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スタートから10年が経過した無期転換制度の課題について(2023年4月号)

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このページは、広報誌「かわさき労働情報」のインターネット版です。

法政大学法学部教授 沼田 雅之

1:はじめに

 無期転換制度が施行されてから10年が経過しました。これを前に、大学や研究機関に所属する有期雇用の研究者らの多くが、無期転換制度の適用前に雇止めされるのではないか、との報道がなされています。また、通常の労働者の場合についても、無期転換前に雇止めされた事案の裁判の判決が相次いでいます。これを機に、あらためて無期転換制度の概要を説明するとともに、制度上の課題についてご案内したいと思います。

2:無期転換制度導入の背景

 そもそも無期転換制度とはなんでしょうか。一般的にいって、正規労働者に比べ、非正規労働者は雇用が不安定であるとされています。その原因の一つとして、非正規労働者の場合、1か月や1年など期間の定めのある労働契約(有期労働契約)が締結されている場合が多いことが指摘されています。なぜなら、この場合、形式的には契約期間の満了により雇用は自動的に終了するからです。とくに使用者側から有期労働契約を更新せず、雇用関係を終了させることを「雇止め」といいますが、この雇止めは、解雇ほどの規制がないのです。

 非正規労働者の実態は、何度も有期労働契約が更新され、長期に雇用されている場合が多いとされています。とはいえ、こういった場合でも有期労働契約という不安定さが解消するわけではありません。雇止めがなされることに不安を覚え、非正規労働者が正当な権利行使を差し控える場合もあるとされています。

 そこで、2012年の労働契約法の改正により新たに導入されたのが無期転換制度です。無期転換制度は、一定の条件を満たせば、労働者の意思により有期労働契約から無期労働契約に転換することを認め、これにより「有期労働契約の濫用的な利用を抑制し労働者の雇用の安定を図ること」(厚生労働省の通達)という目的があるとされています。

3:無期転換制度とは?

 導入された無期転換制度とは、同一の使用者との間に締結された有期労働契約が、(1)1回以上更新されていること、(2)通算の契約期間が5年を超えていること、以上の2つの条件を満たした有期契約労働者が希望すれば、その申込によって有期労働契約から無期労働契約に転換します(労働契約法18条)。無期労働契約に転換するのは、申込を行った有期労働契約の満了日の翌日からとなります。なお、使用者は、この労働者の申込を拒めません。この無期転換申込権は、権利が発生した有期労働契約の期間中にのみ有効ですので、期間が満了する前に権利を行使する必要があります。そして、労働契約の期間を除き、原則として無期転換後も同一の労働条件となります(就業規則等で別な労働条件を適用することも可能です。)。

 なお、大学や研究開発法人等の研究者・教員等は、(2)の条件が「通算の契約期間が10年を超えていること」となります。通算契約期間の計算は、2013年4月からスタートしています。このため、2023年4月(10年経過)を前に、研究者等の雇止めが問題となっているのです。俗に「2023年問題」とも言われています。また、高度専門職や定年後に再雇用されている高齢者についても例外があります。

【有期労働契約1年を更新してきた場合の無期転換】

有期労働契約1年を更新してきた場合の無期転換

4:無期転換逃れ?

 非正規労働者の雇用の安定が図られると期待された無期転換制度ですが、この制度の適用を回避しようとする企業側の動きもあります。

(1)権利発生前の雇止め

 無期転換制度の適用を回避するために、権利が発生する直前に雇止めをする場合が考えられます。有期労働契約の場合、形式的には、契約期間の満了により雇用は自動的に終了すると説明しました。しかし、一部の雇止めには、解雇に準じた保護が及ぶことがあります(労働契約法19条)。つまり、(1)契約期間の定めがない状態と実質的に同一である場合と、(2)反復更新等によってある程度の雇用継続が期待される場合の雇止めは、その雇止めに客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当であると認められないときには、有期労働契約が更新したものと扱われます。とくに、(2)は、更新回数、通算勤続年数、職務の継続性、更新を期待させる使用者の言動(「ずっと働いてもらう」等)、更新手続き(会社に印章を預けていて、それを会社側が押印している等)、これまでの実績(同種の労働者は雇止めされたことがない等)が総合的に考慮されます。

