になるのではないか、そういう疑問がありました。私の中ではその疑問はずいぶん長いことありまして、脳卒中でも一側性障害、片方だけ障害される事が多いわけですが、その場合嚥下反射は障害されません。要するに、両側性の支配と言いまして、両側と反対側と両方に神経線維が入りますから、舌咽神経、迷走神経、それは障害されません。
ところが、発症後の急性期には片方(一側性障害)だけであっても、もう片方に影響を及ぼして1週間程度嚥下反射が抑制されてしまい、障害が起こります。偽性球麻痺の状況になります。その間、1週間を乗り越えれば、嚥下反射は元に戻ってきますから、ずいぶん回復するのではないか、この1週間の中で肺炎を起こさないようにすれば、患者さんの回復が早くなるのではないかと思っていました。これは修士・博士と連続してきた学生ですけれども、博士課程での研究につながりました。
何を行ったかと言いますと、気管口周囲に溜まっているからそこから誤嚥する。だからこそ、そこを定期的に吸引し、その吸引は鼻からの吸引だと気管口に入ってしまいますが、そうではなくて口からの梨状窩に入れて、そこから吸引をする。それによって変わるのではないかということを、確認した研究でございます。
実際には、看護師の梨状窩吸引の技術の演習をして、どのような吸引圧で行うかという演習も行い、そして試験も行って確認をして、そしてアルゴリズムに基づいて実施する。その結果、ミッドラインシフトがないような比較的軽い病態では、今まで肺炎を起こしていた人がいましたが、最終的にはそちらの群ではゼロになりました。これはディスフェイジアという国際誌に掲載された内容でございます。これは博士の研究の成果ということになります。
さて、先ほどの図に戻ります。看護教育に反映させ、そして同時に、「看護ケアの標準化」ということが必要になってくるだろうと思っています。その「看護ケアの標準化」というのは、看護は個別性ということをかなり強調してきたわけですが、私が感じているのは、その個別性を尊重するためには、その前段階の共通性が非常に重要であって、その共通性が盤石になって初めて個別性というところに行くのではないかと思っています。ですから、人であることによって同じような反応を起こすような共通性、そこを明確にしながら、その上に個別性を重ねていくことが必要でしょう。そのためには、いろいろな個別性があったとしても、そこに共通する「看護ケアの標準化」というのが非常に重要ではないかと考えているところです。その結果によって臨床看護の質が向上するだろうというふうに思います。
ここでも先ほどの図になります。ですから、看護師がチーム医療の中でもどういうエビデンスに基づく看護ケアなのか、それを可視化して、論文にして、そして他の職種にも提示していく。そういったことが非常に重要になってくるだろうというふうに思います。エビデンスに基づく看護ケアの方法論を体系化していく。これがとても重要だと思っています。
「これまでの50年」と大きく書きました。先ほどいろいろな研究のことをお話ししました。そして、臨床に還元するだとか、そして教育の方に還元するということもお話をしてきました。私自身はいろいろな研究を通してプログラムを作り、そして臨床にもどしてきました。その結果、研究者が関わっている間は本当にいい成果が得られました。
ところが、先ほど話をした栄養科長さんは指導料の倍増どころかものすごくたくさん取れるように変わり、とても評価されて栄転してしまいました。人がいなくなり、そしてだんだん研究として外部から入っている研究者も入れなくなって、手を引く。しかし研究に関わった人たちがいる間はとてもいい成果が出ます。ところが、どんどん配置替えで少なくなってく。すると崩れてきます。かなりいい成果を出したはずなのに、結果的にどうなったかと言いますと、また元の状態に戻っている。栄養科が全部一律の指導をして、指導料を取るという収益の方にいってしまっている。それを考えるときに、そして先ほどの梨状窩吸引もあれだけプログラムを作ってやってきた。しかし研究者がいなくなり、そうするとだんだん無くなってしまいます。
やはり、そこの中から思うことは、臨床の中に教育の質ではなくて、臨床の質、看護の質を維持する専門職というのが本当に必要だというふうに思います。その人たちは研究者であり、そして臨床家であり、そこの質を保証していく。こういったプログラムを開発して維持して、そして質を保証していくという役割の推進者が中にいないと、いくらプログラムを作っていってもなかなか難しいのだなということを実感しています。いくつも導入して、いくつも壊れていくというのを見てきているものですから、それを今後、看護の成果として発展させていくためには、そういった人材が必要だろうというふうに思います。
「これまでの50年」と書きましたけれども、先人たちの努力で大学において看護師養成がなされ、そして修士・博士、前期・後期ができてまいりました。この川崎市立看護大学も来年(2025年)度からの大学院が開学するという、そういう本当に嬉しい知らせの状況だと思います。
これまで看護診断学が体系化されてきましたけれども、その治療に当たるような、「看護ケア学」と私は呼んでいますけれども、ケアの方法論はまだまだ体系化されてはいません。多くの研究が実施されてきましたけれども、それを体系化していくということがまだ不十分で、標準化というものが不十分だろうというふうに思っています。これからの50年は何かというと、ここの部分だろうと思います。
これまでの50年というのは、私の看護師として歩んできた人生そのものになってしまいますが、これからの50年はこのケア学を体系化していく、それが一番重要ではないかと思っています。それをプログラムとして一つ一つ、これを解決するためのそのプログラムというものをどんどん開発して、そして標準化していくのが役割だろうというふうに思っているわけです。
これからの50年の課題看護ケア学の体系化と書きましたけれども、これをやっていかないと看護の学問としての体系化というのが難しいだろうなと思うわけです。まだまだこれから検討の余地はあると思いますが診断学があり、それに対して方法論を明確化していく、エビデンスを明確化していく。今ようやくガイドラインが各看護系大学、学会の方で作られるという動きになってきました。これは本当に嬉しいことではありますが、そのためにはですね、最後のスライドになりますが、皆さん方が研究をどんどん作っていく、研究成果を報告していくことがとても重要なわけですね。その研究を整理していくという役割になりますから、まずは研究をどんどん排出していく、言語化していく、可視化していく、そして多職種との会話ができるようにする、そういったところに皆様方が立っていらっしゃるというふうに思います。
博士前期課程はまず研究の出発点に立つ、そして博士後期課程は自立して研究することができる、研究者としてのスタートラインに立つということになるかと思います。看護師としての人生、職業人生というのはまだまだ続くと思いますけれども、そこの中で、やはり研究を通して、どんどん看護学を発展させていくということに、皆様方が貢献していただけるならば本当に嬉しいことだなと思います。私の話は以上でございます。ご清聴ありがとうございました。
【第1部座長 荒木田 美香子副学長】
鎌倉先生、素晴らしいご講義ありがとうございました。皆様の方から1問程度ご質問をしていただけますが、いかがでしょうか?質問をお待ちする間に、私の方もコメントや感想をお伝えしたいと思っております。
私は日本公衆衛生看護学会というところにおり、そこでガイドラインを作っているところでして、私はベースが保健師ですのでテーマが乳幼児訪問です。乳幼児の家庭訪問の実践ガイドラインを作ろうとしております。その際にやはり皆さんの研究を集めてきまして、実を言うと9本集まりましたが、日本の研究がありませんでした。この日本の研究がない中で、このガイドラインをどう作っていこうか、と苦労しているところですが、先生のお話を聞いていて、本当に日常で行っていることを、もっと可視化、評価して研究として発表していくこと、文字化していくことが本当に重要だというのを今まさに感じているところでした。本当に今日の先生のお話の、自分たちの目の前にある課題を研究に持っていき、現場にまた返し、そして標準化していくというところ、強く身に染みて感じたところでございます。
皆様の方から何かご質問ございますか?ではよろしくお願いします。
【質問者】
先生、貴重なお話ありがとうございました。僕自身は痛覚の実験や研究などをしていて、この後のシンポジウムの際にも、自分の研究成果を少し紹介させていただこうかと思っているのですが、今、先生の最後のあたりのスライドで、いわゆるガイドラインや標準化に向けた作業というのがとても大事だというのをおっしゃっておられました。
自分は痛覚の研究がしたくて今までしてきていて、実際やりたいことが叶ってはきたのですが、やはり仲間がいないとなかなか効率的に進まなかった経験があります。自分はこちらの大学ではいわゆる指導教員として関わるので、特に一つ先生にお聞きしたいのですが、院生を指導する際に先生がどのような形で院生と向き合い、その仲間をどういう形で引き上げてきたのかというようなことをご教示いただければと思うのですが、いかがでしょうか?
