【スマホ・タブレット端末版】ニュースレター「KAWASAKI Coastal Area News」vol.27 ~みんなで考えるSDGs part2 ~
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産業・研究開発の最前線 川崎臨海部
川崎臨海部は、京浜工業地帯の中心に位置し、鉄鋼・石油化学等の工場やエネルギー・物流等の施設が集積するとともに、近年ではオープンイノベーション拠点「キングスカイフロント」エリアにおいて、ライフサイエンス分野における世界最高水準の研究開発が進められています。
川崎市の「力強い産業都市づくり」の中心として、さまざまな産業分野における技術や人材の相互連携を進めながら新たなイノベーションを生み出し、先端技術によって地球規模の課題を解決し、新しい価値の創出を先導する重要な役割を担っています。
SDGsとは?
最近、よく見聞きする「SDGs(エスディージーズ)」という言葉。
新聞やテレビで、学校の授業や職場での話題を通じて「SDGsを知った」という人も多いことでしょう。
SDGs とは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称です。2015 年に開かれた国連サミットの場で世界のリーダーによって決められた、国際社会共通の目標であり、「17 の目標」と「169 のターゲット(具体目標)」で構成されています。
川崎臨海部で生まれる産業や研究成果は、このSDGsと大きく関わっています。そこで、「KAWASAKI Coastal Area News」では「私たちに身近な SDGsの取組」をコンセプトに、SDGsの観点から川崎臨海部の取組を紹介します。
part1では、SDGs7番目の目標「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」などをテーマに、川崎市における水素の利活用に関して紹介しました。本号では、SDGs3番目の目標「すべての人に健康と福祉を」をテーマに、川崎臨海部のライフサイエンス(生命科学)に関する取組を紹介します。
川崎臨海部から生まれる、医療のミライ
国家戦略特区でもあるキングスカイフロントには、ライフサイエンス(生命科学)に関する企業や大学の研究機関が集結。
イノベーションの発信地として日々最先端の取組が行われています。
本号では、数あるプロジェクトのなかから、私たちの暮らしと密接にかかわる二つの事例をご紹介します。
病気を経験しても“ 自分らしく ”暮らせる社会に「都市型ヘルスコモンズ共創拠点」プロジェクト始動
まず、ご紹介するのは少し未来のお話です。病気の人も、病気を経験した人も、そして健康な人も、自分らしく生き抜くことに希望を持てる、素晴らしい取組が川崎で始まっています。
慶應義塾大学
医学部教授(整形外科学)
中村 雅也 氏
取組ポイント
1.世界一の“ 長寿国 ”日本にとって「孤独」や「介護」は身近な問題
2.“ 病後を生きる人 ”も、その人らしく暮らせる社会をつくる
3.プロジェクトの研究都市、川崎市が発信地に
日本は世界で一番の長寿国です。65歳以上の高齢者が人口に占める割合は、なんと29.1%(2021年9月時点)※1。2 位 のイタリアが、23%台(2018年)※2であることを踏まえると、日本の高齢化は世界に先駆けて進んでいるといえるでしょう。 私たちの暮らす川崎市も、人口 153.7万人に対し、高齢者は 32.2万人。おおよそ5人に1人の割合です※3。 「いつまでも元気に、生きがいを持って暮らしたい」そう願うのは誰もが同じですが、病気をきっかけに、それまでの暮らし に戻ることが難しい人も。しかし、「病気を経験した人も、“ その人らしく ”暮らせる社会」を目指して、社会に新しい仕組みをつくるプロジェクトが始まっています。 今回はその当事者である、慶應義塾大学医学部教授(整形外科学) 中村雅也氏にお話を伺いました。
今ある「不安」を「安心」に変える
―日本は超高齢社会を迎えつつあり、健康のままで人生を終えられる人は、今後“ まれ ”になると考えられます。市民のなかにも「病気になったらどうしよう」「一人暮らしの家族が心配」と不安を覚える人は少なくありません。その点、中村先生が取り組まれているプロジェクトには、こうした気がかりを社会から取り除けるのではないか、という期待が寄せられています。
中村氏:「私たち医療従事者は、病気の人を健康な状態に戻し、再び社会に送り出すことが使命ですが、入院や通院を終えたすべての人が元の健康な状態に戻れるとはいえません。なかには病気と共に生きなければならない人、後遺症を背負う人、さらには「病気が再発するんじゃないか」という不安を抱えたままの人もいます。新型コロナが一つの例です。病院での治療は終わったけれど、「疲れやすくなった」「味覚が戻らない」など、後遺症に苦しむ人についてニュースで見聞きした人も多いでしょう。また、一人暮らしのお年寄りも増えています。健康上の問題が生じて助けが必要になったとき、周囲に頼れる人がいなければ、それは孤立につながります。川崎市をはじめ都市圏の介護リソースは不足していることからも、こうした人たちに寄り添えるサービスをつくろう、と考えたことがプロジェクトの出発点です」中村氏:「プロジェクト名の「都市型ヘルスコモンズ共創拠点」 には、健康を“ 市民の共有財産 ”として捉え、これを軸にした社会を創る――という思いを込めています。SDGs3番目の目標『すべての人に健康と福祉を』を大テーマに、“ 病後を生きる人 ”の誰もが、社会とのつながりと生きがいを持って、その人らしく生きていける社会づくり、街づくりの実現を目指しています。たとえば、認知症の人は、「運転は危ないから」「迷子になると困るから」といった理由から外出がままならないなど、暮らしのなかに制限や制約をかけられているのが、今の日本です。けれども、周囲の理解やサポート体制があれば、認知症と向き合いながら社会との接点を失うことなくイキイキと、その人らしく暮らせると考えています。このサポート体制をサイエンステクノロジーの力で生み出し、最終的には日本全国をネットワーク化していきます」
私たちの暮らしはどう変わる?
