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インタビューのあらすじ(テキスト情報)(5)

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東京大学大学院 工学系研究科/医学系研究科 教授 工学博士 ナノ医療イノベーションセンター センター長 片岡 一則氏

キング スカイフロント コンセプトビデオ ~インタビュー編(5)~

 

私は元々、化学が専門分野なんですね。基礎研究をやっていたんですけど、博士課程に行く時に指導教官の先生から、これからはもっと世の中の役に立つ研究をしたらどうかと。それで何をやるんでしょうかと聞いたら、「バイオマテリアル」だと。

 

これは医学に使う高分子材料ですよね。そういう研究をやったらどうかと言われて、そっちの道に進みました。

 

世の中の大きな発見っていうのは、必ずしも基礎研究から出てないんですよね。全て、応用開発から新しいことが見つかっているので、僕の感覚では、基礎から応用に行くものもあるかもしれないけど、応用を考えた研究から新しい基礎が出るっていうのもいっぱいあるんですね。だから、僕らがやっている研究は、高分子ミセルっていうものをドラッグデリバリーに使う研究で、ある意味では非常に課題解決型ですけど、基礎研究での高分子ミセルの学問ではできなかったような新しい高分子ミセルとか、新しい会合体であるとかがどんどん見つかってきています。

 

基礎と応用を分けるっていうのは、19世紀の考えなんですよ。19世紀っていうのは結局、情報がないですよね。だからお互いに研究者同士の情報交換もできないので、基礎研究をやっている人は実はすごく役に立つことをしているんだけど、そのことに自分で気づかない。一方、応用をやっている人はすごく基礎的に良い発見をしているんだけど、それに気づかない。そういう時代だったんですね。だから基礎と応用は分かれていたんですね。だけど今は情報の社会ですから、それらが一緒になるはずなんですよ。

 

ただそうはいっても、紙の上やインターネットの中だけでは現実味を帯びないので、川崎でこういうオープンイノベーションの場をつくるっていうのは、まさにこれが現実になるということなんですね。つまり、基礎と応用の人が、一緒に、要するにメルティングポット、るつぼの中に入ることによって、自分の価値がわかるわけです。一人で孤立していると自分の価値がわからないんですよ。例えば、すごくばかげたことをやっていても、すごいことをやっていてもわかんないでしょ。だけど違う価値観を持った人と一緒にやることによって、「ああ、自分がやっている研究っていうのは、実はこんなにすごいんだ」とか、「こんなくだらないことやってたんだ」とかがわかるんですよ。なんで異分野の人が一緒にいなきゃいけないかっていうと、それが目的じゃないんですよね。違う人達が一緒にいることによって、違う価値観がぶつかり合って、そこから新しい発想なり、ブレイクスルーが出るわけです。

 

ナノキャリアっていう会社自体が、やっぱりるつぼなんですよね、ある意味でね。薬学の専門家と、高分子の専門家もいるし、もちろんビジネスの専門家はどこでもいると思いますけど、要するに技術の寄って立つ基盤が、もともと融合しているわけですよ。

 

るつぼには、いろんな分野の人が集まる求心力がないといけないですよね。そのためにはやっぱり便利じゃないといけないですね。すぐ来れるような。空港のそばっていうのはものすごく重要だと。これは世界的なトレンドじゃないでしょうか。だってもともと明治に埋め立てた時は、最先端の場所だったんじゃないですか。その頃のまさにフロント(最先端)の産業を殿町に作ったわけです。だから、地の利としては、すごくいいんじゃないですかね。

 

もう一つは、元々そういうところは企業が集積してましたよね。特にものづくりの化学産業。我々がやっていることはまさに、医療のためのものづくりですから、大学の中だけではできない。異なる化学産業の中で出てきた技術とか考え方とか素材とかを持ち寄ってもらうことによって、「こういうことができるんだ」「こんな発想ができるんだ」と、気づくことができると思うんですね。だから異なるさまざまな産業、業種が集まっていること。それから特に飛行機を使ってひとっ飛びで来れること。こういう点では大きな魅力がある場所だと思いますね。

 

それからもう一つ大事なことは、ものづくりの中だけで集まっていても、これはある意味で「井の中の蛙大海を知らず」で、役にも立たないものをつくるんですよ。そうするとそこにはユーザーの立場で考える人がいなくてはいけないですよね。そういう点では、医療関係者が簡単に集まれないといけないですね。

 

一番僕がやってきていけないと思っていることは、「私はつくる人」「あなたは使う人」の発想では絶対うまくいかないですね。

 

日本のこれまでの産学連携のいけないところは、つまり、「ここまでは大学の仕事です」と、「ここからは企業の仕事です」と。

 

そうすると例えば大学のシーズを企業が持ち帰って、そこから先は全然分からないです、何をやっているか。つまり、そこで要するに分業になっちゃうわけですね。分業になったら何が起こるかというと、結局情報が遮断されますから、うまくいかなくなった時に必ず相手のせいにするわけです。

 

大学の研究者とベンチャーや企業の研究者は、ある意味で対等なんですね。つまり、いかに良いシーズがあったって、それがものにならなかったら使えないんですよ。だけど、いかに改良技術ができたって、元がなかったらできないんですよ。だからやっぱり両方が無いとできないわけですね。

 

企業の研究者は自分のほうがよく世間をわかっていると思うかもしれないけど、それはひょっとしたらおごりかもしれない。大学の研究者は、自分のやっていることが最高だと思っているかもしれないけど、実は企業のほうが本質を見ているかもしれない。それをお互いに遠慮して言わなかったら、何も良いものができないじゃないですか。だから、最後の製品になるまで一緒に見届ける。最後まで行くのは確かに難しいかもしれないけど、ある目途が立つまでは一緒に見届けるっていうような、そういう仕組みが必要なんですね。

 

それぞれが殻にこもらず、自分の役割を自分で勝手に規定しないこと。自分の可能性を殺してしまうし、それから逆に相手に失礼ですよね。つまり、「ここから先はオレがやるんだ」と。だけど、「じゃあ、本当にできるんですか」「その時に他の人のアイデアも必要なんじゃないですか」ということになります。

 

つまり、今や、新しいイノベーションや新しいものは、いつどこでどういう形で出てくるかわからない。最初から人の才能を区切るのではなくて、どこからでもそこにアクセスできて、一緒にやれるような仕組みをつくっておく。そうすると、開発のほうから基礎の話が出たり、基礎から開発が出たり。だから速いんじゃないですか。

 

川崎のこの場所から、それが1つでも2つでも出てきたら、「なるほど、そういうやり方があるのか」となると思います。