【鎌倉 やよい常任理事】
はい、ご質問ありがとうございます。院生には、研究テーマを自分で発想していくというところが一番難しいです。ですから、私の臨床疑問や「こんなところはどうかな?」ということをかなり提示しながら、そこに乗ってくる学生と一緒に向き合っていく。そして文献検討を通して、いろいろとこちらも学ぶことがありますから、そこから研究のデザインをして、一緒に研究していくという形です。ですから、全体でそれをしていくという形でやってきました。
それからもう一つ、力を入れていることは、私のネットワークの中に学生を引き入れるということです。私は心理学の研究者とのネットワークとリハビリテーションの研究者のネットワークがあるものですから、そこの中で共同研究として引き込んでいく。つまり、先ほどの分子生物学の先生や、それから説明はしなかったのですが喉頭摘出手術後の方々です。その方々は気管がなくなってしまうので、食道発声するときにすぐ後ろが食道なので、エコーでできそうだなというふうに考えて東大チームと連携をとるだとか、発声の状況でどれだけ振動しているのかを測定できないだろうかと思い、私が元々いた愛知県立大学の情報科学の先生方と連携をとり、そこに向こうの学生さんも引き込んでくるというような、ネットワークを広げていくということと学生もその中に引き込んでいき、一緒に育っていくということを心がけています。
私も実際、心理学の先生につきましたけれども、その先生のネットワークに中に入れてもらい、そこでどんどん広がってきたということを経験しているものですから、そういった形で仲間をつくっていくということが、学生にとってもすごく新しい刺激にもなってきますので、重要かなというふうに思い、心がけているところでございます。
【第1部座長 荒木田 美香子副学長】
ありがとうございました。
他ご質問いかがですか?よろしいでしょうか。お時間になってきておりますので、鎌倉先生、本日は本当にありがとうございました。これから私たちも一緒に大学院生と研究をしていきたいなと、すごく意欲が湧いてまいりました。ありがとうございました。
それでは進行を司会にお戻しします。
【司会 事務局 関担当課長】
鎌倉先生、荒木田先生ありがとうございました。
以上をもちまして第1部特別講演を終了とさせていただきます。2部へ入ります前に10分間の休憩を取らせていただきます。なお、ズームウェビナーでご参加の皆様は、接続はそのままでお願いいたします。では休憩といたします。

第2部
(動画1時間3分48秒から)
【司会 事務局 関担当課長】
それでは、川崎市立看護大学大学院開学記念シンポジウム第2部を再開いたします。第2部では「地域包括ケアの推進のために川崎市立看護大学大学院ができること」をテーマに、説明・ディスカッションを行います。

大学院の概要
(動画1時間4分7秒から)
【司会 事務局 関担当課長】
はじめに、川崎市立看護大学大学院看護学研究科の概要について、本学教授の岡田忍からご説明をさせていただきます。岡田先生よろしくお願いいたします。
【岡田 忍教授】
川崎市立看護大学の岡田と申します。私の方からは川崎市立看護大学の大学院の概要についてご紹介させていただきます。
まず、なぜこの川崎市に大学院ができたのかという経緯からお話したいと思うのですが、その前に川崎市がどういうところなのかということで、実は私もこの4月から川崎に通っておりますので、少し勉強させていただきました。
川崎市は東京と横浜の間にある細長い市です。調べてみると、全国の政令指定都市の中で一番平均年齢が若いという都市だそうです。ただ、先ほど市長のビデオメッセージもありましたように、人口が令和6(2024)年の7月1日現在で155万人を超えて非常に若く、今はそれなりに生産人口が多いのですが、やはり将来的には超高齢社会を迎えるということは、こちらのスライドからも明らかになっています。
実際に医療入院及び在宅医療の医療需要を調べてみたところ、それぞれ北部と南部いずれでも医療入院、在宅医療ともに医療需要が将来的にも増えていくということが予測されています。ですので、今後この複雑なケア問題を有する患者さんや医療依存度の高い在宅の療養者がますます増加してくるということが考えられます。そこに今からしっかりと備えをしようということで、高齢人口が川崎市においても増加し、非常に医療依存度の高い患者さんが増えることに対応するために地域包括ケアシステムを一層充実させていくということが必要です。
それに対応して、まずは学部教育において質の高い看護師を育成するために、2022年の4月に川崎市立看護大学が開設されました。これに加えて、医療機関や介護施設、事業所において、高い専門性を持って、所属する施設でリーダーとなれるような人、それから地域において看護の質の向上を牽引するような人材、それから子どもと女性に対して総合的な支援を提供できるような人材の養成が必要だということで、来年(2025年)の4月よりこの川崎市立看護大学大学院が開設されることになりました。学部教育と大学院教育両方が一体となって、持続可能で、実効性のある地域包括ケアシステムを作っていくというのが本学の大学院設置の狙いであります。
これが一般的な地域包括ケアシステムで、厚労省などでよく使われる絵ですけれども、この超高齢社会が進む中でいつまでも住み慣れた地域で自分らしく生活していく、自立した日常生活ができることように、生活に必要な医療、要素が包括的に確保されている体制づくりというふうに言われています。主にこの一般的な地域包括ケアシステムは、どちらかというと、高齢者がいかに住み慣れた地域で暮らしていけるかということに焦点が当たっております。ただ、川崎市では都市型の地域包括ケアシステムとして、この地域包括ケアシステムをこの高齢者だけではなくて、誰もが住み慣れた地域、自分が望む場で、安心した暮らしを続けることができる、という地域を実現することを地域包括ケアシステムと定義しております。ですので、川崎市の場合は高齢者だけではなく、すべての住民がこの地域包括ケアシステムの対象だということです。
この川崎市の地域包括ケアシステムを受け、本学の大学院では、こちらが研究科の全体像になります。
まず分野としては、基盤看護学と地域包括ケア看護学、それから助産学の3分野から構成されております。博士前期課程の基盤看護学は看護援助学、感染看護学、家族看護学、看護マネジメント学で、地域包括ケア看護学については小児看護学、成人看護学、老年看護学、精神看護学、在宅看護学、公衆衛生看護学、クリティカルケア看護学、医療経営学で、あとは助産学ですね。取得できる学位は修士看護学になります。就業年限は2年ですが、3年の長期履修制度がございます。入学定員は18名で、うち3名は助産コースになっております。
博士後期課程については、基盤看護学では看護援助学と感染看護学で、地域包括ケア看護学については老年看護学と精神看護学、公衆衛生看護学、医療経営学の4領域からなっております。博士後期課程については博士看護学の学位が取得できます。そして、入学定員は5名になっております。
それぞれ博士前期課程からもう少し詳しく説明いたしますと、博士前期課程については、助産コース以外は、研究コースと高度実践看護コースに分かれております。基盤看護学の研究コースについては看護援助学、感染看護学、家族看護学、看護マネジメント学の4領域。高度実践看護コースについては家族看護学と感染看護学の2領域。それから地域包括ケア看護学は、研究コースについては小児看護学、成人看護学、老年看護学、精神看護学、在宅看護学、公衆衛生看護学、医療経営学の7領域、高度実践看護コースについてはクリティカルケア看護学と在宅看護学、精神看護学の3領域が配置されております。助産コースについては、助産学領域1領域で、こちらは博士前期課程のみとなります。
博士後期課程はこの基盤看護学と地域包括ケア看護学の2分野で、基盤看護学については看護援助学と感染看護学で、地域包括ケア看護学については老年看護学と精神看護学、公衆衛生看護学、医療経営学の4領域が配置されております。
これを見ると前期・後期になっているので、前期を終了した後にそのまま博士後期に進学されたいっていう学生さんが恐らくいるかと思います。その場合は前期での研究テーマに応じて、そこに一番関連のある領域で研究を続けることができるようにというふうになっております。
