シッシー君の文化財探訪日記 「川崎市市民ミュージアム収蔵資料紹介(金属製品の保存と管理)」
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川崎市内の豊かな歴史や魅力を物語る文化財や博物館等の情報を、川崎市文化財キャラクターのシッシーくんがご紹介します。
【シッシーくん】
市域3か所に伝わる獅子舞から生まれた文化財の精。川崎市の文化財保護推進キャラクター。
性格はおっちょこワイルド。好物はかわさき育ちの野菜・果物。口癖は「シッシッシー」。
2024年3月25日川崎市市民ミュージアムの収蔵品を紹介します(11)
こんにちは。シッシーです。そろそろ桜の開花時期ですね。
市内各所の桜を観にいくのが、いまから楽しみだっシー。
今回も川崎市市民ミュージアムの考古資料の再整理作業を見てきました。
作業の中で学芸員の目にとまった資料を皆さんに紹介するっシー!シッシッシー~。
考古資料の素材と保存管理
皆さん、こんにちは。
教育委員会事務局文化財課学芸員の櫻井です。
今回は考古資料の素材と保存管理に注目してみたいと思います。
考古資料の素材には、土や石の他に、木、骨や角、鉄や銅といった金属などさまざまなものがあります。
文化財として保存・管理する上での注意点は素材ごとに異なり、資料の劣化を防ぐためには、各素材の特徴を理解しその性質や特徴にあった管理をしなければなりません。
現在川崎市市民ミュージアムでは、弥生時代中期から太平洋戦争の頃の資料を含む近現代までの金属製考古資料を保管しています。今回はその中でも最も数が多い鉄製品に注目し、博物館でどのように保存・管理されているのかご紹介しましょう。
鉄は錆びる
金属類の大部分は空気中の酸素や水分と反応することで徐々に錆びていきます。ただし、金属の種類ごとに錆びやすさは異なり、金や銀などは錆びにくく、鉄は製法やおかれた環境にもよりますが、錆びやすい性質をもっています。
皆さんの身の回りでも茶色く錆びた鉄製品を目にしたことがあると思いますが、錆びた鉄製品をそのまま放っておくと鉄の内部まで錆が進行し、最後にはボロボロと崩れてしまいます。
そこで、鉄製品をそれ以上劣化させないために「保存処理(ほぞんしょり)」という特別な処置を施す必要がでてきます。
それでは、鉄製品の保存処理工程をみていきましょう。
(なお、各工程の写真に写っている資料は同一のものではありませんが、鉄製品の保存処理工程は概ね同様の工程になります。)
鉄製品の保存処理工程
1 X線写真撮影
X線撮影による鉄刀の透視画像
資料に余計なダメージを与えないよう、保存処理に入る前にまず個々の資料の状態を把握しなければなりません。
肉眼では錆の塊に見える部分も、X線写真を撮るとどこが錆でどこが元の金属部分かがわかります。これを参考にその後の処置の進め方を決めるのです。
私たちが病院で治療を受ける前にレントゲンを撮るのと同じですね。
2 クリーニング
X線写真撮影を経た資料は、筆やエアーブラシ、メス等を使い、小石や泥、錆などの不要な付着物を取り除きます。
3 脱塩(だつえん)
鉄刀の脱塩処理
酸素や水分以外に錆びの原因になる物質のひとつとして塩化物イオンがあります。
鉄製品の保存処理では、資料を純水やアルカリ性溶液に浸し、塩化物イオンを取り除く脱塩処理を行います。
4 樹脂含浸(じゅしがんしん)
鉄鏃の樹脂含浸
脱塩処理が終わった資料には、樹脂含浸といって、保護強化のために、専用の容器にいれて、減圧しアクリル樹脂をしみこませます。資料に細かな割れや隙間があるとそこが空気や水分などに触れ、再び錆びる原因となるためです。
5 乾燥
保存処理用オーブンによる乾燥
水分が残っていると錆びの原因になるため、脱塩処理や樹脂含浸の後は資料の乾燥を十分に行わなければなりません。
写真は保存処理専用のオーブンに入れて乾燥している様子です。
6 接合・欠損部の補填(ほてん)・彩色
欠損部分の補填(ほてん)
割れている資料の場合、接着剤を用いて破片同士を接合し、破片が不足している部分にも合成樹脂を補い復元します。
復元した部分は、違和感がでないように周囲と同系色で色をつけます。
7 脱気(だっき)・パッキング
パッキング作業
保存処理が終わりパッキングされた鉄製品
脱塩処理し、樹脂による保護強化を行った資料でも、長く空気にさらされていれば劣化が進行してしまいます。
そこで、空気中の酸素や水分、その他空気中に含まれている成分にできるだけ触れないよう、ガスバリア袋という専用の袋に入れてパッキングします。
その際、脱気といって専用の機械で空気を抜いた上で、さらに酸素を吸収してくれる脱酸素剤も封入します。
以上のような工程を経て鉄製品の保存処理が完了します。
しかし、保存処理を行ったから安心というわけではありません。
資料を良い状態で未来に残していくためには、日頃から資料の状態をこまめに観察し、温度や湿度を適正に保つことができる保管環境を整える必要があります。
このように、資料が劣化しないように適切な保存管理を行うのも学芸員の大切な仕事なのです。
(写真協力:株式会社文化財ユニオン・有限会社武蔵野文化財修復研究所)
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