 通常の労働者の場合は5年間、特例が適用される研究者等は10年間の有期労働契約を反復更新し、継続勤務していれば、通常は「ある程度の雇用継続が期待される場合」と判断されることになるでしょう。

 つまり、無期転換制度の適用を回避する目的だけで雇止めされる場合、客観的に合理的な理由がある場合とは判断されないことになるでしょう。実際、無期転換制度が適用される直前の雇止めを「無効」とした裁判例があります(公益財団法人グリーントラストうつのみや事件・宇都宮地裁令和2年6月10日判決)。

 また、研究者等、特例が適用される労働者の雇用不安に対する懸念が高まっていることから、文部科学省は「無期転換ルールの適用を意図的に避けることを目的として、無期転換申込権が発生する前に雇止めや契約期間中の解雇等を行うことは、労働契約法の趣旨に照らして望ましいものではない」(令和4年11月7日付4文科科第556号)」として注意喚起を行っています。

(2)「不更新条項」の設定

 無期転換申込権発生直前の雇止めと同種の対応ですが、「不更新条項」を設定するという方法もあります。不更新条項とは、例えば「雇用は、更新しても最長5年間まで」というように、あらかじめ更新上限を設けることをいいます。こういった更新上限の合意をすること自体は違法ではありません。しかし、このような合意は、有期労働契約を締結する労働者にとって一方的に不利な条件となります。よって、この合意が労働者の真意に基づいたものかどうかが厳格に判断されます。

 例えば、当初は更新上限に関する合意はなかったものの、契約更新時に新たに更新上限が設けられた事件で、裁判所は「不更新条項が記載された雇用契約書への署名押印を拒否することは、原告にとって、本件雇用契約が更新できないことを意味するのであるから、このような条項のある雇用契約書に署名押印をしていたからといって、直ちに、原告が雇用契約を終了させる旨の明確な意思を表明したものとみることは相当ではない」として、労働契約が合意によって終了したものは認められないとしています(博報堂事件・福岡地裁令和2年3月17日判決)。

 問題は、採用の当初から更新上限に関する合意があった場合です。これに関して、「使用者が、一定期間が満了した後に契約を更新する意思がないことを明示・説明して労働契約の申込の意思表示をし、労働者がその旨を十分に認識した上で承諾の意思表示をして、使用者と労働者とが更新期間の上限を明示した労働契約を締結することは、これを禁止する明文の規定がない」ことや、労働条件や契約更新について何らかの期待を形成する以前の合意であること等を理由として、労働契約の更新拒絶(雇止め)を無効とすることはできないとした判決があります(日本通運事件・東京高裁令和4年9月14日判決)。もちろん、これは最高裁判決ではないので、この問題が決着したわけではありません。そもそもこのような対応は、「有期労働契約の濫用的な利用を抑制し労働者の雇用の安定を図ること」という無期転換制度の趣旨とは相容れない対応だといわなければなりません。一定の対応が求められていると言えましょう。

5:さいごに

 不更新条項の問題に対して、政府も対応策を検討しています。例えば、通算契約期間または有期労働契約の更新回数について上限を定める場合には、その理由を労働者に説明することを義務づけるという方向性が確認されています。しかし、この対応は、早くても2024年4月からとなりそうです。よって、無期転換制度については、しばらくはさまざまな問題が発生すると思います。

 採用される際には、これらの条件をしっかりと確認していただきたいと思います。また、不当な雇止めがなされたと考える場合は、川崎市や神奈川県の「労働相談窓口」を利用してください。

 事業主の皆さま、無期転換後の労働者に対して、職務や地域を限定した正社員と扱うという制度を導入した企業もあります。厚生労働省の「有期契約労働者の無期転換ポータルサイト」外部リンクを参考にするなど、法の趣旨に即した対応をお願いします。

お問い合わせ先

川崎市経済労働局労働雇用部

住所: 〒210-8577 川崎市川崎区宮本町1番地

電話: 044-200-2271

ファクス: 044-200-3598

メールアドレス: 28roudou@city.kawasaki.jp

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