次に博士前期のそれぞれのコースと、博士後期のディプロマポリシーについてご紹介いたします。研究コースについては、この後それぞれのシンポジストの方から詳細について話がございますので、ここでは特に強調したいところのみに留めたいと思います。
まず博士前期課程の研究コースでは研究を行うのですが、やはり地域包括ケアシステムを推進するということで、地域や社会の保健医療福祉に関わる課題解決やその看護ケアの向上に資する研究をしていこうということを目指しております。それから、研究コースについては前期課程も後期課程も医療看護職だけではなく、看護職以外の保健、医療、福祉、介護などに関わる方たちも受け入れる予定になっておりますので、この保健・医療・福祉専門職として生涯にわたってずっと自己研鑽していけるような方の育成を目指しております。ですので、研究コースに看護職以外の方も受け入れて、将来地域包括ケアシステムの中で共同していく人たちが同じ場で授業を受けることで、そこでネットワークができるということも期待できると思います。
それからこちらが高度実践コースのディプロマポリシーになります。高度実践看護コースでは専門看護師の受験資格を得られるということを目標にしておりますので、それぞれ専門看護師の6つの役割に対応したディプロマポリシーを設定しております。ここで強調したいのは、特にケアとキュアを融合するということです。地域包括ケアシステムの中で、在宅で継続して住み続けられるためには、直接的な実践の能力が必要になりますので、特にこの実践のところでケアとキュアを融合する看護実践力ということを強調いたします。これに関連して、希望する方については、特定行為研修についても受講できるようにカリキュラムを作っております。この特定行為研修については、指定研修機関としての申請を予定しているところで、まだ承認はされていないということをお断りしておきたいと思います。
それから助産コースですが、特にハイリスクの妊婦さんが増えるので、やはり専門化・複雑化する助産分野に対応できる助産実践能力の育成と、この川崎市の地域包括ケアシステムに対応して、ライフサイクル全般にあるすべての女性、子ども、家族、そして地域家族を対象にした看護実践、教育支援等を行うことができるような人材の育成を目指しています。
こちらが博士後期課程のディプロマポリシーです。博士後期課程は教育研究者の育成を目指しており、その中で本学研究科の特徴としては、研究を通じて、医療福祉におけるケアの質の保証や向上に貢献するということを重視しております。
次にカリキュラムについてご説明したいと思います。前期課程は、研究コース、高度実践看護コース、それから助産コース、この3コースはすべての大学院生が取れる科目として、この共通基盤科目を設定しております。共通基盤科目は看護基盤科目と専門基礎科目からなっておりまして、看護基盤科目の中ではすべてのコースに共通する、研究を実施する上で基礎となる科目が配置されております。それ以外に看護職、医療職としての幅広い視点やプロフェッショナリズム、倫理観を涵養する科目が配置されております。
専門基礎科目は主に特定行為研修の専門科目に該当するような科目なのですが、CNS科目の中の位置づけですので、単に特定行為研修の共通科目ではなく、特定行為を看護の中でどう生かすかという視点も含めて専門基礎科目を学習することになります。
その後、各コースでの科目として、研究コースについては看護学専門科目で、高度実践コースについては高度実践コース科目と希望すれば特定行為研修の区分別科目を履修することができます。助産コースについては助産専門科目を履修します。すべてのコースの学生さんについて、最終的に修士論文を作成することになります。
博士後期課程については、まずは共通基盤科目で自立した研究者としての基盤を学習します。その上で、実際に博士論文を作成する前の段階として、それぞれの専門領域の特論や演習科目が設けられております。研究科目の中で共通基盤科目と専門科目での学習を活かして、それぞれの学生さんの研究テーマに応じて博士論文に取り組むというのが研究科目で、最終的に博士論文を作成することになります。
さらに川崎市立看護大学の大学院の特徴として、研究を通して地域貢献をしていこうということも目指しております。できるだけ地域をテーマとして研究をしていこう、という土壌を涵養するということ、それから院生の方たちの修士論文・博士論文の成果というのを、院生個人の研究に留めるのではなく、市と連携してそれを活用・発展させていき、例えば行政の持つデータを活用して、市の行政課題に対して支援を行ったり、あるいは市職員や地域、地元企業等と連携して共同研究を行ったりですとか、市政に対する提言を行っていく、というふうに院生さんの研究を、さらにこの川崎市の地域包括ケアシステムに資するような形で還元するようなことを考えております。
あとは、学習環境です。先ほど学長の最初のご挨拶にもございましたが、第2キャンパスは、川崎駅から徒歩3分にございます。さらに特に共通基礎科目については、いつでもどこでも学べるe-learningを活用します。おそらく高度実践看護コースの学生さんについては終業した後に大学院に来られる方が多いと思いますので、空いた時間を使って、自分の都合のいい時に学習できるe-learningを活用できるようにしております。
また、オンライン授業も行うということで、大学院まで来ていただかなくても、自宅あるいは職場から授業に参加できるように考えています。あとは、勤務を終えてから通学できるように5限、6限を午後6時15分から設定し、土曜日にも開校を予定しております。
ですので、特に高度実践看護コースというのは、逆に仕事を続けながら学ぶことが、お互いの研究、大学院での学びを深めることにもつながっていくと思いますし、大学院での学びを自分の働いている職場に還元することにもつながっていくと思いますので、就業をしたまま学習できるような環境を整えております。
次に、こちらが博士前期課程のアドミッションポリシーになります。この黄色で囲われた箇所は、研究コースの学生さんすべてに共通するもので、これは看護のバックグラウンドがない方についても研究コースについては大学院を受験していただけます。その中でもとにかく地域包括ケアシステムを改善・発展させる、貢献する意志を有している人に、ぜひ本学に入学していただきたいと思っております。
高度実践看護コースは、専門看護師の受験資格を得られるということで、専門領域の実務経験がある方で専門看護師の取得資格取得を目指す方を募集しております。
助産コース志願者についても、助産師になるということで、看護師の資格又は看護師国家試験の受験資格を有することが入学要件として必要になります。専門看護師についても、開学後に専門看護師の教育課程としての認可を申請する予定になっております。
博士後期課程については、職務に関する知見を有して看護学への探求心を有する人、それから看護学研究に対して強い動機と基礎的な研究能力を身につけて自立して学習する姿勢を有する人、さらに研究を通して、地域社会や国際社会に貢献したいという意思を有する人を募集しております。また、看護職、看護のバックグラウンド以外を持った方も、広く受け入れる。医療や福祉や介護等で働いている方も、そういう経験を持っている方も応募していただくことができます。
これが入学試験ですが、第1期募集の試験日は12月21日で、出願資格審査申請の期間は来週で終わってしまいますが、募集出願期間が11月15日から29日になっております。第2期募集の試験日が令和7(2025)年の2月23日になっております。出願資格審査の締め切りが1月20日です。すみません、こちらについては皆さんのお手元パンフレットに正しい記載がありますので、そちらをご確認ください。
あと入試科目ですが、博士前期課程については、一般、社会人ともに英語、看護専門、それから面接になります。社会人選抜の面接試験では、それまでの職務内容等についてもお伺いすることになります。博士後期課程については一般選抜、社会人選抜とも英語がございます。その後、研究計画の発表を含む口頭試験を行います。内部進学者については英語試験が免除されることになります。入試に関する情報提供は、大学のホームページで行っていきますので、募集要項や必要な書類などはそちらの方で取り寄せいただければと思います。
川崎市立看護大学は皆さんのチャレンジをお待ちしておりますので、ぜひ大学院の進学を今年度、それからその先も含めてご検討いただければと思います。
