平成24年度政策課題研究
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防災の視点を取り入れたまちづくり~震災に対する避難施設の確保と防災訓練の手法~
テーマ設定の背景
2011年3月11日に発生した東日本大震災では、川崎市においても、主要駅において多くの帰宅困難者が発生したほか、臨海部における液状化やミューザ川崎シンフォニーホールの天井崩落などの被害が生じた。
本市では、2012年7月に「川崎市地域防災計画(震災対策編)」の第1期見直しを行ったほか、「川崎市地震防災戦略」の改定に向けた取組た、その他新たな災害に備える取組を実施している。
震災に限らず風水害や都市災害も含め、防災能力の強化を行うハード的な面と、防災訓練の実施や地域コミュニティの形成といったソフト的な面の両方の観点から防災対策を推進していく必要がある。そのため、今回の政策課題研究では「防災の視点を取り入れたまちづくり」を研究テーマとした。
報告書の概要
研究の背景と研究課題
日本及び川崎市における防災対策
- 伊勢湾台風、長崎県雲仙岳の噴火、1995年の阪神・淡路大震災、2011年の東日本大震災など、日本は数々の災害を経験してきた。
- 日本各地で起きる災害に対し、伊勢湾台風により防災対策の基盤となる災害対策基本法が制定、阪神淡路大震災を契機に耐震改修促進法の制定、東日本大震災では津波防災地域づくり法の制定など、法令が整備されてきた。
- それと同時に本市においても、災害対策基本法に基づいた川崎市防災会議の設置と川崎市地域防災計画が策定されている。また、地域防災計画を機軸として防災対策の見直しが行われてきており、現在東日本大震災を踏まえ、首都圏直下型地震がいつ起きてもおかしくないという有識者の報告もある中で、地域防災計画震災対策編の見直しや地震防災戦略の見直しが進められているところである。
川崎市の特徴と課題
本市の地理的特徴と、都市的特徴、基礎的なデータを踏まえて、本市の課題として5点取り上げた。
1 人口密度と世帯数の増加
2 耐震設計のされていない建物の存在
3 大規模火災の恐れがある密集市街地
4 戸建開発による新興住宅地の出現
5 再開発による高度な都市化
研究の方向性
「防災の視点を取り入れたまちづくり」について、ハード施策と、ソフト施策の両面から、文献の調査うあアンケート調査、台湾、アメリカ、神戸市、静岡県、川崎市での現地調査やなどにより、研究を進めていくこととした。
- 避難施設の量的、空間的な確保と、多様なニーズに答えるための避難地の活用方法について検討する「避難施設の確保と活用方法」を1つ目の研究課題とした。
- 市民一人一人の防災意識の啓発に向けた取組と災害対応能力を向上させるための効果的な防災訓練の手法について検討する「目的に即した防災訓練の手法」を2つ目の研究課題とした。
避難施設の確保と活用方法に関する研究
避難施設の「確保」について
防災計画等で指定されていない施設、民間施設の把握の必要性を踏まえ、アンケート調査や視察により他都市、他国の事例を参考に避難施設の新たな指定の方策を模索した。
その中で民間との協定等の導入が有効であり、避難施設の協定等を施策に展開することで避難施設の「確保」に繋げることができると考えた。
また避難施設の確保を進めるためには、避難施設の指定条件、分類、優先順位、災害弱者への配慮など、避難施設の分析を行い、施設の活用方法について明確にする必要があると考えられることから、次に「避難施設の活用方法」について調査を行うこととした。
避難施設の「活用方法」について
文献調査によって避難施設に求められる機能を整理した上で、各施設の防災機能を分析した。
- 避難施設の規模による集計を行ったところ、大規模としては、小・中学校、大学、スポーツ施設などの6種類の施設が該当し、小規模は18施設、中規模としては27施設が該当した。
小・中規模避難施設については、対象者を限定した活用や情報拠点としての活用が考えられ、大規模避難施設については指定や協定等の導入により、量的な確保に貢献できると考えられる。 - 避難施設の形態では、「広場型」には、「公園・緑地」、「公開空地・プレイロット」、「農地」の3種類し、「学校型(複合型)」には、「小学校・中学校」などの8種類、「施設型避難施設」には、「福祉施設」など合計20種類が挙げられた。
これらの整理は、各施設の利点と課題の補完について検討する上で、活用できる資料になると考えられる。 - 避難施設の機能は、情報機能として、学校施設や自治会館・集会所は、被災時の連携、安否確認などの情報収集・発信拠点としての活用が期待され、支援機能として、保育園・保育所・幼稚園は日常から幼児、児童を受け入れる体制が整っていることなどから、災害弱者に対応した配慮型の避難施設として活用することが期待される。
提言 ー避難施設の確保と活用方法ー
1 公助による避難施設
- 新たな「避難所」の指定を行うことで、避難施設の量的な確保を図ることが可能になると考えられる。
一方、財政的な負担や災害時の人員の配置など検討には一定期間を要するという課題があるため、避難者数など各々の地域特性を分析した上で指定を検討していく必要がある。 - また、「避難所」に準じた「準避難所」の指定を行うことを提案したい。
施設の用途や、規模等に応じて「避難所」と区別することで、災害の程度に応じた開設を検討できるほか、物資の分配時や、避難施設の集約時における優先順位化も行いやすくなると考えられる。
2 共助による避難施設
