川崎臨海部ニュースレター「KAWASAKI Coastal Area News」vol.30 市制100周年に向けて~川崎臨海部100余年のあゆみ(2)~
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INTERVIEW 味の素株式会社
アミノ酸が生み出す価値を川崎から国内外へ発信し続けて、109年
吉良 郁夫氏 工学博士
味の素株式会社
執行役常務
アミノサイエンス事業本部副事業本部長
川崎事業所長
製品の誕生からわずか5年後、本格生産をめざし川崎工場を新設
味の素の創業は、明治42(1909)年。その前年に、東京帝国大学の池田菊苗教授が昆布だしに含まれるうま味成分がアミノ酸の一種のグルタミン酸であることを発見し、グルタミン酸を原料とした調味料の製造方法を発明したのがきっかけです。当時、化学薬品工業界で名が知られていた二代目鈴木三郎助がその事業化を引き受け、商品を「味の素」と命名し、世界初となるうま味調味料を世に出しました。
当初、生産は鈴木三郎助の地元・逗子工場で行っていましたが、すぐに販売量に生産が追いつかなくなり、工場の移転新築を検討することに。
「工場用地に求めたのは、用水・排水の利便性が高い大きな河川に接する広大な土地。多摩川河口の川崎と対岸の六郷(大田区)などが候補地に挙がる中で、当時の川崎町から特に熱心な工場誘致があり、現在地に新工場を建設したと聞いています。地名には創業者の名が冠され、鈴木町となっています」。
こうして同社川崎工場は、今から109年前の大正3(1914)年に操業を開始しました。
味の素の重要拠点として大きな役割を果たすまでに
当時の記録によると、工場の敷地面積は6万3000平方メートル、従業員は約140名。それが現在では、工場のみならず物流・事業部・研究開発の各機能が集積した事業所へと発展し、面積は東京ドーム8個分に相当する約37万平方メートルにまで拡張。従業員数はグループ会社も含め3800名、生産量は同社国内外の工場の中でも最大規模の年間10万トンを誇っています。この間、人々のライフスタイルの変化に合わせ、和風だしの素や合わせ調味料、冷凍食品、アミノ酸含有食品など、加工度の高い商品を順次市場に投入することで、成長を続けてきたといいます。
川崎事業所は同社の数ある拠点の中でも重要拠点に位置付けられていますが、それは規模による理由からだけではなく、研究開発部門の存在も大きいと吉良氏は話します。
「昭和28(1953)年に研究所が開設されて以来、ここ川崎での研究成果が味の素グループ全体の価値創造に貢献してきました。現在は、アミノ酸関連の新素材・用途開発を研究する『バイオ・ファイン研究所』と、食の全てを科学する『食品研究所』の2つの研究所が、それぞれの領域で新たな技術開発を行っています。『バイオ・ファイン研究所』では、例えば再生医療用培地など先端医薬関連素材をはじめ、電子材料、香粧品など食以外の市場に向けた開発も行っており、会社の次世代の成長を支える基盤に対して、多くの研究開発費が投入されています」。
重要戦略オープンイノベーションの推進に立地の良さも一役
1世紀前に、工場の立地条件に適う土地として選ばれた川崎臨海部ですが、現在もここに立地し続ける価値を同社ではどのように捉えているのでしょう。
「人材・情報網・物流において圧倒的な量的優位にあるのが、首都圏立地の最大のメリットだと考えています。中でも川崎臨海部はブランド力がありますから、優秀な人材確保という点でもメリットがあると感じています。また、多摩川スカイブリッジの開通で羽田空港へのアクセスが便利になり、国内外にいる共同研究者を私たちの研究所に招くのにもより好都合となりました。アフターコロナで対面によるディスカッションの機会が増えると、立地の優位性がさらに生かされると見ています」。
実際に同社はここ数年かけて、川崎事業所内の研究開発関連の環境整備に着手しています。まず平成30(2018)年には、外部企業やスタートアップ、アカデミアとの共同研究・共同開発を推進するオープンイノベーションの拠点『クライアント・イノベーション・センター(CIC)』を設立しました。自社の技術とビジネスパートナーが有する技術を融合させ、単独ではできない大きなブレイクスルーを導き出し、新しい価値の創出に取り組むのが狙いです。
また令和3(2021)年には、これまで点在していた子会社の研究開発部門を川崎事業所内に集積しました。これによりグループの技術融合の強化を図るといいます。
研究開発におけるグループ内外の連携強化により、川崎事業所はグループの重要拠点としての役割をますます高めることになりそうです。
臨海部立地企業や川崎市とともにカーボンニュートラル実現を目指す
最後に、地域交流や地域貢献など、地域を意識した取組について伺いました
「地域に当社の企業活動を理解していただくことは重要ですから、近隣住民対象の工場見学や、川崎市内の中学生向け出前授業を定期的に開催してきました(コロナ禍では一時休止)。取組を通じて『Ajinomoto Group Shared Value:事業を通じて社会が抱える課題に取り組み、社会的価値を創造する』の姿勢に共感していただき、地元の方々とも社会価値を共創していきたいと考えています。また、環境への取組として、臨海部立地企業と川崎市が官民で設立したカーボンニュートラルをめざす協議会にも参画しています。当社は中期経営計画で2030年までに環境負荷50%削減を目指していますが、エリア全体で協力することが目標達成に向けての大きな推進力になると考えます。川崎市は市長自らがイニシアチブをとり、全国の中でも先導的なプロジェクトを打ち出しています。当社が参画する水素利用に関する異業種連携ネットワークもその一例でしょう。大規模水素利用の取組は一企業でできることではないので、市政と民間とが一体となって実現を目指したいと思います」。