【司会 事務局 関担当課長】
岡田先生、ありがとうございました。ただいまご説明いただきました大学院の概要につきましては、後ほど質問時間を設けておりますので、お聞きになりたいことがありましたら、あわせてよろしくお願いいたします。

シンポジウム「地域包括ケアの推進のために川崎市立看護大学大学院ができること」
(動画1時間26分30秒から)
【司会 事務局 関担当課長】
それでは、ここからシンポジウムの方に移ります。ここからは本学教授の廣川聖子が座長として進行を行います。廣川先生、お願いいたします。
【第2部座長 廣川 聖子教授】
座長を務めさせていただきます。川崎市立看護大学、廣川と申します。本日はよろしくお願いいたします。
ここからは大学院で教務を取られる先生方を代表し、特徴的な専門領域をご担当される4人の先生方から、それぞれ概要についてご説明いただきます。

研究コース 看護援助学領域 掛田 崇寛教授
(動画1時間27分1秒から)
【第2部座長 廣川 聖子教授】
最初に博士前期課程、博士後期課程で看護援助学領域を担当いたします、教授の掛田崇寛から研究コースについてご説明いたします。掛田先生、お願いします。
【掛田 崇寛教授】
よろしくお願いします。ここからは、「地域包括ケアの推進のために川崎市立看護大学大学院ができること」ということで説明させていただきます。主に私の方からは研究コースの説明をします。
研究コースに関しては、前期課程、後期課程双方の過程でコース設定されております。主にはいわゆる学位論文を書くというようなところがメインになります。このコースで勉強していただく皆さんには、いわゆる研究成果を創出するということが共通のコンセプトで、研究活動をして論文にまとめるということを設定しております。
前期課程の方に関しましては、基盤看護学と地域包括ケア看護学という大きな二つのくくりの中に、それぞれ力のある教授の先生方を中心にコースが設定されておりますので、このあたりはご自身の興味関心があるコースの先生方に事前相談をされて、受験を検討していただくことが一番いいかなと思います。
博士後期課程の方はもう少しシンプルになっておりまして、基盤看護学と地域包括ケア看護学で、少し専門性に特化したような形でのコース設定になっております。
ディプロマポリシーに関しては、先ほど岡田先生の方からもご説明がありましたが、前期課程に関しては研究の基礎力をしっかりつけていただいて、自立的に研究に取り組むスキルを磨いていくというようなところが大枠かなと思います。
一方で後期課程に関しては、おそらく修士号取得の段階で、大学院生になる方も専門領域をお持ちになられているかと思いますので、最終的にはグローバルな形で活躍していただける人材の育成というところにディプロマポリシーが置かれているような形になっております。募集要項の方にもアドミッションポリシーやディプロマポリシーはホームページの方にもあると思いますので、詳しくはそちらの方ご覧になっていただければと思います。
ここからは、どのような研究ができるかということをいろいろと説明したいのですが、本日に関しては、私がどういうことをしてきたかというようなところを見ていただきながら、皆さんが思い描いている研究が、どのコースに行けば叶うかというそのイメージを抱くきっかけになればと思っています。
僕自身は情動と疼痛の研究でこれまで学位を取ってきております。学位を取ったのは2010年で、もう14年ほど前のことになりますが、研究テーマはほとんど修士も博士も変えずに痛みと情動というようなところを念頭に研究を進めてきました。
実際、自分が何をしているかというと、いわゆる臨床の患者さんの中には、例えば荒木田先生が来ると採血も痛くない、そして掛田が来ると痛いと感じる。これは何だろうということを考えると、あらかじめ想起されるようなことや期待するものというのは、すべて「情動」という風な置き換え方をします。気持ちで痛みの感じ方が変わるというのは日々臨床されている方だと、すぐに想像できると思います。まさに私が取り組んできたのは、その情動をいかにコントロールすることで、その患者さんの痛みを一時的なりにも軽減できるかというところを研究してきています。
2010年に学位を取った際の研究は、まあfMRIという研究で、この時ちょうど脳イメージングがとても流行りになった時期で、自分もそこに乗っかりました。院生同士で切磋琢磨することを支持されているかなり厳しい指導教員の先生がいらっしゃって、看護学というより検査科学の方で学位を取っているので、いろいろな指標を用いて人の反応をどのように取るかというようなことを当時考え、いろいろと工夫しました。
この学位論文に関して言うと、甘いものを食べると、やはり美味しさ、「うまい」とか「美味しい」というドーパミン神経に由来する、快情動というものが呼び起こされます。美味しいものを食べている時と比べると、味のしないゼラチンを口に含んだ時は痛覚関連脳活動というものが著しく違います。つまり甘いものを食べていると一時的ですが、痛覚受容に変化を起こさせるという学位論文です。向かって上段は味がせず、痛みだけを感じている実験条件で感じている痛みで、下段の方に関しては、甘いものを感じていると痛覚関連脳活動、血流が低下する状態です。このような学位論文です。
その後に検討したのですが、このような違いには、性差もありました。その情動の一時的な痛覚抑制効果は、女性よりも男性に発現しやすいのかもしれないということも研究的に証明しました。
今度は、この不快な状態にすると、同じ痛みでも強くなるのかというような検討もしました。その実験条件で行う研究はいろいろ工夫ができます。臨床の研究であれば、どうしても制約や倫理的な問題があるのでうまく実施できないのですが、実験条件で設定する不快な状態というのは、経口補水をできるだけ止めて喉の渇きを強くし、エルゴメーターで40分走るという条件と適宜給水をして、お腹も満たされた状態で運動もするという条件を作りました。
そうすると、向かって上段は喉が乾いた状態で痛覚刺激を受けた段階で、この青枠でかかっている下段はお腹が満たされた状態で痛覚刺激を受けた段階で実験をしたところ、当然お腹が満たされている状態の方が痛みを強く感じないということがわかりました。今度は上から3番目と4番目に関しては、脳内報酬系と呼ばれるような生体内の痛みを抑止する神経機構があり、その神経機構は給水をしなかった方よりも適宜給水をした方が活発に活動し、そのため痛みを感じにくいということを示しています。つまり、情動を整えることの重要性について取り組んできました。
もう少し身近なものですと、アロマセラピーというものがあります。アロマセラピーはいい匂いのもあり、いい状態を誘導することも可能です。夏場に放置された柔道着が放つ悪臭で、イソ吉草酸という代表的な悪臭物質がありまして、それを実験に取り組んで、いい匂いの時と不快な匂いの時を設定して痛みを感じてもらいました。すると中央の柑橘系アロマのシトラスアロマを感じている時には、痛みを感じるまでの時間が延長され、一方で右側の不快な匂いを感じていると同じ痛みでもより痛く、早く伝わるということがわかりました。
同じ痛み、同じ人で実験をしているけれども閾値に変化を及ぼされる。つまり情動に意図的に介入が入ると、痛覚の関連活動が変わってくる、という研究を今までしてきています。
そして先ほど岡田先生も示されていましたが地域包括ケアに資するという点で、高齢者だけでなく大人や子ども、女性や男性というように幅広い対象を想定すると、例えば女性の月経周期については、月経前症状と呼ばれるような精神的に少し不調をきたしやすい時期に痛覚実験をすると、排卵前のエストルゼンが血中である程度維持されている時に比べて、痛みを強く感じるということがわかりました。つまり、もしかすると女性は男性にはない月経周期が痛みに影響しやすいので、ペインコントロールをする際には、そのような性周期も考慮した痛みの管理も必要ではないか、というようなことにも興味を持って考え、取り組んできています。
やはり研究課題というものは興味や関心、自分がやりたいことをベースに考えていくので、すぐに「できない」と言うのではなく、「やれるかもしれない」というように、やりたいことが叶う形で院生指導に携わっていきたいというふうに思っていますし、やはりいろいろな知恵を絞り、現場でできなければ実験環境下でできないかなど、そのような創意工夫というのはとても大事ではないかなと思っています。