- 第一に民間施設の所有者と協定を結ぶことで避難施設を確保する方法を提案する。協定の方法として、官と民による協定と民と民による協定の2通りが考えられる。
- しかし協定によって確保した施設は、必ずしも避難施設に求められる機能をすべて有しているとは限らないため、協定等によって確保した避難施設の連携と活用方法について提案する。
3 自助による避難施設
- 各家庭において食糧等の備蓄や、耐震化等を行っておくことで自分の家の「避難施設」機能を確保することが大切である。
- 自宅に戻ることが困難だったとしても、親戚や知人と調整し、個人の避難施設を確保することで、プライバシーの問題や、他人との共同生活よるストレス等の課題も解消できると考えられる。
目的に即した防災訓練の手法に関する研究
目的にかなった訓練の手法
川崎市、全国、海外等の事例調査から本研究では71種類の防災訓練を把握し、文献の「防災ー訓練のガイド」と国の中央防災会議において決定した総合防災訓練大綱「以下訓練大綱といいます。」から
1 知識と技術の習得と慣熟
2 各防災計画等の認識・修正
3 協力・協働の確立
の3つに目的を整理した。
訓練の分類と活用方法
これらの3つの目的を訓練を通して達成することと同時に、訓練の主催者は71種類の多種多様な訓練がある中で、条件に合った訓練の実施が望まれる。
限られた時間でプログラムを組まなくてはならないこと、対象者が子どもなのか大人なのかなど訓練を実施する際に考慮するべき条件がありますが、71種類からその条件に見合った訓練を選択することは容易ではない。
したがって、本研究では、6つの分類項目を設定し、訓練の主催者が選択しやすいな手法の提案を試みた。
提言ー目的に即した防災訓練の手法ー
- 防災活動主体の連携
主体が連携し合うことが、より一層「共助の体制づくり」に求められる。したがって参考となる事例を提供したり、その連携手法についてのマニュアルを作成することが望まれる。
また、1つのコミュニティとして機能している住民組織に対し、災害対応を行う消防職員が地域と身近に触れ合う地区担当制を導入することが望まれます。 - 訓練への参加率の向上
楽しめる訓練を行うということである。例えば、運動会に訓練を取り入れた防災運動会、NPO法人プラスアーツによる、いざ!カエルキャラバンの取組などがある。ヒアリングにいった台湾においても、恒例である野外バーベキューに合わせて防災イベントを組み込むといった取組が行われていた。
このように、慣習として行われてきた地域の祭りやイベントと一緒に防災に関する取組を加えることで、より多くの参加者が防災に触れる体験をし、その体験が災害時の対応行動へとつながることが見込まれる。 - 訓練の簡易化
訓練に参加する時間がない市民に対して、簡単にできる訓練を行うことが必要である。例えば、災害図上訓練(DIG)を家庭レベルで実施できる、家庭内DIGがある。
また当たり前のように歌われ、語り継がれる言葉等により、災害への意識が自然と植え付けられるだけでなく、災害時の行動力へと結び付けることができる。例えばゴミ収集車にメロディーが使われている「好きですかわさき愛の街」という歌など容易に市民の耳に触れるものを使うことは、多額な費用をかける防災対策に比べ、後世へ簡単に語り継げるような普及方法だと考える。 - 防災活動におけるリーダーの育成
川崎市では自主防災組織で主に活動している方の年齢の割合が高くなってきており、リーダーの高齢化に対して新たな人材の確保と、継続的なリーダーの育成が課題となっている。
市内の取組としては、宮前区の防災推進員の要請や、危機管理室での川崎市防災インストラクターの登録制度などがある。これから本市で求められる取組としては、レベルごとの養成講座の充実、継続的な研修の実施や、ジュニア世代からの人材育成を行われることと思われる。
総合考察
防災の視点を取り入れたまちづくりに向けたこれらの研究・提案は、公助・共助・自助の三つの場面におけるものということができる。
また今後の課題と展望として、
1 避難施設の確保と活用方法に関する研究では、
- 本研究で提案した手法を施策に反映させるためには、既往の施策との整合を図ると共に役割分担の明確化を行う必要があること、
- 避難施設の検討には、施設管理者や住民組織へのヒアリング調査や、勉強会を通じて実際的な課題の発見と解決を試みる必要があること、
- 避難施設の活用方法を検討するにあたり、モデル地区を選定して施設の配置や、各施設の詳細な防災機能を分析する、ケーススタディの実践が必要であること
が考えられ、今後の展開が期待される。
2 目的に即した防災訓練の手法に関する研究では、
- 防災訓練のニーズを明らかにするために、訓練参加者の目的や興味関心事項を分析することが必要であること、
- 本研究でまとめた防災訓練の方法を誰でも容易にみられる情報公開の手法や、使いやすいデータベースの構築が求められること、
- さらに防災訓練の組み合わせを考案すること、
により、総合的なプログラムの構築についても、今後、検討していくことが望まれる。
受賞について
当該研究結果は、法政大学「地域政策研究賞」奨励賞及び(公財)日本都市センターの第4回都市調査研究グランプリ(CR-1グランプリ)での優秀賞(自治体実施調査研究部門)を受賞しました。
お問い合わせ先
川崎市 総務企画局都市政策部広域行政・地方分権担当
〒210-8577 川崎市川崎区宮本町1番地
電話:044-200-0386
ファックス:044-200-3798
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