―具体的には、どのようなサービスが展開されていくのでしょうか。
中村氏:「体温や心拍数を測定できるウェアラブルデバイス(身に付けられるIT機器)や、表情や会話の内容から心身状態を推定できるコミュニケーションロボットを活用し、サービス利用者を常時計測します。利用者の体調に変化があった場合には、医師やケアマネジャーが駆け付けたり、治療を勧めたり、生活習慣のアドバイスを行ったりすることでサポートします。また、一人ひとりから集められたデータは AIによって解析され、企業や行政が行う事業にも反映されます。例えば、疾患に合わせた食事や調理キットの提供、安心して車で外出できる技術や保険商品の提案など、“ 病後を生きる人 ”のやりたいことを技術やサービスで支えていきます」
―川崎市も参画メンバーです。何がきっかけになったのでしょうか。
中村氏:「慶應義塾は2016年、キングスカイフロントに「殿町タウンキャンパス」を開設して以来、「ウェルビーイング(より健康に、より幸福に生きること)」をテーマに研究とイノベーションを進めています。このなかで、病気予防や健康寿命の延伸に関する研究に取り組んでおり、国のリサーチコンプレックス推進プログラム(2015~2019)を活用し、 近未来のヘルスケアと医療を創出する、グローバル実装拠点構築に向けて取り組んできました。この活動の延長上に今回のプロジェクトが連なっています」
―私たちの暮らしにはどのように反映され、また変化が生まれるのでしょうか。
中村氏:「川崎市をはじめとする本プロジェクトの研究都市にお住まいの皆さんには、サービスに一番に触れていただき、ウェルビーイングな生活や社会がどういうものなのかを体験していただきたいと思っています。また、皆さんからの評価はサービスの改善に活かされ、全国へと展開するための礎にもなります。ゆくゆくは「このサービスのおかげで、健康かつ幸せな暮らしを送ることができる」「このネットワークに見守られているから、生涯安心して川崎市で暮らせる」と、市民お一人おひとりが実感できる社会を築き、人生をめいっぱい謳歌できる暮らしを送ってもらいたいと思っています。プロジェクトは始まったばかりですが、小さな成功をどんどん積み重ね、実現に向けてスピードを加速させていきます。今後の取組に、ぜひご注目ください」
中村先生にとって SDGs とは
医療人としてはやはり、『すべての人に健康と福祉を』は、欠かせない視点です。お一人おひとりの患者さんやご家族に寄り添い、その人がウェルビーイングな暮らしを日々実感できる社会をデザインしていきたいです。
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出典:
※1、2 総務省統計局 令和3年9月19日公表「統計からみた我が国の高齢者-「敬老の日」にちなんで-」
※3 本市総務企画局 平成29年5月公表「川崎市総合計画第2期実施計画の策定に向けた将来人口推計について」
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高度な医療を安全に届けるために日本・アジア各国の医師にトレーニングを提供
次にご紹介するジョンソン・エンド・ジョンソンは、アメリカに本社を置くヘルスケア関連企業です。ここキングスカイフロントでは地の利を活かした企業活動を行っています。
ジョンソン・エンド・ジョンソン
株式会社
メディカル カンパニー
ジョンソン・エンド・ジョンソン
インスティテュート
施設長 田村 美奈子 氏
取組ポイント
1.創業以来、医師にトレーニングを提供してきた
2.キングスカイフロントは羽田空港に近く、他企業との連携にも適した好環境
3.ヘルスケアカンパニーとして人と社会に貢献し続ける
ジョンソン・エンド・ジョンソン(以下、J&J)がキングスカイフロントに構える、医療従事者向け研修施設「ジョンソン・エンド・ジョンソンインスティテュート 東京」では、日本、そしてアジア各国の医療従事者に対し、プロフェッショナルエデュケーションと呼ばれる、実践的なトレーニングを提供しています。
創業から130年以上にわたる会社の歴史を汲む本取組と、世界でも先進的な事例として知られるダイバーシティの活動について、ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社 メディカルカンパニーの田村美奈子氏に話を伺いました。
製品の製造のみならず使い方を伝える大切さを体現化
―プロフェッショナルエデュケーションの目的と歴史を教えてください。
田村氏:「19世紀後半、ぬり薬の調剤を学んでいた創業者が、空気中の細菌感染を防ぐ滅菌済み包帯を開発したことに端を発します。以来、J&Jは、製品の製造はもとより、製品の安全で適正な使い方を医師に伝えることが重要であると考え、プロフェッショナルエデュケーションを続けています。 「人々の尊い命を救い、健康を支えたい」という創業者の想いは、現在まで継承されています」