赤ちゃんの研究も少しだけ取り組みました。赤ちゃんは自分で痛みを申告できないので、どうしても客観的に捉えるために工夫が必要です。そのためのモニタリング指標を考えて、精神性発汗といういわゆる嘘発見器で使われるような原理の発汗現象を、生後4日、5日に測るガスリー試験でかかと採血をする際にモニタリングしました。赤ちゃんの発汗現象を捉えるために、プローベも少し赤ちゃんの手用に工夫して赤ちゃんの痛みを客観視する、可視化するというようなことも、少しだけ携わってきました。
あとは、少し痛みと関係して苦痛という観点で言うと、術後の患者さんは「寝ているようで寝ていない、眠い」とよく言っていて、私も関心がありました。それならば術前術後で睡眠脳波を取ればいいのではないかと考えて、1度ケーススタディとしてまとめたりもしました。
術前の患者さんは睡眠周期というものがあって、眠ると最初にN3睡眠という深い眠りになり、約90分おきに眠りが浅いレム睡眠になります。この周期を4回から5回つなげていくと朝を迎えるというのが正常な人です。
術後の当日の睡眠脳波はこのようになります。元々睡眠周期の正常な人が、手術をすると睡眠が乱れます。ポイントは本来寝ると深くなるN3睡眠がほぼ欠如することです。さらにレム睡眠は体が弛緩する眠りで、N3睡眠というのは脳が休まる睡眠脳ですが、睡眠周期が上と下を見比べてもらえばわかるようにぶれています。パターンが変わるというより、パターンが欠如する。
だから患者さんが寝ているように見えて寝ておらず、たった1時間の手術で麻酔時間も45分と非常に短いですが、実はその術前の状態に回復するまでに2日ぐらいかかっています。
つまり、ICUやリカバリールーム等でいくら患者さんに投げかけて、いくら他人が見たとしても、実際は患者さんの頭の中はこんな状態だということが分かると、睡眠の支援にも繋がるのではないか、というようなことを考えたりしています。
本学に来る前に取り組んだ研究では、デンマークやスウェーデンで安楽な椅子のようなものに認知症高齢者を座らせて、介護負担を減らすというスタディーがあるのですが、それを日本でやってみたいという業者からの依頼で、共同研究をしましょうという形で行いました。
すぐに認知症高齢者で実施するのも倫理的になかなか難しいなということで、健康な人を座らせて、その基礎データを取ることにしました。抗ストレス効果のようなものが健康人でも確認でき、免疫グロブリンAというのは、唾液中から出てくる粘膜免疫の一つの物質で、通常の椅子に座らせるよりもリラックスチェアと呼ばれるものに座ると、非常に優位に分泌されやすくなるというのがわかりました。
この後、実際に認知症の高齢者で検証したところ、現在査読中でまだパブリッシュできておりませんが、ポジティブな結果が出ました。
私自身としては、後期課程の方はやはりできるだけ英語論文で学位論文をとっていただきたいですし、また修士に来られる方はやはり基礎力をしっかりつけていただいて、自分のやりたい研究テーマや方向性をしっかりと決めていただいて修了していくという流れができれば良いと思っています。
あとは大学院と直接関係はないですが、JST(科学技術振興機構)の一つの参画機関としてチェンジプログラムというものが採択されて本学が関わっておりますので、そのようないろいろな人と出会える環境も実はあります。単科大学や単科大学院の弱さを周辺の研究協力機関とも連携しながら研究が進められるという点で補い、強みになる部分ではないかと思っています。ですので、広く皆さんが来ていただけるようになればいいなと思っております。これで私の発表を終わります。ありがとうございます。
【第2部座長 廣川 聖子教授】
掛田先生、ありがとうございました。

高度実践看護コース 岡田 忍教授
(動画1時間42分21秒から)
【第2部座長 廣川 聖子教授】
次に、博士後期課程で感染看護学領域をご担当いただきます、教授の岡田忍から高度実践看護コースについてご説明いたします。岡田先生、お願いいたします。
【岡田 忍教授】
私からは博士課程の高度実践看護コースについてご説明したいと思います。
まずなぜ高度実践者に大学院教育が必要なのかということと高度実践看護がどのようにこの地域包括ケアシステムの推進に資するのかということ、それから本学の専門看護師の教育課程で特定行為研修を課すことの意義について、の3点についてお話したいと思います。
これらの前期課程の高度実践看護コースですが、先ほどご説明したように、この家族看護、感染看護、それからクリティカルケア看護、在宅看護、精神看護の5領域がございます。この看護基盤学分野では、地域包括ケアの基盤となるような高度実践について専門看護師を養成する、地域包括ケア看護学分野については、非常に複雑なケア問題を有する患者さんや医療依存度の高い在宅療養者に対する高度実践を行う専門看護師を育成していくというコースになっています。
そしてこちらが日本看護協会の専門看護師の六つの役割ですが、専門看護師には実践、それから相談、調整、倫理調整、教育、研究という六つの役割がございます。これに対応して、本学でも研究、実践、相談調整、教育、倫理調整。それぞれこの六つの役割に対応する能力を持った専門看護師を養成いたします。
特に本学の高度実践看護コースの特徴としては、先ほど申しましたように、これからの地域包括ケアの中では、非常に「キュア」が求められているということで特定行為研修を追加しております。そもそも特定行為研修というのは、地域包括ケアシステムをいかに推進していくかということを本来の一番メインの目的としてできた制度でありますので、そこが本学の特徴になるかと思います。
そして、どうして高度実践者において大学院教育が必要なのかということですが、これはハモニックとハンソンの「アドバンスト・プラクティス・ナーシング」の訳本に描かれている図です。ここでは、大学院教育というのは高度実践看護の根本となる基準であり、高度実践者には大学院教育は必要だと示されています。それはなぜかというと、一つはやはり高度実践看護を行うためには、学部レベルのヘルスアセスメントやフィジカルアセスメント、病態生理学、薬理学の知識以上に、さらに高度な知識が求められるためです。これらの専門基礎科目は学部教育の4年の中の1・2年生で学習しますが、医師や薬剤師などの教育では、やはり6年の教育課程があるわけです。ですので、学部教育レベルの病態生理や薬理の知識では高度実践には対応できないということがまず一つ考えられます。
それから、先ほど鎌倉先生のお話にもありましたが、やはり研究成果がなかなか臨床に根付かないという原因の一つとしては、やっぱりそのEBP(Evidence-Based-Practice:エビデンスに基づく実践)を推進できる方が現場になかなかいないというところが大きいと思います。私も本学に来る前に、千葉大学病院のEBPに関わっておりました。本来は大学病院の中でそのEBPを自律的に実施していくことが理想だと思いますが、なぜか看護学研究科の先生がいて、指導をするというような関係が出来上がっていました。そうではなく、やはりEBPはその臨床現場で自律的にやっていく必要があると思いますので、そのためにも、大学院教育が必要だというふうに思います。
さらに、いろいろな高度実践看護を行う上では、理論基盤をしっかりと持っていることが重要で、そのためにも大学院レベルでの教育が必要ということになります。また、実際にスプロスとバグリーらの研究によると、臨床で経験を積んだ看護師と大学院で高度実践の教育を受けた看護師を比べると、やはりそこには違いがあり、大学院で学ぶことはただ単に経験を積むだけでは得られない実践ができるということを明らかにしており、高度実践看護師というのは臨床経験と大学院での教育を統合することによって、職場での経験を積むだけではできないような臨床判断が可能になるということを述べております。ですので、大学院教育はぜひ必要ということです。
それでは、高度看護実践者が地域包括ケアシステムの中でどのように役割を担うのかということですが、トランジショナルケアという2011年に提唱された概念があります。高度看護実践者が複雑なケア問題などを持っている患者さんに関わることで、包括的にアセスメントして、退院後のことも見据えて、その患者さんたちが社会資源調整をしたり、患者さん自身のセルフケア能力を強化するというような支援をすると、実際にその地域で退院日数が短縮したり、セルフケア能力が上がって地域で暮らせる生活の期間が長くなったり、再入院率が低下するという研究成果が出ております。