味の素株式会社
味の素グループのビジョンは、“アミノ酸のはたらきで食習慣や高齢化に伴う食と健康の課題を解決し、人々のウェルネスを共創する”ことです。“Eat Well, Live Well.”をコーポレートメッセージに、アミノ酸が持つ可能性を科学的に追求し、事業を通じて地域や社会とともに新しい価値を創出することを目指しています。世界36の国・地域を拠点に置き、商品を販売している国・地域は130以上にのぼります(2022年現在)。
AJINOMOTO Umami Science Square(味の素グループうま味体験館)
京急大師線・鈴木町駅前に、見学施設「AJINOMOTO Umami Science Square(味の素グループうま味体験館)」があるのをご存じですか?ここは味の素・川崎事業所の創立100周年を記念して平成27(2015)年に作られた施設。うま味調味料「味の素」の資源循環型製造工程の紹介や、アミノ酸について科学的な情報を体験しながら理解していただくコーナー、ご家庭に届くまでのサプライチェーン紹介などを行っています。コロナ禍で一時休館していましたが、今年9月から人数制限のもと、見学を再開。社会科見学にも活用されています。
*月曜日~土曜日(9時30分~16時00分)で見学が可 *不定休あり
川崎工場・工場見学 川崎工場では、衛生強化対策を行った上で工場見学を行っています。
●「クノール」スープコース
製品のこだわりを体験型ゲームや試食を通して学びます。
●「ほんだし」コース
ほんだしが長く愛されている秘密、原料へのこだわりや顆粒の特性を学びます。
●「味の素」Umami なるほど講座イベントコース
味の素の歴史や活用術など、魅力がわかる体験型プログラムです。
●「味の素 親子おしごと体験」イベントコース
疑似作業体験と工場従業員の話を通じて、安全安心なモノづくりについて学びます。
*見学には事前予約が必要です。詳しくは
https://www.ajinomoto.co.jp/kfb/kengaku/kawasaki/calendar.html外部リンク
「日本の試金石」カーボンニュートラルに向けた一大プロジェクト、進行中
日本の「脱炭素」をリードする川崎臨海部
令和4(2022)年度から、川崎臨海部のカーボンニュートラル化に向けた国内最大級の官民協議会がスタートしています。
カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量から植林などによる吸収量を差し引き、合計を実質的にゼロにすることです。川崎臨海部では市内製造品出荷額の約76%を生み出す一方、市内で排出されるCO2の約73%を排出しており、産業競争力を維持しながらカーボンニュートラルを実現することは大きなチャレンジです。
川崎市では、水素社会の実現に向けた「川崎臨海部水素ネットワーク協議会」の設置(平成25〈2013〉年)を皮切りに、カーボンニュートラル社会の実現を目指すためのさまざまな取組を全国に先駆けて行ってきました。令和2(2020)年2月には脱炭素宣言を行い同年11月に「脱炭素戦略」を策定。こういった取組を背景として、脱炭素社会にふさわしい新しいコンビナートの形成を目的に令和4(2022)年3月、「川崎カーボンニュートラルコンビナート構想」が策定されました。
この構想の実現に向け、川崎市は昨年5月に「川崎カーボンニュートラルコンビナート形成推進協議会」と「川崎港カーボンニュートラルポート形成推進協議会」を設置。5月に第1回協議会を、11月に第2回協議会を開催し、議論を進めています。
第1回協議会の様子。
参加者の数が産業界の期待を体現している
企業の参加要望が絶えない、産業界も大注目のプロジェクト
昨年5月に実施された1回目の協議会には、会員企業57社(+国の機関1者)から対面とオンライン参加を合わせて200名近くの関係者が集まりました。コンビナートのカーボンニュートラル化に向けた官民協議会としては国内最大規模ですが、設立半年後の昨年11月には14社(+国の機関1者)の新たな会員が加わり、会員企業数は71社にまで拡大しています。
協議会では現在、水素活用によるエネルギー転換やCO2リサイクルなどをテーマにした部会が設置され、官民による活発な意見交換がなされています。また、今年3月には第3回目の協議会も予定されています。
川崎臨海部は、現在の「化石燃料を主体とした工業地帯」から、水素をはじめとする「カーボンニュートラルに適応し貢献する産業地域」へと生まれ変わるため、今後も取組を進めていきます。
ノーベル化学賞・吉野彰さんが市内高校生に向けて講演
昨日まで世界になかったものを
川崎の地から創りだし、
未来を創造した吉野さん
Creating for Tomorrow
2019年にノーベル化学賞を受賞した旭化成(株)名誉フェロー・吉野彰さんによる講演会が、11月17日(金)、市立川崎高校で開催されました。
昭和47(1972)年に旭化成に入社した吉野さんは、川崎臨海部にある川崎区塩浜の川崎製造所で研究活動をスタート。ノーベル化学賞の受賞理由となった「リチウムイオン二次電池(LIB)」の研究開発も、川崎から生まれたと言います。
講演会では、同校と市立総合科学高校の生徒237人に対し、LIBの開発過程や電池が創る未来についてお話しされました。講演後に開催された座談会では、聴講した生徒から数多くの質問が寄せられ、活発な意見交換がなされました。「サステナブル社会の実現に向け、やるべきことは何かをぜひ考えてほしい」。吉野さんは、若者への期待をこのようなメッセージとして伝えました。
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