「羽田空港との近さ」「先端医療の集積地」という利点を大いに活用
―プロフェッショナルエデュケーションの中心的な役割を果 たす、ジョンソン・エンド・ジョンソンインスティテュート(以 下、JJI)はキングスカイフロントをはじめ、日本に3か所あるそうですね。
田村氏:「ええ。川崎、須賀川(福島)、大阪で運営しています。 いずれも医療従事者向けのトレーニングプログラムを提供しています。
日本では、須賀川市の施設で内視鏡外科手術のトレーニングプログラムをいち早く提供してきましたが、この術式の普及により、多くの受講者の受け入れが必要になってきたこと、さらには今後成長が見込まれるアジアのヘルスケア市場の知見を得る必要から、キングスカイフロントにJJI東京を設立したのが2014年です。ここは、羽田空港至近の立地に加え、医療、創薬、ライフサイエンスといった先端医療にかかわる企業や研究機関の多さも魅力です。2020年からは近隣企業とともに、トレーニングに必要な模擬臓器などの実習素材を開発しています。実際に手術をしているかのような訓練環境が整えられ、トレーニングの質の向上にも大きく寄与しています。
ちなみに、日本の医師の医療技術、とりわけ外科医の手技やスキルは世界でも高く評価されているんですよ」
模擬臓器を使用した実習の様子
―JJIでの取組が、私たちの暮らしと関係する部分はありますか。
田村氏 「医療機器による治療は医師自身の高度な技術が必要となるため、手術を行う医師の力量に左右されることが多く、医師のトレーニングとスキル習得は欠かせません。そのため、J&Jはトレーニングの提供を通して医療機器の安全と適正使用を推進し、患者さんが高度な医療を安全に受けられるよう支援しています」
全社員で推進するダイバーシティの活動
―ところで、J&Jは、SDGsをはじめ、社会的な取組においても先駆的企業としてグローバルで注目されています。なかでも、ダイバーシティ(多様性)には特に注力されていますが、その内容についてもぜひ聞かせてください。
田村氏:「ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンは、 J&J設立以来、当社の文化の中核を担っており、当社の大 切な経営理念であり価値観である「我が信条(Our Credo)」 にも根付いています。その取組は、ジェンダーの垣根を越え全社員が自分らしく働けるという視点で取り組んでいるグループや、LGBTQ+に関するグループ、障がいやメンタルヘルスの取組を行うグループ、全ての世代の多様性を活かすグループ等、社員による自発的な組織と会社の経営陣、そして人事部などが連携して全社員で推進しています。この活動を通し、誰もが最大限の力を発揮できる環境を築くことで、世界のヘルスケアニーズにより良く対応し、イノベーションを起こし、ヘルスケアの進化につなげることを目指しています。
またJ&Jは、ダイバーシティのみならず、さまざまな社会活動を積極的に展開しています。興味のある方は当社の企業サイトをぜひ訪れてみてください」 https://www.jnj.co.jp/外部リンク
J&J にとって SDGs とは
J&J(グローバル)は民間企業で初めてSDGsのコミットメントを発表した企業の一つです。現在「Health for Humanity 2025 Goals」を掲げ、5つの注力領域「Pandemics& Epidemics (パンデミックや疫病流行への対処とその備え)」「Global HealthEquity(世界中のすべての人々の健康)」「Our People(イノベーション文化を進展させるより多様な人材の育成)」「Our Planet(人類の健康のために地球の健康を長 期的に守る取組を加速)」「Our Partners(取引先との協業を通じた乗数効果の創出)」での取組を進めることで、SDGsの17のゴールのうちグローバルヘルスや環境への貢献、責任あるビジネスの実践などの領域を含め11のゴール(Goal 3、4、5、7、8、9、10、11、12、 13、17)の推進にも貢献しています。引き続き、当社の大切な価値観である「我が信条(Our Credo)」に基づき、ヘルスケアカンパニーとして人と社会に貢献していきます」
JJI は普段は非公開ですが、毎年開催しているキングスカイフロントの「夏 の科学イベント」では、手術体験コーナーを設け、施設を公開しました。また、 2021年には、世界脳卒中デー(10月29日)に合わせて、10月28日・29日の2日にわたり、JJI東京を脳卒中の啓発カラーであるインディゴブルーにライトアップしました。
お問い合わせ先
川崎市臨海部国際戦略本部事業推進部
住所: 〒210-8577 川崎市川崎区宮本町1番地
電話: 044-200-3738
ファクス: 044-200-3540
メールアドレス: 59jigyo@city.kawasaki.jp
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