地域包括ケアは、実はたくさんの移行があるわけです。例えば、病院と在宅のように、具合が悪くなれば病院に入院するし、介護が必要になると介護施設へ入所したり訪問看護を受けたりということになります。このようなたくさんの移行がある中で、やはりトランディショナルケアは不可欠であると言えます。ですので、高度看護実践者がトランディショナルケアを行うことにはとても意義があることだと思っています。
宇佐美らの報告によりますと、興味のある方はぜひこの論文を読んでいただきたいのですが、患者さんの病状や日常生活の管理がとても難しく、CNSに在宅移行支援の依頼があった実際の事例について分析したところ、CNSの方たちは、患者さんの病状や養護、それ以外の成長発達、社会心理などの側面からアセスメントし、今、そしてこれからどのようなケアが必要になるのかということをしっかり組み立てる。病院内外の治療チームの機能やスタッフの能力、それから在宅でどのくらい家族がサポートする能力があるのかといったことや患者さん自身がどのくらいマネジメントできるのかといったこと、社会資源がどうなのかということをしっかりとアセスメントする。そしてこちらに書いてあるように、このような介入を行うことで、実際にチーム内で目標を共有できたり、院内外の在宅に向けたチームの連携を強化したり、患者さんに関わる人たちの患者さんへの理解が深まったり、家族が病状管理をできるようになったりする。さらに病状の悪化を予防のための行動ができるようになったり、患者さん自身の生活する力が向上したり、スタッフの能力が拡大するといった成果が得られています。そして量的な分析で、この成果とCNSのアセスメントと介入には関連がみられたということを述べています。
したがって、この在宅移行支援を行う上で、高度看護実践者の育成というのは必要になってくると思います。
次にこの特定行為に関しまして、高度実践看護コースで履修可能な特定行為研修のうち、感染看護学ではこちらに記載している三つの区分、それから精神看護学では二つの区分、在宅看護学では在宅慢性期領域パッケージ、クリティカルケア看護学では外科術後病棟管理領域パッケージの特定行為研修を希望すれば履修することができます。
この特定行為を履修することの意義は、これは先ほどのハモニックとハンソンの「アドバンスト・プラクティック・ナーシング」に書かれていたことですが、CNSが特定行為をするということは、単に医療を行うだけではなく、それに合わせて高度な指導やコーチングとを合わせて行っています。ですので、それは医療行為の下位概念ではなくて、それと同等の実践だということを述べております。専門看護師が高度看護実践者として特定行為を行うことというのは、特定行為の研修制度で目指しているタイムリーに行為を提供するというだけでなく、患者さんや家族自身がケア能力やマネジメント力の向上も併せて行うことで在宅日数の短縮や在宅での療養継続が可能になるのだと思います。
ですので、特定行為研修制度を単独でやるのではなく、やっぱりそのCNSが特定行為研修を行うということが本学の特徴だと思いますし、それにはやはり看護師が特定行為を実践する意味があるということを、ぜひ理解していただければなと思います。
私の考えとしては、やはり高度実践者は先ほど述べましたように、就業しながら大学院に来ていただくということが中心になると思いますので、地域で育てて、そして地域の医療施設や介護施設、訪問看護ステーションに帰っていく、そこからまた新たに次の人が来て、また大学院で学んで、というこの循環を繰り返しながら、地域全体の医療・
介護の質が上がっていき、本当に実効性のある地域包括ケアシステムが構築できたらというふうに考えております。
ご清聴ありがとうございました。これは川崎市の地域包括ケアシステムのマスコットの「あいちゃん」だそうです。ではこれで話を終わります。ありがとうございました。
【第2部座長 廣川 聖子教授】
岡田先生、ありがとうございました。

研究コース 看護マネジメント学領域 豊増 佳子准教授
(動画1時間55分42秒から)
【第2部座長 廣川 聖子教授】
次に、博士前期課程で研究コースの看護マネジメント学領域を担当いたします、准教授の豊増佳子からご説明いたします。豊増先生、お願いいたします。
【豊増 佳子准教授】
看護マネジメント学領域を担当いたします、豊増佳子と申します。ここでは簡単に説明をさせていただきます。
今高度看護実践コースですとか、さまざまな説明がありましたが、それらすべての実践そのものを支えるものというものが、看護マネジメント学領域でおさえる内容かと思っております。私も実は看護管理学を専攻したのが修士課程でした。
看護管理では、理想の看護を学んで卒業してから実際に働き始めると、このように患者さんが複数おり、同僚のナースもたくさんいるという状況の中で、この病院や病棟の中でどのような仕組みが効果的に看護につながるかを探求するようなことを考えてきました。患者さんの入院目的の達成ですとか、患者の満足、看護の目標達成などに対して考えるものの、実際のナースの活動としましては、多重課題を抱え、お食事もなかなか取れないような状況の中で日勤夜勤を行い、自分のバケーションを取っていくという状況で、ワークライフバランスというものが必要になってきます。そして、その中で看護を提供する場や仕組み、一人の看護師の業務の内容を考えていくというような活動、学問領域になってくるかと思います。
ただ看護の実践というのは、このように一つの病院や病棟の中で行われるものではなくて、本学が志向する地域包括ケアシステムの中で看護師がいる場所、また患者様がいらっしゃる場所、そのすべてにおいてマネジメント思考が必要になってきます。そして最近ではコロナ禍も進み、医療情報のDX化(デジタルトランスフォーメーション)など急激に発展する中で、さまざまな知識などを考慮しながらマネジメントについて考えていく必要が出てきます。
そして、医療看護の特性としましては、平成7(1995)年に「医療サービス」という言葉が初めて使われるようになりました。サービスとは単に値引きや無料という意味ではありません。そのような意味ではなくて、製品と区別して無形の生産物、生産物を算出しない「労働」それ自体のものを言います。看護というのは、まさしくこの通りだなというふうに、平成7(1995)年頃に私もしっくりきたところですけれども、サービスには形がないということで「無形成」であり、サービスはその生産されるその場で消費されるもの、そしてサービスではプロセスも大切であるということから、看護過程の展開そのもの、そのプロセスそのものが大切であるというふうに言われています。そして患者様の協力がなければ看護実践は効果的にはならないですし、看護師一人一人がコミュニケーションを発したものや行動したものは一過性・不可逆性であり、返品・転売が不可な状態ということで、医療サービス・看護サービスというような概念が深く使われるようになりました。ですから、マネジメント学領域の中では、このサービスの概念を利用しながら、いかにマネジメントしていくかを捉えて考えています。
そしてよりよい看護に向けてということであれば、時代とともにやはり経営学も発展してきています。最初の頃はより安く行い、次の1980年代、1990年代はより良く、正しく正しいことを行う。そしてさらに大きな医療事故が発生する中で、質の保証をどう担保していくのか、そしてそれらを統合して、ひと・もの・かね・じょうほうをどのように焦点を当てて探求していくのかというところが看護マネジメントの視点になってきます。
そして、それがその固まったものだけではなくて、新戦略として患者さんの要望に応じたオンデマンドやオーダーメイド、カスタムメイド、モジュール化などの考え方も必要になってきます。美容院では指名制を当然のように使っていると思いますが、看護師の世界でもそのように指名されるようなナースになれるように、学部教育の中では進めたりもしています。さらに医療の提供の方法も大きく変わってきます。私自身も博士課程で研究をしてきた内容ですが、医療DXが進み、遠隔医療・遠隔看護というような研究も進められており、医療そのもの、システムそのものにも変化が生じてきています。
