木造 四天立像
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広目天
多聞天
梵天
帝釈天
木造 四天立像 4躯
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年代
江戸時代〔宝永7年(1710)〕
像高
広目天像 67.5cm
多聞天像 68.5cm
梵天像 70.0cm
帝釈天像 70.0cm
所有者
泉沢寺(中原区上小田中7-20-5)
指定
市重要歴史記念物
昭和61年8月28日指定
解説
広目天・多聞天・梵天・帝釈天という4軀の護法神を組み合わせた一具像で、泉澤寺本堂の須弥壇上に祀る。広目天像は拳を握った右手を下方にのばし、左手は屈臂して経巻を持ち、岩座上の邪鬼を踏まえて立つ。割矧ぎ造、玉眼嵌入、彩色。頭部は前後矧ぎで円筒形の首枘を、やはり前後矧ぎの躯幹部に差しこむ。宝髻・両腕の肩から先などは別材。光背は銅製。多聞天像は肩上にあげた右手で三叉戟を握り、屈臂した左手で蓮台を捧持し、岩座上の邪鬼を踏んで立つ。構造は広目天像とほとんど変らないが、躯幹部は正中線で矧いでいる。光背・頭飾などは銅製。
また、梵天像は右手を胸下で屈臂し、指を曲げる。持物と第2・4・5指を欠失(※)。左手はやはり屈臂し、掌の上に蓮台にのった宝珠を置く。構造は広目天像にほぼ等しく、光背・宝冠は銅製。台座は下から順に框座・岩座・荷葉座を重ねる。最後の帝釈天像は右手は梵天像と同様に屈臂して第1・3・4指を曲げ、左手は腹前で軽く握る。持物は欠失。構造は梵天像とほぼ同じ。光背と宝冠が銅製であることや台座の形も変らない。
この4軀の框座(広目・多聞両天像とも、岩座下に框座がある)裏には、いずれも朱漆で銘文が書かれている。尊像名以外はすべて同文であるため、広目天像のものを代表として記しておく。
銘は全文同筆であり、天明2年(1782)の修理の際、古い造像銘をも書き写したと考えてよいであろう。(注1)紅葉山は江戸城内の将軍家霊廟、常憲院様は宝永6年(1709)正月10日に世を去った徳川五代将軍綱吉。
江戸時代、幕府関係の重要な造仏は、おもに京都の七条仏師が担当した。起用されたのは康猶以下、康音・康知・康乗・康祐・康伝等々で、彼らの事績は他の造仏をも含め、『本朝大佛師正統系圖へい末流』〔以下、『系図』と略称〕の記事から、かなり詳しく知ることができる。(注2)この『系図』にみえる“常憲院様”用の記録は次の3件が数えられ、たずさわったのはみな第28代の康伝である。
ここには造った像の種類は書かれていない。しかし、将軍あるいは将軍近親者たちの菩提を弔うために祀る尊像には、すくなくとも天部像の場合、いわば通例のあったらしいことが『系図』から推測できる。たとえば、康伝は徳川家宣の霊屋用に「御尊体・御尊牌・四天王」を正徳3年(1713)に造っているし、24代康知は徳川家光の霊殿用として、慶安4年(1651)に「本尊御影・四天梵天・多聞・帝釈・広目」などを造立した。本尊に通常の四天王または泉澤寺像のような組み合わせの四天の像をそえることが多かったわけである。“常憲院様”の紅葉山仏殿でも事情はおなじであったに相違ない。とすれば、泉澤寺四天像4軀は、宝永7年(1710)康伝作ということになる。
像は4軀とも細部にまでこまかく神経をくばり、謹厳ともいえる細緻さで仕上げており、後補にしろ彩色も華麗である。広目天・多聞天両像の動きを示す姿勢や梵天・帝釈天両像の衣皺表現には、逞しさ、あるいは柔軟な写実性を欠くものの、鎌倉時代風の特色が認められる。康伝はおそらく、鎌倉時代の作品に範を仰ぎながら、近世好みの技巧を凝らしてこの一具を造ったのであろう。ちなみに、『系図』には康伝の事績が30件近く記録されているが、それらのうち、前に引いた正徳4年作の四天王-持国天・増長天・広目天・多聞天の各立像は、東京都の増上寺に伝わる。泉澤寺像と同様、明治維新後に江戸城から移安された作品である。
なお、銘文に名を残す法橋兵部定慶と菊地大貳定暁は、天明3年(1783)に輪王寺木造天海僧正坐像、(注3)翌年寛永寺本地堂の木造十二神将立像をおのおの修理しているが、(注4)現時点では出自・経歴などは明らかでない。
注
- もと紅葉山の徳川家綱霊屋に祀られていた天和元年(1681)康祐作の木造四天王像のうち、2躰が東京都増上寺に伝わっており、その框座裏に同形式の朱漆書銘がある。年紀はやはり天明2年。
- この系図は「美術研究・第11号」に公刊されている。
- 副島弘道「輪王寺両大師堂天海僧正像の修理について」(「三浦古文化」第49号)参照。
- 鎌倉市後藤家蔵の台座銘に拠る。
※欠失していた梵天像の右手第2・4・5指先は、平成11年度に行われた四天立像修理において補修された。
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