看護マネジメントにおけるEBP(Evidenced-Based-Practice)ですが、優れた意思決定・優れたシステムは、優れた結果・成果をもたらすものだと考えていますが、それには根拠が必要です。ではその根拠、一般化されたものは一体何なのかというお話が先ほどもありました。その根拠を研究で賄うことが大学院で学ぶ意味であり、看護マネジメント領域における根拠をどのようにもっていくのか、研究でどのように構築していくのかっていうところを考えていくのが修士課程であり、博士課程に看護マネジメント領域はありませんが、次の発展として異なる領域で研究を進めていくこともできるのではないかと考えています。
そして根拠に基づく健康サービス、キーとなる要素ですが、それを担う個人、そしてそれを支える組織が大きく影響していきます。個人そのものは組織を作りますし、組織そのものは個人の発展を推進する、促進するというようにサポートするマネジメント的な視点が必要になってきます。
ですから、看護マネジメント論で育成を目指す基礎的な能力としましては、看護専門職として提供すべき看護を「組織」という観点から探求すること、そして組織メンバーとしての協調性、将来の看護を創造していく上での自立性、主体性、リーダーシップ・メンバーシップ能力です。優れた組織というのは、100人のメンバーがいれば100人のリーダーがいるというふうに言われています。ですから、看護マネジメント領域でリーダーシップマネジメントを学ぶ重要性としては看護ケアの質に変革を起こす、さまざまな看護実践、専門職活動を支え、変化・変革の基盤となるようなものを構築していくことであり、これらが研究として行えれば良いと考えています。
そして組織におけるリーダーシップ、組織の目標達成を促すよう影響を与える能力ですとか、パワーの本質:影響を行使する能力とはどういうことなのか。変化を起こすとは何なのかというと、ある物事がそれまでと違う状態になることであり、現在の状況から異なった状態の未来へ展開し、その過程を構築していくものです。リーダーシップ論も歴史とともにどんどん発展してきていますので、歴史的なリーダーシップ論を使うだけではなくて、リーダーシップをいかにデザインするのか、どのように能力を身につけていくのか、ということも看護マネジメント学教育の中では学習できると思っています。
そして応用科学としての看護学。これは看護学原論の中で1年生に授業をしている内容ですが、人間は単なる部分の統合体ではなく全体的存在として反応し、部分が全体に影響を及ぼすと言われています。ですから、そのような看護師または患者さんを支えるような看護マネジメント論では、このように解剖学・生理学、生化学、微生物学に加えて、心理学、人類学、社会学、経営学・経済学、物理学・工学、さまざまな学問領域の知見を利用しながら発展していくことになります。
さらに今後、健康に関わる社会変化や危機的な状況に対応するためには、今までとは全く違うパラダイムシフトが求められます。パラダイムシフトとは当然考えられていた物事の考え方や価値観が劇的に変わることで、そして看護師が組織を変える、組織の運営・経営に参画することが求められます。まさに500床以上の病院では、副院長を看護師が担っているところが50%以上となり、活躍してきています。そして一組織にとどまらない広い視野、世界・国内の社会仕組みにも興味を持って主体的に活躍でき、他者のパワーを巻き込んで引き出せる人材が必要とされています。
ですから、社会変化や危機にも柔軟に対応して社会貢献できる看護師、まさしく本学が目指している地域包括ケアの推進のための本学大学院の貢献として、地域包括ケアの未来を拓き、看護の学術的挑戦と高度実践者の育成をする。そして、まさにそれらを支えるマネジメントをどのように学び、研究として発展させていくかということが、私が目指したいと思っているところになります。以上になります。
【第2部座長 廣川 聖子教授】
豊増先生ありがとうございました。

助産コース 山﨑 由美子教授
(動画2時間5分4秒から)
【第2部座長 廣川 聖子教授】
次に、博士前期課程で助産コースを担当いたします、教授の山﨑由美子からご説明いたします。山﨑先生、お願いいたします。
【山﨑 由美子教授】
助産コース山﨑由美子です。よろしくお願いいたします。はじめに、募集要項では助産師学校を指定申請中との記載がありますが、この度正式に指定を受けましたことをご報告いたします。
次にディプロマポリシーを一部抜粋して読み上げさせていただきます。科学的な視点を持って分析する能力、助産実践能力と助産管理の基盤となる能力、生命への尊厳を持ち、個人の価値観を尊重できる人を目指しています。
本学の助産コースの特徴をお伝えする前に、まずこちらをご覧ください。令和5(2023)年の段階で助産師学校として指定されている大学院は全国に53校あります。本学はこれに新たに一校として加わることになります。
助産コースを構想する段階において、横浜市立大学大学院の中村幸代教授、静岡県立大学大学院の太田尚子教授、昭和大学助産学専攻科の上田邦枝教授をはじめとする関係者の皆様に、多大なるご協力とご助言を賜りましたこと深く感謝申し上げます。この貴重な交流を通じて、大学院助産コースでは独自の特徴を設け、多様性を広げることが重要であると考えました。
その結果、完成したのが本学の助産コースです。私たちは助産の専門性と人間性を融合させ、母子の命を守ることができる優れた助産師を育成することをねがいとしています。それぞれ説明させていただきますが、この目標を実現するために、以下の三つを掲げています。
まずは「実際に体験することから学ぶ」です。一つ目は多様な視点からの講義・実習の提供です。私を含む4名の博士の学位を持つ教員(助産師)が、それぞれの研究分野や経歴を活かし、講義や実習を担当します。二つ目は、各分野の専門家による指導です。各分野のスペシャリストによる講義も予定されています。三つ目は、実践を重視したフィールド学習です。多様な実習施設を活用し、現場での学びを強化します。
「卒業生とのつながりを大切にする」では、継続的なサポート体制を設けています。少し先の話になりますが、助産コースを終了した後も在校生との交流を通じて、互いに学び合う場を提供します。私たちは前身である川崎市立看護短期大学の時代から10年以上、助産師課程に進学した卒業生と在校生との交流を続けています。この実績を持つ私たち教員ならば実現可能だと考えています。
また、卒業後も母校に戻り、さらなる学びの場を設け、生涯にわたる成長を支援したいと思います。具体例としては、本学で開校する新生児蘇生法Aコース、母体救命ベーシックコースを卒業後もスキルアップのために受講することができます。また、私たちのようにインストラクター資格を取得し、指導者としてキャリアを積むことも可能です。
次に「地域とのつながりを大切にする」では、地域の助産師とともに学ぶ機会を創出します。講習会や科目履修などを通じて共に学ぶことで、地域に根ざした実践力を高めます。具体例として、前述の新生児蘇生、母体救命のコースは3年ごとの更新が必要であり、地域助産師の開講してほしいというニーズも非常に高いものです。そのような地域助産師と共に、最新の知識を学ぶことはキャリア像に大きく影響することと思います。
また、助産管理2では「バーチャル助産所を開設してみよう!」というテーマで幅広く受講生を求める予定です。この講義は、関係法規や地域診断、事業計画を学びながら、ソフトを用いて自分の願いを込めた仮想の助産所を設計し、最終的には仮の認可申請まで行います。5年後、10年後の未来を見据え、地域で活躍する一つの選択肢として、助産所の開設を地域の助産師とともにイメージし合うことは、将来のビジョンを描く道しるべになると思います。
次に、課程修了に必要な単位について説明いたします。助産コースでは2年間で61単位取得することが必要です。特に実習は14単位と非常に大きな比重を占めています。
実習について補足しますと、本学の助産コースでは助産学実習1から6まで設けられており、修士1年は夏以降に合計15週間以上の病院実習を行い、分娩介助を中心に学びます。実習施設として川崎市立川崎病院、新百合ヶ丘総合病院、総合川崎臨港病院があり、正常経過をたどる産婦10例の分娩介助を目標としています。この中には、妊娠期から継続的に関わる産婦さんも含まれます。助産師学校のガイドラインには、「産後4か月」までの「母子のアセスメント力の強化」が定められていますが、本学の助産コースでは産後1年まで関わることを重視しています。川崎市の地域包括ケアの特徴である「子どもや子育て中の方」との直接かつ継続的な関わりを通じて、その能力をさらに高めていきます。ウパウパハウス岡本助産院などでは、開業助産師が行う助産ケアを学ぶことができますし、NICU、川崎市行政での幅広い実践経験を提供いたします。実習が多く、不安に感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、学内には分娩台をはじめ、最新の機材やシミュレーターを整備する予定です。2年間を通してじっくりと余裕を持って学びを深める環境を整えていますので安心してください。
地域に貢献できる高度な実践能力を育成するためには、主体性と協調性は欠かせません。その一環として、入学後は研究室のレイアウトや助産コースのユニフォームについて、助産コースの3名で話し合い、決定していただきます。さらに、先ほど紹介したシミュレーターを活用した学習については実習室を使用することができます。実習室は学部生と共有ですが、時間を区分しており、分娩台やシミュレーターを自由に配置して練習に励むことができます。
最後に課題研究について説明します。冒頭で示したディプロマポリシーにあるように、助産領域における課題を科学的な視点で分析する能力を身につけます。講義や実習が多く、課題研究のスケジュール管理が難しいという声は、他大学の院生からもよく聞かれますが、本学では修士1年の段階から計画を立案し、研究プロセスを着実に進めることを重視しています。まず、修士1年の前期、スタートは、研究コースの院生とともに看護研究方法論を受講します。互いに刺激し合える良い機会になると思います。1年後期から課題研究が本格的にスタートします。私が責任を持って3名を指導しますが、院生のテーマに応じて私以外の博士の学位を持つ教員が副指導官として関わります。素朴な疑問や悩みなど、より身近にいる教員に相談しやすい環境を整えています。
このように、助産学実践の質向上につながる研究力を養うため、継続的に指導いたします。これが本学の助産コースができることです。2年間は決して容易ではありませんが、他の大学院では得られない多くの学びと経験を提供します。研究者であり助産師の先輩である私たちが、卒業後を見据えた教育を通じて、皆さんの確かな成長を全力でサポートします。高度な実践能力はもちろんのこと、命が生まれ、次の命へとつなぐこの人生の歩みに敬意を持って関われる、そんな助産師になってほしいと願っています。以上です。
【第2部座長 廣川 聖子教授】
山﨑先生、ありがとうございました。

質疑応答
(動画2時間15分22秒から)
【第2部座長 廣川 聖子教授】
それでは、ここからは先生方にシンポジストになっていただき、「地域包括ケアの推進のために川崎市立看護大学大学院ができること」をテーマに進めてまいります。
それでは、もし質問などございましたらお受けしたいと思いますが、会場の方は挙手をお願いいたします。ズームウェビナーで参加の方はチャットでご質問をお願いいたします。時間も限られているので、一つ二つご質問をお受けできればと思いますが、いかがでしょう。
「地域包括ケアの推進のために川崎市立看護大学大学院ができること」ということで、各先生方には、ご入学いただいた後にどのような学習を得られるか、どんなサポートを受けられるかというところをお話しいただいたかと思いますが、このテーマに関係ないことや大学院進学に関して、もしご質問などあればいかがでしょうか?
では少しご質問をお待ちしている間に、これまで先生方のお話の中にも出てきましたが、働きながら進学を考えていらっしゃる方もかなり多くいらっしゃるのではないかと思います。実際、それが可能かどうかですとか、そのように入学をしていただいた方に対して大学院の整備体制として先生方にどのようにサポートしていただけるかというところを、先生方からご意見やコメントがありましたらお願いいたします。
【岡田 忍教授】
特に高度実践看護コースの院生さんは、おそらく就業しながら大学院に通われる方が多いと思いますが、先ほど大学院の概要のところでもお話しましたように、e-learningを活用し、ご自身の都合のいい時間に何度でも視聴していただくというような形ですとか、1領域で数名ですので、例えば時間割は設定されていても、教員と院生さんの相談などはある程度自由に面談時間を設定することができるので、コロナで一気に進んだオンラインを活用して、必要でないときはできるだけ通学の負担が少ないような形での支援を考えています。
あとは3年の長期履修制度があります。特定行為研修は通常約1年間で研修プログラムができているので、高度実践コースは特に特定行為研修を取るとなるとかなりスケジュールが過密になると思いますが、一応本学は2年間で実習まで行うということを考えています。1年生の時に共通科目をとっていただいて、2年の前半ぐらいで区分別科目を取り、そして合間を縫いながらCNSの実習を行うような形を考えています。ですので、それを2年の間に区分別科目や特定行為研修、課題研究、実習を行うのがきついということであれば、指導教員と十分に相談した上で、3年間の履修計画をできるだけ無理のない形で立てるということを、最初の履修指導の際にやっていきたいと思っています。
【第2部座長 廣川 聖子教授】
ありがとうございます。
【掛田 崇寛教授】
研究コースの方は、特定行為のような形の実習がないので、基本の就業年数は前期だと2年、後期だと3年という形になるかと思います。もしかしたら岡田先生、高度実践は実習があるので、必ずしも時間調整ができる訳ではない科目もありますよね。そうですよね。ですので、高度実践の場合はかなり病院の中でやらなければならないものもありますが、一方で研究コースの方は比較的論文を作成したり、データを収集したりするところですので、長期履修の規定をうまく使いながら、まずは予定年限で終了することを目指していただければいいかなと思います。
【山﨑 由美子教授】
はい、助産コースです。募集要項にも書かせていただいておりますが、助産コースは61単位・2年間、長期履修はありませんので、お仕事を継続しながらの学習は難しいコースになっています。その分、2年間集中して勉強と研究実習、そしていろいろなことを体験し、感じていただいて、その後羽ばたいて助産師として活躍していただけたらと思っております。以上です。
【第2部座長 廣川 聖子教授】
ありがとうございます。それでは、チャットの方には特に質問は来ていないのですが、会場の方からご質問ある方いらっしゃいますでしょうか?
チャットの方でご質問いただきました。「入学試験科目に英語があると思うのですが、目安としてはどのくらいの能力を有している必要があるのか教えていただきたいです」とのことです。
【岡田 忍教授】
大学院ですので、大学卒業程度と同等の能力ということになります。一般的にはいわゆる「CEFR(セファール)」といういろいろな外国語試験の基準を統一したものがありますが、A2レベル程度を目指していただければと思います。A2レベルがどの程度かは各自でお調べいただければと思います。やはり論文を読まなければいけなくなると思いますので、大学院入試ぐらいの能力はあった方がよろしいかと思います。
あとは大学院に入ってから伸ばせますので、英語にしばらく触れていない方もいらっしゃると思いますが、できるだけ頑張って頂ければと思います。
【第2部座長 廣川 聖子教授】
ありがとうございます。それでは他にご質問もないようでしたら、お時間となりましたので、質問はここまでとさせていただきます。4名の先生方ありがとうございました。
それでは進行を司会にお戻しします。ここまでの進行にご協力いただき、誠にありがとうございました。

閉会
(動画2時間23分21秒から)
【司会 事務局 関担当課長】
以上をもちまして、第2部を終了とさせていただきます。
この後、会場でご参加の皆様を対象といたしまして、入試相談会を行わせていただきます。概ね午後3時45分、10分から15分程度準備の時間をいただきまして、開始させていただきたいと思います。それまではこの会場の方で、お待ちいただければと思います。
それでは以上をもちまして、本日のシンポジウムは閉会とさせていただきます。長時間にわたりシンポジウムにご参加いただきまして、誠にありがとうございました。
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